佐藤くんの失われた××

名苗瑞輝

第1章 佐藤くんの失われた××

プロローグ

 幼い子供の夢を、このところよく見る。

 夢は脳による記憶の整理であると聞いたことがあるが、夢で起きた出来事も、夢に出てくる子供達のことも、あまりよく知らない。

 それは知らないと言うよりは、忘れてしまっているのだと、最近は思っている。


 そして今日も、そんな夢を見ている。

 今回の夢は初めて見るものではなく、過去にも同じものを見ている。

 ただ最後の言葉がどうしても聞き取れなかった。多分記憶として欠落しているからだと、俺は思っている。

 思っていたのだが……。


「────」


 今回、初めてその言葉を聞き取ることができた。

 そして目を覚ましてもなお、記憶として残っている。


 * * *


 その日、俺は彼女と二人で出かけていた。

 帰り際、彼女はこう問うた。


 ──あの日の約束を覚えているか。


 約束、それは何度も見たあの夢で、最後に少女が発したあの言葉。

 つまり、彼女こそがあの少女で間違いないだろう。


「────だろ?」


 今朝夢で見たあの夢の言葉を俺は口にした。


 ──そんな約束していない。


 それが彼女による答え合わせだった。


 何故こんなことになってしまったのか。

 俺は彼女と出会い、今に至るまでの記憶を辿ることにした。

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