第36話:鉱山の現場と、三度あったことは四度目も……


「すみません、服買うのがまた遅れちゃって……」

「構わないさ。仕事だから仕方がないし、むしろ仕事があるのことは良いことだからな」


 アインの頭を挟むようにして並んで立つ一馬と瑠璃は、そんな会話を交えつつ、目的地の鉱山へと向かってゆく。

 

 昨晩、アインのシールドバンカーの威力を見て声をかけてきたのは、近くの鉱山の現場監督だった。

 彼の話によると、洞窟で落盤が起き、作業が滞っているとのこと。

 そこでアインのシールドバンカーで、坑道を塞ぐ岩を破壊してほしいらしい。

 

「なんだかここ最近、この辺りってトラブルばっかですね」

「どうやら、この辺りで冒険者らしき人物が暴れまわっているらしいな」

「冒険者が?」

「とは言っても、正式な依頼を受けた上で、その結果色々と起こってしまっているらしい。川が岩でせき止められたのも、大量のビッグワイルドボアが下山してきたのも、その冒険者とやらが戦った影響のようだ」


 そいつが無作為に暴れて色々と問題を起こしているからこそ、こうして仕事にはありつけているし、順調に金を溜まってきている。

しかし喜んでいいような、良くないような、複雑な心境の一馬だった。


「マスター、こちらです! 現場到着です!」


 木々の向こうから、依頼主と共に先行していたニーヤの声が聞こえてくる。

 その声に従って森を抜ければ、ばぁんと視界が開ける。

 

 一面灰色の世界。昔のテレビヒーロー番組で、ヒーローと怪人が戦っていたような、そんな場所。

 ところどころに石が散らばっているのは、鉱山だからなのか?

 

「随分と荒れているようですね。何かあったのですか?」


 アインから降りた瑠璃は、早速依頼主へ問いかけた。

 

「参っちまいますよ、実は先日ここで冒険者って名乗る輩と、飛竜が戦いやがりましたね。おかげで穴だらけにされるわ、坑道を塞がれちまうわ、散々でしたよ」

「また、冒険者ですか……」


 もしかするとこれまでの一連の騒動は、同一人物の仕業なのではないか。

 

(全く、だからなんで迷惑な奴しかいないんだよ……)


 一馬は辟易とし、自分だけはなるべく自分だけは周りに迷惑をかけないようにしようと心へ刻む。


 依頼主の指示に従って、アインを先頭で坑道の中へ進ませ、自分たちも続いて行く。

まずはこの奥にある大岩を除去してほしいとのこと。

 

「……?」


 道中、先行するニーヤが立ち止まり、背筋を伸ばした。

 

「ニーヤ、どうかしたの?」

「……何かが聞こえます……生体反応あり! 奥です!」

「あ、ちょっと!?」


 ニーヤは光の剣を発生させつつ、坑道の奥へと駆けてゆく。

 慌てて、一馬たちが追いかけてゆくと、

 

「くそっ! くそっ! 悪魔! 鬼畜! 変態! ロリコン! バーカ! バーカ! カズマとちびっ子のバーカ!」

「異物排除!」

「ひやぁあ!」


 光の剣がブンッ!と闇に奇跡を描いて、固い何かがカランと地面へ落っこちる。

 

「お前、ここで何してんだ?」


 一馬は尻もちを突きつつ、涙目の赤いゴーレム使いの【ドラグネット=シズマン】へ問いかけた。

 

「ななな!! なんで、ここに悪魔鬼畜変態ロリコンゴーレム使いのカズマとドチビがいるんだぁ!?」

「質問を質問で返すなよ。てか、俺の名前そんなんじゃないし、第一長い!」

「マスターへ素直に白状してください。ここでお前は何をしていたのですが、糞チビ」


 ニーヤは冷ややか声で、冷たい輝きを放つ剣を突きつける。

 すると瑠璃が脇を過って、ドラグネットの周りに転がっていた鈍色の鉱石を拾い上げる。

 

魔法上金属ミスリルか。ここは君の鉱山なのか?」

「あ、えっとぉ……」


 瑠璃の鋭い声に、ドラグネットは明後日の方向を向く。

 

「無断採掘か」

「だ、だって、こんなボロボロで、誰もいないし廃鉱山だと思ったんだもん! お金だってないし、カズマを倒すギルバート作ろうと思っても材料ないし、だからぁ!!」

「泥棒ですね」


 ニーヤは冷たい声を出し、

 

「泥棒か」


 瑠璃は哀れむように見下して、

 

「泥棒ね……」


 喧嘩を吹っかけてきたのはドラグネットの方なのだが、なんだか気の毒に思えて仕方がない一馬なのだった。


「一馬君、どうするか? 煌帝国で窃盗は重罪だ。逆に捕まえたものには、最低でも金貨2枚は支払われる」

「ならば、早速この迷惑糞チビを金貨2枚に代えてやりましょう、マスター」


 ニーヤが冷ややかな視線を送ると、ドラグネットは「はひぃ!」と短い悲鳴を上げ背筋を伸ばした。

 後ろは岩で塞がれ、喉元にはニーヤの光の剣。まさに袋のネズミである。

 

「金貨2枚か……」


 ドラグネットを突き出すだけで、平均月収の半分。鉱山での仕事は手付金で2枚、成功報酬で更に2枚。

 これまでの収入を合計すると、約2か月は余裕で暮らして行ける。

 瑠璃へ服は買ってやりたいし、今後のことを考えて色々と揃えても置きたい。

 金はいくらあっても足りない状況である。

 

「あ、あたしをどうするつもりだぁ! 鬼畜! 変態! ロリコン! バ、バーカ! バーカ!!」


 と、ドラグネットは強気な風にそう叫ぶも、ずりずりお尻歩きで、下がって行く。

 その度にニーヤが歩を進めて、刃を喉元へ突きつける。

 

「ちょっとお兄さんと良いお話しようか」

「く、くるなぁぁぁ!! いやぁぁぁ――!!

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