第10話 知己朋友


 小学生の頃、俺は体が弱く田舎の医療施設に入院していた。いつ治るとも知れない病に精神を蝕まれ、将来なんてものに期待を持てず、ただ漫然と過ぎていく日々を過ごしていた。



 灰色がかった日常は唐突な出会いで変容した。



 同い年のジョーという名の奇妙な髪型の少年が入院してきたのだ。別々の個室を宛がわれていてた俺たちだったが、彼は度々たびたび俺を訪ねて、


「外に行こう」


 と、医師に止められている行為に俺を巻き込んだ。

 曰く、

「こんな田舎に連れてこられて、いちいち言うこと全部聞いていられない」



 病院を抜け出し、野原で遊び、森で迷子になり、近所の駄菓子屋で買物をしたり、ジョーと遊びまくったことを覚えている。


 最高の友達だった。

 最高に自由だった。


 何故そんなに自由に振る舞えるのか、尋ねた事があった。


「自分がやりたいと思ったことをするのが正しい生き方だと思うから」

 

 ジョーの考え方は俺に強烈な衝撃インパクトを残していった。

 正しさを決めるのは自分で良い。

 言われた通りに生きなくていい。


「ただし、やったことの責任は取らないといけないけどね」と付け加えてはいたが。




 その後、俺は治療に専念した。


 ジョーより先に退院することになるとは思わなかったが、ジョーに与えられた衝撃が俺の体を、心を変えたのだと信じた。退院の日、即ち、ジョーとの別離わかれの日、俺はジョーにとっておきの宝物を贈った。


 とはいえガキの宝物だ。河原で拾ったちょっと綺麗なだけの、ただの石。ジョーは泣きそうな顔をしてそれを受け取ってくれた。彼のそんな顔を見たのはそれが最初で最後だった。


 ――以来、ジョーとは会っていない。


 今の俺を見たら、どう思うだろうか。失望するだろうか。それとも笑うだろうか。俺としてはあの日受けた感銘のままに今を生きているだ。




「駄犬! 何を呆けてらっしゃるの? さっさと行きますわよ」

「ああ、すまない。ちょっと昔のことを――」

「言い訳は結構。それと返事は『はい』になさい」

「はい、麻璃亜サマ」

「よろしい」


 そのなんだが、ジョーがこの姿今の俺を見たらどう思うだろうか。

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