第6話:娘が出来ました。


「ちょ……ちょっと待ってくれ。無理ってどういう……」

『私と君は存在レベルで同化してしまったのよ。もう分離するのは無理ね』


 待って、待って待って待って待って!


「それって、俺が六竜になっちまったって事か!?」

『うーん、厳密にはちょっと違うけど、広い意味ではそういう事になるわね』

「待てよ! だってせっかく娘が助かったのに母親が居ないんじゃこの子はどうなるんだ!?」


「うーん……ママ……」


 少女が小さく声をあげ、うっすらとその眼を開いた。


 母親譲りのサラサラした美しい金髪。まるでキラキラとした粒子を周りに振りまいているようで目が眩みそうだ。

 そして大きく純粋な輝きを秘めた紫色の瞳。

 小さく艶やかな唇。

 可愛い。


 断じて俺はロリコンなどでは無いし、子供はどちらかというと嫌いな方だが、この子は可愛い。間違いない。


『ちょっと、私の娘に良からぬ感情を抱くのだけはやめてよね』

「そんなんじゃねーって! てか人の思考を勝手に読むんじゃねぇよ! ……え、まさかずっと俺の考えって筒抜けなの?」


『……仕方ないじゃない。私はもう貴方なんだから』

「だったらなんで頭の中であんたの声がするんだよ!」

『私という存在とただの人間が等しい割合で混ざり合うなんて不可能でしょう?』


 ……? という事は……。


「もしかして俺ってあんたに乗っ取られるのか……?」

『やろうと思えば出来るわね。でもそんな事しないわよ。私はそこまで身勝手じゃない……貴方には恩ができたもの』


 よかった……。本気で人生終わったかと思った。


「……ママ?」


「ほら見ろ! 騒ぐから起きちまったじゃないか! お前が居ないのをどう説明したらいいんだよ」

『騒いでるのは君だけなんだけどなぁ……それに私のイリスは大丈夫。私の娘なのよ? 気配くらいきちんと理解できるわ』


 それってどういう……?


「ママ?」


 完全に目を覚ましてしまった少女が俺の袖をぎゅっと掴んで不思議そうに見上げてくる。


「お、おい……あのなイリスちゃん、俺はその……」

「ママ♪」


 イリスがベッドから上半身を起こし、俺の腰のあたりに抱き着いてきた。


「いや、俺はお前のママじゃ……えっと……違うとも言えないのか? おいほんとどうするんだよコレ……」


「ママ♪ ママ♪」


「あのね、俺はミナトって言うんだよ。確かに君のママと同化しているけれど君のママじゃないんだ」


『よく考えたら六竜の私が名乗ったのに君は名乗らなかったね? 不敬じゃないかしら?』


「……俺はミナトだ。俺と同化したならそれくらい分かるだろ」

『分かるけれど知っちゃったのと名乗ってもらうのじゃ全然違うわよ?』

「うるせぇなぁ……」


「ママぁ?」


「あ、いや今のは君に言ったんじゃなくてね? 頭の中の君のママに言ったっていうか……あぁもう何言ってるかわかんねぇ!」


『一応言っておくけど君から私に話しかける時は声に出さなくて大丈夫だよ?』


 ……そういうのは先に言ってくれよ。


「とにかく! 俺は君のママじゃないんだって。ほら、俺男だから!」

「……? でもママだよね?」

「困ったな……だからね?」


『……ごめんなさい』


 待て、なんで今謝った。というか謝るならもっと前の段階じゃないのか!?


『その……等しい割合で同化するの難しいって言ったでしょ?』


 ……嫌な予感がする。


『だから、その……ごめんなさい』


 今までイルヴァリースが同化してしまったなんてトンデモ展開に驚いて全然気にしてなかったけれど、よく見たら……。


「……俺、胸膨らんでるんだが」

『ご、ごめんて……』


「バカな……」


 そんな馬鹿な事があるか!


 俺は少女の目の前だというのに焦りのせいでそれどころでは無かった。慌てて下半身を触る。


「……無い、だと……?」

『ごめんちー♪』


 終わった……。俺の俺がどこかへ消えうせてしまった。胸が膨らみ、有る筈の物が消失し、今気付いたけど俺髪の毛伸びてるし金髪だしなんだコレ……。


『だ、大丈夫! これに関しては身体が馴染んで自分でバランス取れるようになれば元に戻るからっ! ね?』


「……ほ、ほんとに?」


『……た、ぶん?』


 終わった。もう駄目だ。せっかく生き返ったっていうのにいきなり俺が俺でなくなってしまった。この先どうやって生きて行けば……。



「ママ、だいじょぶ? どこかいたいの?」


 崩れ落ちた俺の頭をイリスがよしよしと撫でた。

 なんという天使……!


 なぁ、ママドラよぉ、ほんとにこの子どうするんだよ。こんな天使をここに一人置いていくのか?


『ママドラって何よ……というか何を言ってるの? この子の親になったのよ君は』


「……えっ?」


 嘘だろ、俺子持ちになったの?


 前世でイカレ女に殺され転生先で彼女に殺され自分の魂を引き換えに生き返ったらドラゴンと同化して女になって子持ちになった。


 俺の人生ってもしかして呪われてるのかな?


『何てこと言うのよ。こんな美人なおねーさんとひとつになれたのよ? 喜んでよっ!』


 言い方ァっ!!


 ヤバい。俺は何のために生き返ったんだ。

 ここでドラゴン幼女の親になる為か? 違うだろ……?


 誰か違うって言ってくれよ……。


「ママ……? まだどこかいたいの? よしよし……いたいのいたいのとんでけーっ!」


 ぐぅっ! 可愛すぎかちくしょう……!

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