第6話 歩き始める決意!

 空から二つのお墓が降ってきて、ドスン! と地面に落下した。

 一つは【砲撃ルーインズ】を使っていた魔法少女のもの。

 そしてもう一つは……。


「ヒナさんやられちゃいましたね~」

「やっぱり、そうだよね」


 ヒナが、倒された。

 初めてのゲーム、初めての場所でいきなりの一人きり。

 ゲームのルールをなんとなく覚えたばっかりだっていうのに、これからどうすればいいんだろう?

 途端に心細くなってくる……。


「パートナーの魔法少女がやられたことで覚醒する! これは熱血魔法少女っぽくていいですよ! さあマスター覚醒の時です!」

「いやいや、覚醒なんてできないから!」


 っていうかパルちゃんの思う魔法少女はずいぶんと変わっている気がする。


『おーい、シズネ~。敵は倒せてた~?』


 あぁ、あまりのショックでヒナの声が聞こえてくるよ……。


『シーズーネーさーんー! 聞こえてるでしょー!』

「あれ? ヒナ?」

『うん、倒されても声は届くからね』

「あ、そうなんだ」


 さすがゲーム……。


『それでどう? 敵はしっかり倒せてた?

「うん、ヒナのお墓と敵のお墓、両方あるから大丈夫」

『ふー。最悪の状況は回避できたかな』


 確かにこれで、敵を倒せてなかったらそれこそ大変だった。


「ねえ、さっきの戦いって、何が起こったの?」

『簡単に説明すると相打ち狙いの特攻だよ。私がステッキで殴った相手はマナ回復用の宝石を持ってなかったんだよね。でもそれだと空に浮いてる相手に攻撃できないでしょ。だから初めに倒された魔法少女のお墓を調べに行ったの』

「確かそこで宝石を回収したんだよね? ならそのマナを使って攻撃すればよかったんじゃない?」

『相手が【砲撃ルーインズ】を撃つのに間に合わないからね。だから突っ込んで爆発させて相打ちを狙ったってわけ』

「なんか無茶するね」


 とはいえ、装備もアイテムもほとんどない状況から二人を倒せたんだから、すごいと思う。

 私が何か手伝えていれば、ヒナは倒されずにすんだのかな?


『とりあえず、私のお墓にアクセスしてみてよ。ソウルリングってアイテムが回収できるからさ』

「ソウルリング?」

『うん、復活用のアイテム。味方のリングを回収して特定の場所へ持っていくと仲間の復活ができるんだ』


 おぉ! ここからは一人で頑張らないといけないと思っていたけど、復活したらまたヒナと二人でゲームができるんだ!

 それは確かに狙っていきたいね!


「うん、わかった!」


 ヒナのお墓に手を添えてアクセスすると、持っていたアイテムが表示される。

 へぇ、こうやって相手の持ち物をもらえるのか……。

 そしてそこにあるソウルリングを回収する。


 ソウルリングは名前の通り指輪の形をしていて、側面には『ヒナ』と名前が彫り込まれている。中央の宝石にはゆらゆらと揺れる光が灯っていた。

 私はその指輪を自分の指に装着する。


 よし、これでヒナを復活させれば万事解決!

 そう思っていた時、パルちゃんの緊張した声が敵襲を告げた。


「マスター! 足音です! 五時の方向から二人!」


 振り返ると、二人の新しい魔法少女がそこに立っていた


『シズネ! 逃げて逃げて!!』


 三角帽子に黒いコート姿の二人組。魔法少女というよりは、古典的な魔女の装いに見えるその二人が、ステッキを振り下ろすと、ヒナが使っていた【単射シングルシュート】の魔法が飛んできた。


 そしてそこから、私の逃亡劇が始まったのだった。


◆◆◆◆◆


 ハァハァハァハァ……

 なんでゲームなのにこんなに疲れるのよ!


