第4話 真一、一人で『出張する』…松江

その夜、真一とみつきはいつものように就寝する。みつきは早々と寝ついていた。


真一(オレもみつきみたいに、さっさと寝つきたいわぁ…。今夜の夢はまた続きを見るんかなぁ…)


真一もまた寝ついたが、お約束通り、夢の中へ。お約束通り、昨日の続きである。



(夢の中)

修了式前日、真一は鈴木先生と大川先生にそれぞれ出雲へ行く旨の報告を行い、事前に先生方の出勤日等を確認した。その上で、入院中の香織にも事前に最終確認を行った。


一方、優香と真一の周りの友達は修了式前にも関わらず、真一と優香の関係が改善されないことに困惑していた。頑として真一の姿は授業中以外、あまり見かけないからだ。真一が香織のことで動いていることは、香織から『他人に知られないように』と真一に忠告されていて、真一はそれを守っていたからだった。鈴木先生と大川先生もこの件は承知している。


放課後の図書館で真一以外の面々が話す。


白木「一体、どういうことや? もう2年生が終わるのに姿を見ないって、授業中以外どこにおるんや堀川は?」

坂本「工業系職員室におったかと思ったら、知らん間に姿がない…ってどうなってるんや?」

佐野山「神出鬼没ってやつか?」

村田「ここ(図書館)にも岩田先生に用事があるときしか来てないし…」

森岡「お前(優香)、全然話してないんか?」

優香「うん…。用事があるんやろ。仕方がないやん…」

滝川「ゆうちゃん、それでいいの?」

優香「………いいよ。私はいま森岡くんがいるからね(笑)」


村田、加藤、滝川は優香の返事に困惑ぎみだった。


藤岡「途中駅にこの前おったのは、何でなんやろ?」

寺岡「自棄になってるんか…?」

坂本「傷心期間中なら、オレが慰めてもエエんやけどな…」

白木「さすが恋愛4連敗の人(笑)」


皆が笑った。しかし優香の本心は複雑なままだった。


修了式当日、体育館で修了式が行われ、教室に戻って成績表が配布され、4月から3年生になることと、4月11日始業式当日の予定も連絡され、解散となった。


真一はそそくさと電車で帰宅し、昼飯を食べて出雲へ向かった。


そうとも知らず、優香たちは真一の姿が見えないので、いよいよ深刻な問題か…と焦りが見えはじめた。いつものように図書館で話す。


藤岡「おい、堀川の下駄箱を見たけど、もう帰っておらんぞ」

白木「え❗」

坂本「帰った? さっきまでおった(いた)のに…」

村田「えー、どうしちゃったんやろ…」

加藤「堀川くん、完全に来てないなぁ…」

滝川「ゆうちゃん、ホンマにこれでいいの?」

優香「…堀川くんに考えがあるんやろ。私は別に…。それに私には森岡くんがいるからね」

滝川「ゆうちゃん、それ本音で言うてるの?」

村田「ちーちゃん…」

優香「…………」

加藤「ゆうちゃん、森岡くんの前では言えないけど、この前まで堀川くんと仲良しやったやんか。堀川くんに『カマをかけた』とはいえ、なんでなん?」

優香「…………」


実は優香も内心、不安が日に日に増すばかりだった。そして、皆が話していたあとで遅れて図書館にやって来た森岡も、さすがに優香の顔色を気にしていた。



一方、真一は普通電車を乗り継ぎ、山陰本線に乗り換える。山陰本線を西へ西へと向かう。真一は車窓を見ながら黄昏ていた。真一は優香のことを少し考えたが、『自分で蒔いた種だから』と言い聞かせていた。

そして夕方、松江に到着した。今日は移動で終了し、ビジネスホテルに泊まる。ホテル近くの食堂で夕食を済ませ、ホテルの自室に戻る。

ホテルに戻り、香織から預かった、香織の文通相手・北川克也の松江の住所が書かれている手紙を見た。事前に香織から手紙を読んでも構わない旨の許可を得ていた。


『香織、元気か? オレは松江で高校受験に向けて勉強している。高校受験、お前もやなぁ…。オレ、たまにムシャクシャするときがあって、そのときは宍道湖しんじこを見ながら、香織のことを思い出している。小学校の時、香織と遊んだこと今でも忘れていない。楽しかった頃の事を思い出しながら気分を落ち着かせている。香織もグチこぼしたかったら、いつでも手紙書いてこい。オレ、待ってるからな。それと、体大丈夫か? 無理するなよ。大事になったら“基もこもない”ないからなぁ…』


真一「両思いなんかな…。それともただの友達か…? 山下さんは彼のこと気にしてたんやったなぁ…」


真一は香織のことを考えて、明日松江の住所を訪ねてみることにした。


翌朝、ホテルをチェックアウトし手紙の差出人・北川の住所がある場所へ行ってみた。すると、空き家だった。


真一(引っ越して、空き家か…)


