子猫の名前決定と動物病院に連れていく二人の話。(狛零視点)

 子猫の名前決定と動物病院に連れていく二人の話。(狛零視点)


 俺と化さんが口にした名前、それは違っていた。

 まあ、普通に考えて同じ名前を口にするという運命なんてあるはずが無いのでそうなるのは当たり前だろう。

 でも……銀という名前は俺も化さんにも入っていた。きっと彼女にもこの子の毛並みは銀色に見えたのだ。きっと、灰色だけど洗ったら銀色の毛並みが見えるようになるはずだ。

 そう思いながら俺は彼女が名付けようとしていた『こぎん』という名前は小さい銀と書くのだろうと思いつつ、ギンカと名付けようとした自分の名前も考えながら子猫を見る。

「ミャア?」

 見られた子猫はこてんと首を傾げ、それを見てほんわかとした感じてしまいながら……花のように思っていた。

 銀の花、それで俺はギンカと名付けようとしていた。

 でも、俺も化さんも……銀という名前に拘っていた。だったら、銀の別の呼び方を調べてみるか。

 そう思いながら置いていたスマホを手に取って検索を始める。

 銀の別の読み方。日本での別の呼び方、外国での呼び方。それらを調べながらピンとくる単語を探すと……それはあった。

「……プラタ」

「え?」

 ぽつりと呟いた単語、それが耳に届いたのか化さんから不思議そうな声が漏れた。

「真樹さん、プラタって……銀ですよね? 確か、スペイン語でしたね」

「良く知ってるな。俺は検索して今知ったけど、スペイン語で銀ってそういうみたいだな」

「えっと、もしかしてこの子の名前……ですか?」

 首を傾げ尋ねる彼女へと俺は頷く。

「ああ、俺も化さんも二人で同じように子猫の名前に『銀』って単語をつけてただろ? だったらさ、思い切って銀って名前にしたらどうかなって思ったんだ。別に小銀って名前がダメだってわけじゃないぞ。ギンカだってダメじゃない」

 俺がそう言うと化さんは苦笑しつつも、考え始めているようだった。

 けれど、子猫へと視線を移し……恐る恐る俺が呟いた名前を口にしてみた。

「プ、プラタちゃん」

「ミャ? ミャア……ミャア!」

 はじめ子猫はそれが自分の名前だと分かっていなかったようだけれど、すぐに理解したようで元気よく鳴き声を上げた。

 自分に名前が付けられた。そんな風に嬉しそうに鳴いているようにも見えていると、化さんはもう一度確認するように子猫へと尋ねる。

「プラタで、良いのですか?」

「ミャア~」

 最後にもう一度確認するように尋ねると子猫……いや、プラタは鳴きながら座る化さんの脚に体を摺り寄せた。……どうせなら俺にも体を摺り寄せてほしい。

 そう思っているとプラタは俺の方にも近寄って、同じように体を摺り寄せた。

「ぅあ~……。プラタ、本当にお前ってやつは……っ」

 この子の可愛さに俺はもうメロメロである。――っと、メロメロになっている前にちょっとチャームの申込書を書かないとな。

 忘れそうになっていたことを思い出し、俺は店員に渡されたチャームの申込書に記載を始める。

「えっと……名前はプラタで、年齢は……半年未満だよな。住所はうちのを書いて、電話番号は俺のスマホ、そして性別はメスっと」

 確認し、口に出しながら書いていく。周囲に誰も居ない状態であればこの方が頭の中に刻まれやすかったりもするし、覚える為に口に出すのは良いことだと思っている。

 ……まあ、盗聴器なんて付けられてたら色んな意味で危険なやり方だけれど、生憎とこの部屋にはそんなものはない。……ない、よな?

 一般家庭にそんなものはないはずだ。そう思うことにして、俺は申込書を書き終えると折り畳み……プラタを見る。

 プラタは化さんに撫でられて気持ちよさそうに目を細めていた。

 すごく幸せそうだなー……。プラタは賢いから、これから連れて行こうとする場所を嫌がらないと思いたいけど……大丈夫、だよな?