 どんどん重くなっていく足を引きずるようにして森の中を走っていく。

 息をするのが苦しくなってくるけど、なぜか汗は出てこない。

 ゲームだからだろうけど、なんだかこれはこれで違和感がある。


 そして、また後ろで近くの木に魔法弾が直撃した。

 衝撃に吹き飛ばされると、ベチャッとドロの中へダイブしてしまう。

 口の中までドロが入ったみたいで、ジャリジャリした気持ち悪い食感が口いっぱいに広がった。


『大丈夫?』

「な、なんとか」


 そしてまた走り始める。

 ヒナのアドバイスを聞いて、近くの森へ逃げてからは木々が壁となって相手の攻撃が届きづらくなっていた。

 それでも、追いかけてくる敵から逃げるだけで体力も気力も尽きてきそうになる。


「こ、このまま逃げてればいいんだよね?」

『うん、もっと森の奥まで行けば、たぶん逃げ切れるから!』


 そして私は重い脚と苦しい胸に鞭打って、さらに走り続けていく。


◆◆◆◆◆


「こ、攻撃がこなくなった?」


 逃げ続けること十五分。ようやく相手からの攻撃は来なくなっていた。

 っていうかしつこすぎる!! もっと、早くあきらめてよ!!

 呼吸を整え、木に背中を預けてちょっと休憩。


 自分の体を見てみると、かわいい魔法少女の衣装はドロで汚れて見る影もなくなっていた。

 手とか足には小さな傷がたくさんあるし、衣装もところどころちぎれたり焦げ付いている。


 はぁ……。

 私の思っていた魔法少女はこんなのじゃないのになぁ。


 もっとキラキラしていて、楽しくって強くって勇気があってかっこいい存在。

 そんな存在になれるかもしれないと思って、このゲームを始めたのに……。

 弱気な私がゲームで変われるかもしれない。そんな風に思っていたのに、気が付いてみたら逃げてばっかりだ。


 今の私を見たって、誰も魔法少女だなんて思わない。

 せいぜい魔法少女に憧れている女の子。それも泥だらけな。


「私……魔法少女になれないのかなぁ」


 弱気になった心からこぼれるようにそんな声が漏れていた。

 誰かに励ましてもらおうとか、慰めてもらおうとか、そんな思いはなくって、ただただ漏れ出た言葉だったけど、私の言葉に力強い返事が帰ってきた。


『なれるよ!』


 表情は見えないけど、ヒナの声が聞こえてくる。


「シズネだったら、かっこいい魔法少女になれるって! 今だってすっごくかっこいいし!」


 かっこいい?


「でも、泥だらけだし逃げてばっかりだよ?」

「うん、かっこいい! 『一歩踏み出す勇気が最強の魔法』! これ、このゲームのうたい文句の一つだよ」

「一歩踏み出す……なんかかっこよすぎてちょっと恥ずかしいかも」


 こういうのはキライじゃないけどさ。


「確かにね。でも、シズネはゲームを始めたしゲームに勝つために相手から逃げ切った! これって一歩踏み出したことにならないかな?」

「逃げてるだけだよ?」

「勝つための一歩だよ! 私はそういうのすっごくかっこいいと思う! 勝つのをあきらめて、逃げちゃうより何倍もかっこいいよ」


 勝つために一歩を踏み出す……私の夢見た魔法少女はどれだけ苦しい状況でもあきらめずに一歩を踏み出していた。

 そうなりたいって臨んだ私が、ここで逃げちゃだめだよね。


 よし――なら頑張ってみる!!


「ありがと、私頑張ってみるよ」

「うん!」

「いや~、いいですね~。仲間の言葉で立ち上がる! 魔法少女らしくて最高です!」


 パルちゃんの言葉を聞きながら立ち上がる。

 こんなところでじっとしてられない! 勝つためにも、まずはヒナを復活させなくちゃ!


「衣装の修繕を行いますか? 体の傷やドロなんかもすべてきれいに落とせますよ?」

「そ、そんなことできるの?」

「はい! 魔法少女はかわいくないとですからね!」

「う~ん……修繕はお願い。ただ泥はこのままにしてもらえないかな?」


 私の返事を聞いて、驚いたようなヒナの声が返ってきた。


「きれいにしなくていいの?」

「うん、たぶんこの先必要になるからね」


 そして私はもう一度立ち上がって歩き始めた。

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