第17話 僕の部活再開

 放課後になり、部室へ向かう。

「ねえ、まだ着かないの?」

 奈菜から苦情の一言を頂いた。

「七瀬さん、仕方ないですよ。同好会は旧校舎に押し込められてますから」

 三宅氏がフォローを入れてくれる。我が「ラノベ同好会」は同好会という事もあり、1年生の校舎とは対極にある、寂れた旧校舎4階の一番奥の部屋が割り当てられている。他の同好会も同様で、この旧校舎は別名「陰キャ棟」と呼ばれている。

 その「陰キャ棟」の一番奥の部屋が割り当てられている辺りで僕たちの扱いが分かろうというものだ。

「別に無理して入らなくてもいいんだよ」

「無理なんかしてないわよ。どこかに所属した方がいいらしいから、優弥の側の方がフォローし易いでしょ。それに本(漫画)は好きだしね」

「俺も野球辞めてから何のしてなかったんだけど、ずっと暇だったんすよ」

 壱号と弐号も今日は他の予定があるらしく不参加だが、入部はするそうだ。計4名も新規部員を獲得できた。これで部に昇格できるぞ。


「ここだよ」

「ここ! 汚い所ね」

「そうっすね」

 さて、1年ぶりの部活動だ、部長はいるかな?

 ガラガラ。扉を開いて部屋に入る。

「あれ。ここってラノベ同好会だよね」

「そうですよ」

 同好会の部屋に入ると見知らぬ女子がいた。

「貴女は南雲さんですね。私は1年5組の有栖川です。部長からお話は聞いてます。本日から復帰ですか」

「え、うん。えっと部長は?」

「部長は今日は彼女とデートだそうです」

「彼女!」

 部長に彼女だって。あの裏切り者め。3次元には興味無いって言ってたのに。

「ちょっと、優弥邪魔よ。そこに居たら私たちが中に入れないでしょ。寒いんだから早く入ってよ」

「ああ、ごめん」

 衝撃の事実に愕然としていると奈菜に怒られてしまった。

「南雲さん、そちらの方々は?」

「あ、入部希望者です」

「え、二人も!」

「あと二人いるけど、今日は来れないみたいで」

「一気に四人も」

 有栖川さんは部員が急に増えることにボー然としている。あれ、有栖川って……。

「驚いている所に申し訳ないんだけど、有栖川さんって、僕たちの担任の有栖川先生とご姉妹ですか?」

 だって、目とか結構似てるし。

「ぷっ。ご姉妹って。あれは私の母ですよ。南雲さんも母さんに見事に騙されてますね」

「「「えーーーーー」」」

 今度は僕たち3人が驚いた。まさかあの先生に僕たちと同じくらいのお子さんがいる様には全く見えないからだ。どっから見ても大学を出たてのお姉さんって感じで20代にしか見えない。 

「無駄に若作りですからね、うちの母」

「とても信じられないわね」

「俺、あの先生に憧れてたのに……」

 どんまい、三宅君。

「有栖川さん、部長がいないのは分かったんだけど、椎名は?」

「ああ、あの人は――私が入部したら来なくなっちゃいました」

 なるほど。彼奴は重度の女性恐怖症だからな。そりゃ有栖川さんがいたら来なくなるわなあ。今度、校内で探してみよう。

「となると、活動は有栖川さん一人?」

「はい。ここ数か月は誰も来られていないです。やっと仲間が増えて嬉しいです。しかも女子がいるなんて」

 有栖川さんが俊敏な動きで奈菜の前に移動し、奈菜の手を握っている。

「よろしくね」

「えっ、いつの間に! ええ、こちらこそよろしく」

「ふふふ。1組の七瀬さんですね。そちらは2組の三宅くんですか。二人とも私の手帳に掲載済みですよ。ふふふ。七瀬×水瀬。三宅×新庄。どっちもありね」

 有栖川さんからとてつもない腐のオーラを感じる。僕は本格的に何かに目覚めている様だな。

「ねえ、部長いないんなら、優弥が部長しなさい」

「何で僕が……」

「創立メンバーが優弥しかいないからよ。分かったらさっさと生徒会室へ行くわよ」

「生徒会室?」

「部への昇格して貰うんでしょ。さっさと部にしてもらって、もっといい部屋に移動しましょ。この部屋じゃ狭すぎよ」

 確かにね。4畳分くらいしかない部屋に本棚を押し込んでいるので、4人もいれば閉塞感を感じる。部になれば、本棟の方に部屋が貰えるはずなので、もっと広い部屋になるはずだ。

「それはいいですね。皆で行きましょう」

 有栖川さんも乗り気だ。僕は部長という柄ではないのだが。それに現部長はどうなるんだ。

「いや、部長はちゃんと瀬戸っていうのが居るから――」

「でも、有栖川さんの話によるとここ数か月ほどは出て来てないんでしょ。首よ首」

「そうですね。あの方は今やラノベより愛に生きるって言ってましたから、退部扱いということで良いのではないでしょうか」

 瀬戸ぉ。お前は本当にそっちの世界に行ってしまったんだな。リア充という異世界に……。さらば瀬戸よ。お前の事は即効で忘れてやるよ。この裏切り者め。

 って僕にも瑞樹っていう彼女がいるじゃないか。例え偽カノでも、彼女は彼女だ。瀬戸の事を悪くは言えないな。すまん瀬戸。


「ほら、さっさと行くわよ」

「分かったって。引っ張らないでよ」


「ここが生徒会室!」

 生徒会室の前に来たのだが、その門構えの立派さに驚いた。となりの校長室の2倍の大きさがある観音開きの重厚なドアに金色の取っ手が付いている。

 ごくり。

「入らなくちゃダメかな」

「ほら、行くわよ」


 ドンドンドン

 奈菜、それはノックというより殴打だよ。

「たのもー」

 道場破りにでも来たの。

「失礼しまーす」

 奈菜の後ろからこっそりと中に入る。

「ここは生徒会室だが何か用かね。1年1組七瀬君と南雲君、それに2組の三宅君に5組の有栖川君」

 一番奥の席に座る会長と思しき方が僕たちの名を告げる。凄い、僕はこの会長には会ったことが無いのに、僕の事を把握している。

「ほら、優弥」

「え、うん。あの、ラノベ同好会の――」

「却下だ」

 まだ、何も言ってないのに。

「何でよ! 5人以上部員が要れば部にできるんでしょ」

「確かにその様に規約では決められているが、何でも認められるわけでは無い。きちんとした活動実績を残して貰う必要がある。君たちの同好会はただ本を読んでいるだけだ。それなら家でやりなさい」

 う。確かにそうだ。

「だったら、実績を残せる活動をすれば部として認めてくれるのね」

「そうだな。一人一作品でいいので、長編の小説を書きなさい。そして来年度の文化祭において、それを発表しなさい。それが出来るのであれば、部としての昇格を認めよう」

 来年度の文化祭という事は8か月後か。期間は十分にあるけど、小説の書き方なんて知らないし、それを発表しないといけないなんて、恥ずかしいよ。僕は読み専なんだから。

「いいわ。やってやろうじゃないの」

 ちょっと。何勝手に言ってんだよ。

「面白そう。私もやるわ」

「俺も俺も」

「では、ラノベ同好会の部への昇格を認めよう。ただし、顧問の先生を自分達で見つけなさい。それが出来れば部費と部室を提供しよう」

「分かりました。行くわよ優弥」

 あのー、僕の意見は……。

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