第26話 決着

「いっけー!」


 ステッキを振るうと、いくつもの魔法弾がチトセに向かって発射される。

 でも相手に当てやすいと言われる【複射マルチシュート】でさえ、一つか二つが相手のところへ飛んでいくだけ。ダメージとしては微々たるものだ。


 私の攻撃の精度が低いのを見ると、相手はニヤッと唇をゆがめた。


「今まで何度も私から逃げ延びたのは褒めてあげるけど、こんな攻撃じゃ勝ち目はないわよ? 私を倒すとか言ってなかった?」

「くっ……」


 今はギリギリで続けている回避も、いつまで続くかわからない。

 そしてこのまま攻撃を続ければ、いつかマナが尽きてしまう。

 そうなれば、勝ち目はない。


「チートなんて使わずに、普通にゲームを楽しめないんですか」


 チートは公式が違反行為だと認めている。そんな遊び方をせずに、普通にゲームを楽しむ方法だってあるはずだ!

 ヒナはプロになれるほどの強さを求めて、チートに手を出してしまった。でも、この人は楽しむためだけにチートを使っている。

 それなら、普通にゲームを楽しむことだってできるはずなのに。


「これが私の楽しみ方よ。うまいプレイヤーも下手なプレイヤーも私の前ではみんな同じ。逃げ惑いながら私に狩られていく。こんなに楽しいことはないでしょ?」

「あります! 私はいっぱい見てきましたよ!」


 サンディーさんのように、ゲーム内での出会いを楽しむのだっていい。

 トリガーハッピーの人や【砲撃ルーインズ】の人たちのように、自分の好きな戦い方を極めるのもいい。昔のヒナのように強さを追い求めるのだって、私のように夢見た魔法少女みたいに戦うことを楽しんでもいいんだ。


「このゲームには遊び方がたくさんあります。どうしてチートなんて一番選んじゃないけないものを選んだんですか!」

「遊び方ね……それなら覚えておきなさい。チートを使って相手を蹂躙するのも、立派な一つの遊び方だって」


 確かにそれも、楽しみかたなのかもしれない。

 でも――。


「でも、人の楽しみを奪っていい理由にはなりません!」

「ならあなたが止めてみたら? 無理だろうけどね!」


 そしてすかさず魔法弾が打ち出された。

 ギリギリのところで回避し打ち返すも、こっちの攻撃は決定打にはならない。


「パルちゃん、絶対当てられる攻撃とかってないの?」


 このままいけば、私の集中力が切れて攻撃をもらい、倒されるだけだ。

 だから、その前に決着をつけないと!


「マスター! 【ソード】の魔法を使いましょう!」


 詳しい魔法の性能は知らないけど、その名前だけでなんとなくわかる。

 ならあとは探すだけだね!


『シズネ! 私が一枚持ってるからそれを使って!』

「わかった!」


 魔法弾を回避して、相手のチャージ時間を利用しヒナのお墓から【ソード】のカードを取り出した。


「【ソード】使用時のマナ消費を考慮すると、残りのマナはわずかです。一度で決めてくださいですよ!」

「わかった! いっきに終わらせるよ! 【飛行フライ】!!」


 【飛行フライ】の魔法でグングンとチーターとの距離が縮まっていく。

 私の視線は相手の目を見据えていた。

 その目に攻撃の意思が宿った瞬間――進路を変える!


「クソッ! ちょこまかと!」


 大丈夫、避けられる!。


 そして次の攻撃が来るまでの短い時間で、さらに距離を縮めていった。

 もともと近かった私たちの距離はみるみるうちに、目と鼻の先まで迫っていく。

 この距離までくれば、私でも攻撃は当てられる。


「【ソード】セット!」


 ステッキの形が変わり、魔法を纏った剣へと姿を変える。

 近距離用の攻撃魔法、遠距離攻撃主体のこのゲーム唯一の近距離攻撃手段!


「この距離なら大丈夫、いくよ!!」

「チッ!」


 再度チーターがステッキを振るう。

 大丈夫、集中すれば避けられる!


 そして私が相手の目を見た瞬間――チトセは瞳を閉じていた。


 気付かれた!?

 私が相手の目を見て、攻撃のタイミングを把握していたことがここにきてバレてしまった。


 普通なら目をつぶった攻撃なんて、当てられっこないけど、オートエイムがあれば、相手を見る必要はない。

 ステッキから魔法を放てば、自動で弾は相手のところへ飛んでいくんだから。


 でも、自動で攻撃が頭に飛んでくるってわかれば、大丈夫!


「マジカル鍋の蓋!」


 使わずにずっと持っていたネタ装備。

 普通だったら使い道のないこのアイテムも、攻撃が飛んでくる場所さえわかれば、使い道がある。


 鍋の蓋に魔法弾があたり、ガインという鈍い音と一緒に消滅していく。

 マジカル鍋の蓋が防げる攻撃は一回だけ。

 でも、この一回で十分だった!


 そのままがら空きになった、チーターの胸に向かって、私は【ソード】の魔法を突き刺した!


「これでどうだあああああ!」


 剣の形に変形した魔法のステッキが、深々と相手の胸へと突き刺さる。

 そしてチトセは断末魔と一緒に、光に包まれお墓へと姿を変えたのだった。

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