第47話 それぞれの戦い

「この辺りからは、隠れる場所が少ないから気を付けてね」


 ユキミちゃんの警告通り、木々が生い茂っていた場所を抜けると、だだっ広い草原が広がっていた。


「あれ? なんだか雰囲気が変わってる?」


 さっきまで私たちがいた汚染エリアと呼ばれる場所は、マップ全体がどんよりとした色合いで統一されていたけど、目の前に広がる草原はもっと青々としている。


「ここからエリアが変わったんだよ。この辺りは通常エリアだね」

「確か他にも溶岩とか雪の場所があるんだっけ?」

「そうそう。今度色々マップ探索してみよっか。溶岩エリアとか楽しいよ!」

「危険な香りしかしないんだけど……」


 ヒナとそんな話をしながら、森を抜け私たちは草原へと踏み出していった。


 今の目的はマップ中央にある、王都グリモだ。

 チーターの人と最終決戦を行った場所で、私が初めてこのゲームで最後のパーティになれた思い出の場所。

 おそらく、ユイさんはそこにいるという話だった。


 そして草原を歩き始めてすぐ、先頭を歩くユキノちゃんの足が止まる。


「これは、探す手間が省けたわね」


 ユキミちゃんの視線を追いかけると、六人の魔法少女がいた。

 そして一人は慌てたように引き返していく。


「あれ? 向こうは十人以上集まってるんじゃなかったっけ?」


 少し前に見たマップの情報では十人以上。

 そこから時間が経過していることを考えれば、六人しかいないというのは違和感がある。


「私たちのことを探すために、手分けしてたんじゃない? 今慌てて逃げていった子がきっと連絡係だよ」


 ヒナの言葉は、確かにその通りだった。

 範囲が縮小してきているとはいえ、どこにいるのかわからない相手を探すのは大変だ。 当然と言えば当然の対処なのかもしれない。


「なら、ほかの人たちが来るまでに、目の前の相手だけでも倒した方がよさそうね」


 そしてヒナが突っ込んでいった。

 向こうもまさか、一人で突っ込んでくると思っていなかったみたいで、慌てて迎撃態勢を整えていく。


「私とユキミちゃんでヒナの援護だよね?」

「いや、そう簡単にはいかないと思うわよ」


 ユキミちゃんがそういった途端、三人の魔法少女がこっちに向かって突っ込んできた。

『ごめん、逃がした! そっちお願いね!』


 ヒナからの言葉に、慌ててステッキを構える。


 そういえば、集まってる人たちは選抜チームだってユラちゃんが言ってたっけ……。


 ヒナが一人で五人も抑え続けるのは無理があるってことだ。


「シズネさんは逃げに徹してくれたらいいわ」

「うん!」


 そして私たちの戦いが始まった。


◆◆◆◆◆


 ヒナは二人の魔法少女を相手に、今も戦っている。

 ユキミちゃんも相手は二人だ。

 そして残った一人が、私のところへとやってきていた。


 赤を基調にした衣装。帽子や肩にはやる気のなさそうな、クマのぬいぐるみがついているかわいらしい魔法少女だ。


「まったく……隠れるのが上手いやつがいるって聞いてたけど、まさか知らない子だったなんてね」


 見た目とは裏腹に、ぶっきらぼうな物言いで、手に持ったステッキを肩に担ぎながら、こっちに近づいてくる。

 なんだか気だるげな言葉とは裏腹に、戦う気満々って感じだった。


「めんどうだけど、さっさと終わらせるよ」

「私だって負けません!」


 そして私から先に動いた。


「【飛行フライ】セット!」


 そしてそのまま、まっすぐみんなとは逆の方向へ飛んで行く!


「って、お前逃げんのかよ!!」


 後ろから慌てたように、【飛行フライ】をセットする声が聞こえてくる。


 やっぱり、追いかけてきた!

 ユキミちゃんから逃げに徹するように言われていたけど、相手が追いかけてこないと、それもできなくなる。最悪ユキミちゃんやヒナのところに向かわれちゃうしね。


「でも、これなら時間は稼げるかも!」


 私のことを隠れるのが上手なやつっていっていたし、倒せるときに倒そうって魂胆なのかな?


「コラー! 待てったら待てよー!!」

「嫌ですよー! 捕まえればいいじゃないですかー!」


 そして、ヒナたちの戦いが終わるまで続く鬼ごっこが幕を開けた。


◆◆◆◆◆


 シズネの方に目を向けると、私たちから距離を取るように逃げ回っていた。

 ユキミは自力で何とかするだろうし、ちゃっちゃと片付けて、シズネのカバーに行ってあげないとなぁ。


「本当にヒナパイセンじゃないッスか! いやー、テンション上がるッスね~!」

「会うことはないと思ってたけど、まさか戻ってくるなんてね」


 そういう二人の魔法少女に目を向ける。

 片方は場違いなぐらい、ニコニコと朗らかな表情の魔法少女だった。

 服には花や動物なんかのかわいいコッペンを張り付けた、子供っぽい衣装。

 もう一人は大人びた雰囲気で、このゲームには珍しい露出度高めの衣装だった。

 この二人は確か……。


「――誰だっけ?」


「ヒナパイセンがやめてから、選抜クラスに入ったんで知らないッスよね~」

「まあ、私たちは何度もその戦いをみてるけどね」


 私がいなくなってから入った人か。

 確かにそれなら知らないのも納得だけど、私の戦いを見てるっていうのは気になるな。


「じゃあ行くッスよ! 覚悟してくださいね!」


 そして、二人は突っ込んできた。

 相手のステッキに目を向けると、両方とも【散弾サプレッション】の魔法をセットしている。

 バランスを考えれば、前衛と後衛に分かれるのがセオリーだけど、あえてそれをしないってことは――近距離戦に自信ありってことだ。


「いいね、おもしろい! それは私の専売特許だよ!」


 そして相手がステッキを振るう。先端から発射された魔法弾は私ではなく、その手前の地面にあたり、大きな砂煙が巻き上がった。


「――この戦術!?」

「これならどうッスか!」


 砂煙の奥で、うっすらと光が瞬く。

 視界の端で捉えた光は、左右両方から同時に発射された。


「ッ! 【防御プロテクト】セット!」


 【散弾サプレッション】の衝撃に砂嵐が吹き上がると、二人の魔法少女はしたり顔でそこに立っていた。


「ものまねが上手ってわけね」


 足場を撃って視界を奪い、その隙に攻撃を打ち込む。私が好んで使う戦い方の一つだ。

「パイセンの戦い方は勉強したッスからね!」

「自分と似たプレイスタイルで、自分より上手い人がいたら参考にするでしょ」


 私の戦いを見てるって言ったのはそういうことか……。

 ってことは、私の戦い方はバレてるって思った方がよさそうかな。


「二番煎じじゃ勝てないってこと、教えてあげるよ!」

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