生け贄聖女は邪神様のお嫁さん!?~なぜか邪神様がめっちゃ私にびびってるんですけど?~

しましまにゃんこ

第1話 贄の聖女

 

 ◇◇◇


「メアリー、どうかいかないで。あなたが行くなら私も一緒に行くわ!絶対に、あなたひとりを死なせない!」


 ハラハラと涙を流しながら泣き崩れるキャサリン様はこの国の公爵令嬢であり、大聖女として崇められている尊い女性だ。


 卒業後は、この春成人を迎えた王太子の花嫁として王宮に迎えられることも決まっている。


 尊い身分でありながらちっとも偉ぶったところのない優しい人。


「私も行くわ!」


「いっそ皆で行きましょう!」


「そうよ!全員で立ち向かえばきっと怖くないわ!」


「メアリーひとりが犠牲になるなんておかしいわ!」


 周りを囲む学友達も泣きながら引き留めてくれる。


「キャサリン様!皆さん!いいえ。それはいけません。キャサリン様は民の崇める偉大な聖女様。キャサリン様になにかあれば、国は混乱に陥ってしまうでしょう。民のためにも、どうかそのようなこと二度とおっしゃらないで下さい。聖なる力を持つ皆さんも国にとって大切な存在です」


「違うわっ!私は、私は聖女なんかじゃないっ!私には、貴方のような力なんてないのにっ!」


 ポロポロと涙を流すキャサリン様の手をそっと握る。


「キャサリン様、お優しいあなたは紛れもなく聖女です。あなたの心は誰よりも清く、美しいのだから。あなたは私の命の恩人。この国の安寧とキャサリン様の幸せを心から祈っています」


「メアリー……」


「皆さん、ごきげんよう。どうか、お元気で」


 魔法学園の卒業式の日。キャサリン様は『光の聖女』に、私は『贄の聖女』に選ばれた。


『光の聖女』は国の象徴として表舞台に立ち、民を導くのが役目。『贄の聖女』は、その身を邪神に捧げ、国の安寧を祈るのが役目だ。


 私が所属していたのは、将来『聖女』として活躍することを期待されている人が集められたクラスだった。


 様々な年齢の人が入り混じっていたが、キャサリン様を初めとして皆さん非常に高い自己犠牲の精神と高潔な人柄を持っており、孤児院出身の私にも分け隔てなく接して下さった。


 ただ、やはり身分は将来に影響するもので。聖女としての能力の高さに関係なく、尊い身分の人は尊い地位に、低い身分のものは低い地位に付くのだ。


 誰よりも聖女としての力が強く、誰よりも身分の低い私。邪神様の生け贄に選ばれることは、この学園に入る前から決まっていたのだろう。


 実は私は公爵がメイドに手を付けて産ませた私生児で、こっそり孤児院で育てられたのだ。10歳の頃珍しい聖魔法が使えるからとお屋敷に引き取られたものの、娘として扱われることはなく召使いとして扱われていた。


 父親のはずの公爵様とは、顔を会わせたこともない。もちろん私も親子だなんて思っていないし、なんの情も湧かない。


 でも、キャサリン様は違う。私を良く思っていない奥様と使用人達から酷い折檻を受けていたとき、いつも庇ってくれていたのがキャサリン様だ。


 私の、血の繋がったたった一人の妹。キャサリン様は私が姉であることを知らないけれど、それでいい。あの子は表舞台で、綺麗なものだけに囲まれて生きていてほしい。私は愛する妹の守るこの国のためなら喜んでこの身を捧げようと思う。


 今日私は、魔の国で魔物達の王たる恐ろしい邪神様に嫁ぐ。

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