真一は通りすがりの近所の女性に尋ねてみた。


真一「すいません」

女性「はい」

真一「ちょっとこちらにお住まいだった北川さんのことでお尋ねしたいのですが…」

女性「はい」

真一「北川さんは、3人家族でしたか?」

女性「ええ。ただ、3年前に奥さんが病気で亡くなられて、四十九日(法要)が終わって暫くして、今度はご主人が交通事故で…」

真一「そうですか…」

女性「確か、中学生くらいの息子さんがいて、ここを出払って出雲の方へ行かれたって聞きました。でも…」

真一「でも?」

女性「何か、出雲で消息不明になってるって噂で…」

真一「消息不明?」

女性「事情がわからないんです」

真一「そうですか…。どうして松江から出雲へ引っ越しされたんでしょうか?」

女性「ハッキリした理由はわかりませんが、噂では息子さんの『現実逃避』とかなんとか…」

真一「現実逃避…? えらいすんませんでした(どうもすみませんでした)」


そこへ別の近所の男性の人に出会い、話を聞く。


真一「すいません、こちらにお住まいだった北川さんのことでお尋ねしたいのですが…」

男性「北川さん? 息子さんが苦労してなぁ…」

真一「苦労ですか? それは、両親が亡くなったからですか?」

男性「それだけやない。旦那さんが借金作ってて、交通事故で亡くなったときの保険金が借金の返済に充てられて、完済はしたらしいんだけど、息子さんが途方に暮れてなぁ…。それで現実逃避したくて、この家を出払ったんだ」

真一「そうでしたか…。何か噂では出雲へ行かれたそうですが、消息不明になっているようですが、何かその辺のところご存知ないですか?」

男性「うーん、詳しくはワシも知らんけど、何か、誰かに追われているような話やったなぁ…」

真一「誰かに追われている? 誰にですか?」

男性「それはわからんけど、出雲大社の近くのお茶屋(甘味処)さんが知ってるとかいう噂やけどなぁ…」

真一「そうですか…。えらいお手数おかけしました」


真一が腕組みをして考える。


真一(消息不明…、現実逃避…、誰かに追われている…。何があったんや…?)


真一は宍道湖へ向かった。北川が香織に宛てた手紙に『たまにムシャクシャするときがあって、そのときは宍道湖を見ながら、香織のことを思い出している』と書いてあったので、真一も宍道湖を見たら何か手がかりが見つからないか…と思っていた。




その頃、白木は真一の自宅に電話した。


白木「もしもし、白木と申しますが、真一くんいらっしゃいますか?」

真一母「あぁ、出掛けてるんや。今週いっぱい…」

白木「そうですか…。また電話します」


白木は電話を切ってから首をかしげていた。


白木「『今週いっぱいおらん(いない)』って、どういうことや?」




その頃真一は宍道湖に到着し、景色を眺める。たまに目を瞑り、北川のことを考えている。


真一(彼は両親を亡くして、父親の借金を保険金で完済した。嫌気がさして現実逃避して松江を出た。けど何で出雲なんや? 出雲なんか松江から近いし、現実逃避するなら、もっと遠いところへ逃げるはずや。それでも出雲なのはなんでや? 誰かに追われている…? 出雲大社の近くのお茶屋が知ってるって、どういうことや? えらい難儀な話やなぁ…)


真一「松江は自宅しかわからんけど、何かなかったんやろか?」


真一は北川が住んでいた家に戻った。

すると、先程尋ねた女性がまたやって来た。


女性「まだいらしてたのですか?」

真一「あぁ、すいません、ご迷惑をおかけして…。ちょっと引っかかることがありまして…」

女性「引っかかること?」

真一「ええ。息子さんがここを出払うとき、『現実逃避』するから松江を出たとの話を噂として聞いたのですが、その『現実逃避』したいものって何かご存知ないですか?」

女性「現実逃避? さぁ、わかりませんが…。ひょっとしたら、ご主人が交通事故で亡くなられる前に、借金があって取り立てが来ていたのは何度か目にしました。ご主人が亡くなられて保険金で借金を返済されたらしいのですが、ご主人、色々と問題を起こしておられて、奥さんが病気で亡くなられたのもご主人への心労もあったのでは…と噂されていました。松江はご主人の地元なので、奥さん苦労されていました」

