第8話:仕切り直しの初陣


 巨大なカマキリの魔物は姿を現すなり、顎を開いて奇声を発した。

 明らかな攻撃サイン。

 

 一馬はまずは牽制にと、アインの左腕からワームアシッドを放った。

 強力な酸が巨大カマキリにぶつかって飛び散る。

 

「キチチ!!」


 体表を溶かされたカマキリは、不愉快そうな声を上げ、怯んだ。

 しかしオークの時の様に、戦闘不能へ追い込むことはできず。

 やはりこのスキルは“小型魔物用”のスキルで、巨大な相手には牽制程度の威力しかないのだと思い知る。

 

 それでも一馬はワームアシッドを放ち続け、けん制を続けた。

 

 さすがの巨大カマキリも怒ったのか、激しい奇声を放ち、その場で乱暴に鎌を振り回す。

 その動作から風を感じた一馬は咄嗟にアインへ斬魔刀を垂直に掲げさせ、僅かに横を向かせた。

 

 刹那“ガキン!”と、空気の刃が斬魔刀に当たり、はじけ飛んで行く。

 

 もしも斬魔刀を掲げず棒立ちをしていたら、今の空気の刃にアインは真っ二つにされていただろう。

 しかしこれが大技だったのか、カマキリの動きがやや鈍く、ゆっくりと鎌を下げている。

 

(もう一度ワームアシッド!)

 

 一馬はカマキリの頭へ向けて、再度強酸の毒液を放つ。

 

「キチチチチっ!!」

 

 頭を焼かれ、カマキリとはもだえ苦しむようにその場で地団太を踏む。

 その隙にアインはできるだけ素早く、カマキリの懐へ飛び込んだ。

斬魔刀を高く掲げ、そして勢いよく振り落とす。

 

「ヴォォォォっ!!」

「キチチっ!!!!」


 斬魔刀がカマキリの頭へ食い込んだ。良攻撃ベストヒット

しかし、一撃必殺ではない。

 ならばと、すぐさま斬魔刀を引き抜き、掲げ、再度鈍重な刃を叩き落す。


「死ね! 死ね! 死ねぇぇぇ!!」


 それを繰り返す。

 カマキリは必死の抵抗を試みるも、腕の内側へ入り込んだアインを捉えることができず空気を切るばかり。

 一馬は何度も、何度も、カマキリの頭へ刃を鈍器のように叩きつける。 


「これで終わりだぁぁぁ!!」


 斬魔刀が巨大カマキリの頭を叩き潰した。

 頭を失った魔物は崩れるように倒れてゆく。

 

 斬魔刀は対巨大魔物用ではあるものの、基本的な戦術は相手のタイミングを計って“頭部”を狙うことにある。

しかし巨大なアインならば、頭を狙うなど簡単なこと。

 

(さすがは斬魔刀。すごい威力だ……)


やはり巨大な敵には、同じ規格の存在をぶつけるのが一番だと一馬は改め思うのだった。


 倒したカマキリはアインの素材にするか、それとスキルに変えてしまうか。

素材として使いたいのは山々だったが、今は加工や改修をしている暇は無い。

 故に、一馬はカマキリをスキルに変えると決めた。


 巨大人形を中心に風が巻き起こり、カマキリの死骸を包み込む。

やがて頭を叩き潰されたカマキリは光の粒となって消え、アインへ吸い込まれてゆく。

 


【スキル獲得】*エアスラッシュ



 一瞬で、スキル獲得に必要な魔光を集められたことに、一馬は静かにガッツポーズを取った。


 更に進むと、もう一度巨大カマキリが姿を現す。

 この大きさの魔物が平気で出て来るここは、どこかの迷宮だった場合、相当な深層なのかもしれない。

 

 しかし一馬が恐れ慄くことは無い。

 

 胸には正しき怒りと仲間の身を案じる優しさ。

そして強大な敵に立ち向かえる“アイン”という力があるのだから。

 

(悪いが試し切りの的になってもらう!)


 一馬はアインの操作へ意識を集中させる。

 そして斬魔刀が装着されている右腕を掲げた。

 

「エアスラッシュ!」

「ヴォッ!」


 アインは斬魔刀を勢いよく振り落とす。

刃の軌跡に沿って、青白いギロチンのような衝撃波が発生し、飛び出してゆく。


「キチ、チ……!?」


 カマキリはアインへ接敵する前に、青白い刃に真っ二つに両断され、崩れ去った。

 

(なるほど、エアスラッシュはそのまま、空気の刃を放つ“必殺技”のようもんか)


 しかし手放しでは喜べなかった。

 一馬は斬魔刀を伝って、アインの右腕をよじ登る。

 そして手にした石で、右腕の関節の要である、飛び出してしまっていた“金属シャフト”を打ち込んだ。

エアスラッシュの風圧の影響で、金属シャフトが外れかかっていたのだ。


 だが、さすがは優秀な鍛冶士である瑠璃が作成した金属シャフト。

歪みは愚か、破損さえ見受けられなかった。

 どうやら問題はアイン自体にあるらしい。


 スキルは強力。瑠璃のくれた金属シャフトも、エアスラッシュに耐えられるくらい丈夫。

 しかしアインの機体性能がスキルと金属シャフトに追い付いていない。

 

(エアスラッシュはいざという時の技にしよう。満足に技を使えるようにするには、アインのフレーム強化を最優先にしないと)


 発見はあった。アインで、この場をなんとかしのげることも分かった。

しかし生還するためにはまだ足りない。


(あとは俺自身の問題だ)


 最低限の道具、僅かな水と食料。

なにか代わりになるものを発見できねば三日足らずで、食料もアイテムも底を突いてしまう。

 いくらアインが強くなったとしても、操る自分が弱ってしまえば意味がない。

 それに今は巨大な魔物しか出会っていないが、きっと人間サイズのものもいるはず。

そうした敵への対処方法も考えなければならなかった。


 問題は山積みである。しかしすべては生還し、瑠璃を救い出すために必要なこと。

 

 挫けるわけには行かない。


 ふと、ほの暗い闇の向こうに、僅かに赤い光が差し込んでいることに気が付く。

 

(あれはなんだ?)


 今は考えるよりも行動をすべき時。迷っている時間が惜しい。

 一馬は赤い輝きを目指して、洞窟を進んでゆくのだった。


 



【木偶人形:アイン】現状(更新)



★頭部――鉄製アーメット


★胸部及び胴部――丸太


★腕部――伸縮式丸太腕部×2

*攻撃スキル:ワームアシッド


★脚部――クズ鉄棒・大きな石


★武装――斬魔刀×1(右腕装着)

*必殺スキル:エアスラッシュ NEW!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る