 そう思いながら俺は化さん達をみながら口を開く。

「化さん、さっきも店員が言ってたことをしに行きたいんだけど、大丈夫か?」

「店員さんが言っていたこと……ですか?」

「ああ、動物病院にプラタを連れていくことだ」

「ミ“ャ!?」

 俺がそう言った瞬間、プラタは驚いたような鳴き声と共にピンと尻尾を膨らませ逆立てた。

 そして条件反射なのかすぐさま逃げようと試みていたようである。だが、化さんに掴まれた体は抜けることは出来なかったようだった。

「プラタちゃん、落ち着いて。ね?」

「すまないプラタ。けど、お前が俺達と一緒に住むには必要な行為なんだよ」

「ミャア~~……」

 化さんと俺の言葉に観念したのか、グルングルンと体を動かしていたプラタであったが……間伸びた鳴き声と共に体をグテッとさせて抵抗を辞めたようだった。

 それを見届け、俺はプラタへと購入した首輪を装着させてから立ち上がる。

「さてと、それじゃあ化さん……動物病院に行こうか」

「は、はい。でも、休日にやっているのですか?」

「そうだったな。ちょっと待っててくれ、……っと近所にあったのか。診察は……ああ、やってるみたいだ」

 彼女の言葉で思い出し、スマホを開いて動物病院を調べると近所に動物病院はあったことを知る。

 それを言うと化さんもほっと安心したように息を吐いてから、俺と同じように立ち上がった。

「準備完了。んじゃあ、行こうか」

「良かったです。それじゃあ、プラタ行きましょうね」

「ミャア~……」

 諦めた。そんな風にプラタは鳴くと抵抗なく化さんの腕の中に包まる。

 それを見届け、俺は再び財布をポケットに入れて折り畳んだ申込書をもう片方のポケットへと入れると彼女達と共に動物病院に向かう為に部屋へと出て行った。


 ●


「ここみたいですね」

「ああ、そうだな。というかこんな所にあったんだな」

 スマホの案内に従って移動を行い、公園に向かう方へと10分ほど歩いていくと少し古びた建物が見えた。

 駐車場はあるのだが車は止まっておらず、人の数も少ないように見える……。

 ついでにいうと建物も少し古く見えるというか、オンボロだ。

「何というか経営が大丈夫なのかと言いたくなるような建物だな……」

「ふ、古くからやっている動物病院、なのではないでしょうか?」

「まあ、大丈夫……と思っておこうか?」

「です、ね……」

 見た目に惑わされてはいけない、そう思いながら俺と化さんは動物病院の名前を見る。

【やぶい動物病院】

「…………だ、大丈夫、だよ……な?」

「き、きっと、大丈夫……です、よね?」

 再び俺の口から洩れる心配そうな声に、彼女の口からも心配そうな言葉が返ってくる。

 ま、まあ、院長の名前を動物病院の名前にしているだけの可能性だってあるんだ。そう思いながら俺はプラタを連れて、化さんと共に動物病院の中へと入った。


 扉に取り付けられたベルがちりちりと鳴り、俺達が入ったことを告げる。

 院内は静かで待合室には誰も居らず、受付にも病院関係者が居ないのが確認できてしまった。

 待合室には年季の入った数人掛けのソファーが所々剥がれたクリーム色のリノリウムの床の外周と真ん中に並べられており、隅の方に飼い主が時間潰しに読んでくださいとでもいうようにマンガが収められた本棚が見えた。

「本当に大丈夫なのかこれ……?」

「し、信じましょう?」

 入り口から見える待合室の様子に不安感を抱いていると、奥の方からペタペタというスリッパの鳴る音が聞こえ始めた。足音だ。

「はぁ~い、いらっしゃいませ~~♪」

 足音が聞こえ、少しして間伸びた声が届き、その声の主が女性かと思っていると……その人物は姿を現した。

「は?」

「え?」

 その女性を見た瞬間、俺達は呆けた声を漏らした。

 当たり前だ。何故ならその女性は……、

「よ~こそ~、やぶい動物病院へ~♪」

「え、え? お、女の……子?」

「え? え? え?」

 のんびりとした口調で、獣医が着ているユニフォームの上にブカブカの白衣を着用した小学生ほどの女の子だったからだ。

 髪は茶髪のウェーブを背中辺りまで伸ばし、小柄な身長には大きいブカブカの白衣の裾はズリズリとリノリウムの床に擦らせながらニコニコと笑顔を向けながらこちらに向けて手を挙げていた。

「今日はどのようなご用件ですか~?」

「あ、え、えっと……お、お父さんの手伝い、か?」

 女の子が訪ねてきたため、戸惑いながらも俺は目の前の子はきっと両親か院長である父親の手伝いをしている娘だと思うことにした。

 すると女の子は見た目相応にプクゥ~と頬を膨らませた。

「むぅ~、失礼ですね~! ちゃんと成人していますよ~! ほら、見てください~!」

 俺の言葉にプンプンと怒りながら、女の子はごそごそと胸元を弄り始めた。

 というか、いま気づいたけれど……この女の子、胸がかなり大きい……だと!?

 見たところ150センチあるかないかの身長だというのに胸はどう見てもメロンほどのサイズという、いわゆるロリ巨乳というものだった。

 胸元を弄るたびにぐにぐにと変化する双丘に、俺はすぐに視線を背ける。

「……真樹さん?」

「ち、違う。違うぞ? 見ていない。見ていないから」

「分かっています。あの、出来れば男性の前で不用意に胸を弄るのは……」

 白い目で俺を見つめる化さんに何故か言い訳していると、彼女はそう言ってから女の子に話しかけた。

 それと同時に女の子は探していた物を胸元から見つけたようで取り出した。

「はい、これが証拠ですよ~! 見てください~」

「あ、免許証ですね。では失礼して……え」

 女の子が見せた物。それは運転免許証だったようで化さんがそれを見たのか戸惑う声が聞こえた。

 いったい何が見えたんだろうか? そんな疑問を抱いているとペタペタと足音が聞こえ、木の香りと共にグニッと腹の辺りに弾力性の高い感触が感じられた。

「あなたも見てください~!」

「ちょ!? か、体を押し付けないでくれっ!! 見る、見るから!!」

 視線を背けていたのが気に食わなかったようで、女の子は体を押し付けて免許証を見せようとしていた。

 正直、男ならお腹に当たる感触を味わいたいとは思う。けれど徐々に冷気を増していく化さんの視線に耐え切れず俺は必死に叫び女の子を、正確には彼女の免許証を見た。

「はい、ちゃんと見てくださいね~」

「あ、ああ。…………マジか?」

「マジですよ~♪」

 俺も化さんと同じように女の子が見せつけている免許証を見て唖然とした。

 運転免許証の上の方には女の子の名前と生年月日が記載されており、そこに記載された生年月日を見ると……俺の生年月日よりも10年ほど違っていた。

 つまりは目の前にいるこのロリ巨乳の女の子は、俺や化さんよりも10歳も年上だということが明らかとなっていた。

「こほん。では改めて~、しあがこのやぶい動物病院の院長の薮井しあです~♪」

 そう言って、女の子……いや、薮井さんはドヤ顔全開で胸を張って名乗りを上げた。

 俺は当然そんな彼女から視線を逸らしてしまうのだった。


 ―――――


 新キャラ(ロリ巨乳天然お姉さん枠(?))な薮井しあさん登場です。

 やぶいしあ(早口)

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