真一「そうですか…。亡くなられたご主人はこちらに来られる前、どこか地方へ行っておられませんでしたか?」

女性「確か…、昔少しの間、米子におられたことは聞いたことがあります」

真一「米子? 鳥取県の米子ですか?」

女性「ええ…。仕事か何かだったと思います」

真一「あと、亡くなられた奥さんも松江の方ですか?」

女性「いいえ、確か京都の方だったと思います」

真一「京都ですか…。あのご主人も京都に住んでおられたとか、そんな話は聞いたことないですか?」

女性「ないですね。ほぼこの家に住んでおられましたから…」

真一「そうですか…」


真一(親父さんは松江の出身で、この家に住んでいた。『現実逃避』は親父のことを忘れる為か…。けど親父は山口丹には来ていない感じやなぁ…。母親が京都か…。どこで知り合ったんやろなぁ…)


真一「あの、あともう一つだけよろしいですか?」

女性「はい」

真一「ご主人と奥さんが知り合われたのはどこかご存知ありませんか?」

女性「それが、よくわからないんです」

真一「そうですか…。奥さんはいつからこちらに住んでおられましたか?」

女性「ええと…、確か15年くらい前だったと思います」

真一「15年前?」

女性「ええ…。そのときには息子さん連れて、この家に来られましたよ。奥さん、未婚だったみたいだけど…」

真一「未婚? そうですか…」


真一は首をかしげた。


真一(なんや、中々ややこしい話やなぁ…。未婚の母親? 彼の出生のことが絡んできてるんかなぁ…。彼の母親と松江の父親の接点は一体…? 彼の実の父親は誰なんや?)



真一は宍道湖に戻った。北川の父親の借金返済だけでなく、家系のことが関係して出雲に移ったと考えていた。真一は近くの公衆電話で、香織のポケットベル(ポケベル)を鳴らす為、文字を打ち込む。


『ヤマクチタンノジュウショオシエテ』


ポケベルを鳴らした後、真一は出雲へ移動した。

出雲のビジネスホテルに到着した真一は、チェックインをしているときに、フロントから声をかけられる。


フロント「堀川様、ご伝言がございます」

真一「はい」


真一はフロントからメモを渡された。メモを見ると、香織からの伝言で、山口丹の住所が記されていた。

真一が自室へ向かう。


真一(山口丹も行って来なアカンなぁ…)


真一がロビーに下りて、公衆電話で香織のポケベルに文字を打ち込む。


『ホテルニデンワホシイ』


打ち込み終わると、自室へ戻る真一。

暫くして部屋の電話が鳴る。


真一「もしもし」

フロント「フロントでございます。外線電話が入っております」

真一「繋いでください」

フロント「どうぞお話しください」

真一「あ、もしもし」

香織「もしもし、堀川くん」

真一「あ、ゴメンよ。体調はボチボチか?」

香織「うん、おかげさんで楽になってるよ」

真一「そうか。良かった」

香織「ところで何か用?」

真一「あぁ。ちょっと聞くんやけど、北川くんは山口丹時代に、お父さんはおっちゃったか(おられたか)?」

香織「それが…、おばさんだけだった。『お父さんはいない』って聞いたことがあるよ」

真一「そうか…。松江に引っ越す時、彼から何か聞いてなかったか?」

香織「うーん…。あ、『知り合いのおじさんのところへ行く』って言ってたかな…」

真一「知り合いのおじさん?」

香織「うん。私も事情はわからんけど、おばさんの知り合いって言ってたよ」

真一「そうか…。わかった」

香織「あ、堀川くん、私も堀川くんに聞きたいことがあって…」

真一「何やったやろ?」

香織「堀川くんって、ゆうちゃんとこのままでいいの?」

真一「このままって?」

香織「堀川くん、ひょっとして、ゆうちゃんにカマかけられたんやないの?」

真一「知らんで」

香織「ゆうちゃん、本当は堀川くんのことが気になっていて、堀川くんにあえてやきもち妬かせる為にあんなことしてたんやないかなぁ?」

真一「知らんで。オレはただの幼なじみやからなぁ…」

香織「私が堀川くんと出会う前、噂になってたんだよ」

真一「そうなん? オレ全然わかってないから…」

香織「いまゆうちゃんと仲良い?」

真一「なんか機嫌悪いみたいや。だからオレも敢えてほったらかしにしてある。全然口聞いてへんし、会ってもいない」

香織「そうなんや…」

真一「ちょうど、いま出雲に来て、山下さんの話聞いてるから、別にいいけどね(笑)」

香織「ゆうちゃんとは、このままでいいの?」

真一「オレは別にかまへん(構わない)。気まずいんやったら、会わん方がええんとちゃうか?」

香織「そっかぁ…」

真一「まぁ、オレのことより山下さんの話が今回の目的なんやからなぁ…」

香織「そうやなぁ…」


真一は香織と電話で話し、山口丹時代のことも確認しないとわからないと判断した。





そして、真一は夢から覚めた。



真一(ふぁー…(あくび)。今日の夢は出雲のホテルまでですか…。いよいよこれは『朝の連続ドラマ』か『刑事もので土産を買ってくることを条件に出張するサスペンスドラマ』みたいになってきたなぁ…)

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