第39話 信用しているから

さて、話はこれぐらいにして。私はカットに取り掛かった。本当は、この長い綺麗な髪を切るのは少し気が引けるけど…イメチェンの為にやらなければ!そして、やっとレティ様の髪に触れた。


「とりあえず、今の長さの半分ぐらいまでに切って様子見ますね。」


申し訳ないと思いつつ、私は思いっきり髪にハサミを入れた。その瞬間、切れた髪の毛は床に落ちた。それを少しずつ繰り返していく。緊張感が漂う部屋にハサミの音と髪が床に落ちる音が続く。


「これぐらいが、丁度半分ぐらいですかね。」


そう言って、私はレティ様に鏡を向けた。その鏡は、向ける前に太陽の光に当たりキラキラと光った。


「これが、最初の半分ぐらいの長さですね。ここからどうしましょうか?個人的にはもう少し切ってもレティ様は似合うと思います。」

「もうここまで切ったのね。流石、アオイね。今回は全てアオイに任せるわ。私の事よく分かってるから。ね?アオイ」

「うわぁー責任重大じゃないですかー!やめてくださいよ。レティ様!そんな事言われたら緊張して手元が…」

「少しからかい過ぎたわ。ごめんなさいね。でも、本当にアオイの腕を私は信用しているわ。他の人もそうでしょう?」


確かに…グレンさんを含め、今まで切ってきた人たちには喜んでもらえたし自分の腕に自信を持ってもいいのかな…確か、日本にいた時も同僚には色々言われてたけど先輩からは葵の腕がいいから嫉妬してるのよ。って言われたこともあったな。本当にそうだったのだろうか、結局本当の事は分からなかった。


「今の言葉でちょっと軽くなりました。レティ様、ありがとうございます。それじゃあ、思いっ切り好きなように切らせて頂きますね」


さっきとは全く違い、手が軽く動きやすくなった気がした。やっぱり緊張していたのだろうか。よし!レティ様の為にも自分の為にも頑張らなきゃ!それから数十分経った時、私が思うレティ様に似合う髪に出来た。鏡を向けるのは正直ドキドキするけれど思い切って向けた。


「レティ様、出来ました。私が思う似合う髪型に」


その長さはあれからもう少し切った髪の長さだった。髪をアレンジしなくても邪魔にならない長さとアレンジも自由に出来るギリギリの長さに調節した。個人的には、レティ様にはこれが似合うと思った。アレンジ次第では印象が毎回変わるので楽しくなるのではと思いながら。ここの侍女さんの手際といい凄い上手だと思ったからきっと色々とやってくれるよね。


「嘘でしょ…これが私?髪の長さを変えるだけで、ここまで印象が変わるのね。」

「そうですね。私の国では外見で印象が結構変わると言われてたので美容関連は重要でした。」

「なるほどね、これからは美容関係にも力を入れなければいけないわね。ありがとう、良い事を聞いたわ」

「あ、レティ様のお付きの侍女さんは今いらっしゃいますか?」

「いるわよ。セリーヌ!マリー!」


この店内には、結構な人が入っていて私じゃ分からんかったからレティ様に呼んでもらう事にした。


「「はい、なんでしょうか?レティ様」」

「アオイが貴方たちに話があるみたいなの」

「話でしょうか…何か私たちの行動に問題でもありましたでしょうか?」

「あ、いや、問題があるわけじゃないですよ。ただ…」

「「ただ?」」


流石、レティ様に連れ添っているだけある。風格が違う。


「いつもは、髪の長さが長くて大変だったと思うんですけど。量と長さを減らしたのでいつもと違うアレンジが出来ると思います。例えば…レティ様、髪失礼しますね。」


試しに今一つ簡単なアレンジをしてみる。


「こんな感じにしてみると大人っぽさもありながら可愛い感じになります。」


私がやって見せたのはハーフアップだった。これは沢山の種類があるからやってる方も楽しい。


「なるほど…他にもありますか?」


その後は、いくつかアレンジを教えた。それを必死に見ている二人も見るとレティ様の事が好きなんだなと分かるほどだった。


「これぐらいですかね。まだあるので何かあれば聞きに来てください。」

「「ありがとうございます」」

「お疲れ様でした。これで終わりですよレティ様」

「ありがとう。アレンジもとっても私好みだわ。お茶会での反応が楽しみだわ」


そんな会話をいくつか交わしてるとドアのベルが鳴り響いた。誰だろうか、街の人たちにはまだ宣伝していないし…そう思いつつドアの方に向くとそこに居たのは…ルイ様だった。


「母上!僕を置いていって何一人で来てるんですか!今日に限って僕の執務増やすなんて!」

「何を言っているの。いつも通りの量のはずよ。あの子がまともに仕事をしていたら」

「それは、分かっていますが…母上から何か言えないのですか?」

「そんなのとっくに言ってるわよ。それでも、放棄して聖女様に付きっきりなのだから…諦めなさい」


その言葉で、誰の事言っているのかすぐわかった。流石に仕事はやった方がいいんじゃないのかな…第一王子様…


「分かりました…それでも僕を置いていったこととは関係ないではありませんか!」

「私も、ルイに声を掛けようとしたわでも執務がまだ終わっていなかったから声を掛けるのをやめたのよ。さぁ、今日は様子見でしょう?一緒に王城まで戻りましょう。私の馬車に乗っていきなさい」

「ダメです!それは譲れません。アオイさんは僕が来た馬車に一緒に乗ります。」

「しょうがないわね、今回は、ルイに譲るわ。次タイミングがあれば、今度こそ私の方に乗って頂戴ね。」


いつの間にか私は、ルイ様と戻ることになっていた。話の流れが速すぎて全く分からなかった…そんなことより早く片付けようと思った頃には床は綺麗で道具をしまうだけの状態になっていた。早いなと思いつつ帰るのが遅くならないようにと道具を片付けた。

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