多様性を認められない社会に生き辛さを感じる全てのマイノリティ達へ捧ぐ

 『アナグラム』と云う作品はミステリであり、クライム・ノヴェルでもある。

 だからこそレビュワーは慎重の上にも慎重を期して、内容の暴露を伴わないレビュウを執筆することに腐心しなければならない………。

 大阪府下で起こる殺人事件とその解決のために、典型的なタテ割型官僚組織である警察署の縄張り意識を、颯爽と踏み越える権限を有した若き警視・一条櫻子。
 部下の笹部君(頭脳担当)と篠原君(脳筋担当)を駆使しながら事件を解決に導いて行く。

 表面上の概要をなぞると、この程度のレビュウにしかならないのだが……この作品の奥底には二つの大きな流れが横たわっているように感じられる。

 まず第一に『少数派を認めない世界への絶望』とも云うべき、深い悲しみが込められた閉塞感の叫びが……第一部と第二部の主旋律として胸に迫る哀歌を構成しているかのようだ。

 そして第二にタイトルの『アナグラム』とあるように、殺人事件の解決に重要な役割を果たす言葉遊びを『誰が何のために』作るのか?
 更には一連の事件の裏側には、一条櫻子警視の過去と密接に関連した『誰か』の影も見え隠れする。

 作中人物の背負った業や過去の疵……二つ目の流れであるそれらが解明される時にこそ、この長大な『アナグラム』と云う作品も解きほぐされて、読者の心にストンと収まるのかも知れない。

 第二部完了時点で一条櫻子警視には、色恋の起こる気配が微塵も感じられないのだが……今後はそのような展開にも期待しつつ、次話からの第三部の再開を期待いたしております。


2021.3.6
   澤田 啓 拝