第10話 聖女様と鉢合わせ

この世界の自分の事が少し分かって安心した。団長さんに何かお礼をしたい…


「あの、団長さん。なにか私に出来ることあるでしょうか?今回のお礼がしたいのですが…」

「名前は、ルードで構いませんよ。そうですね…今度私の髪も切って頂けますか?」

「そんなことでいいのなら、私でよければ切りますよ。」

「ありがとうございます。」


そういうと、少し嬉しそうにしてくれた。私が髪を切ることで喜んでもらえるのなら、私は切ってあげたい。それが日本での私の仕事だったから…と少し懐かしく思っていると。ルードさんが思い出したように


「そういえば、ここをもう離れた方がいいと思います。聖女様がツキノ様と同じ内容でこちらに来ると聞いているので鉢合わせになる前に、」

「それは不味い、早くここを出ましょう。」


確かに、向こうにとっては私は邪魔者で都合が悪い。会ってしまったら何言われるか分からない…グレンさんが言ったとおりに早く出よう。私は、素早く道具をしまいルードさんに声を掛ける。


「今日は忙しい中、私のためにありがとうございました。」

「いえいえ、グレンから聞いた通りで安心しました。」


本当にツキノ様が聖女様なら良かったのに…とルードさんから聞こえた気がする。今はそんなことを気にせず早くここから移動しようと少し早足で歩き始める。でも戻って何しようかなすることないんだよな。そうだ!昨日お世話になった司書さんとクレアさんにお礼したいと思ってたからお菓子作って持って行こうかな…でも勝手に一人で決めちゃダメだから相談しなきゃ、歩きながら声を掛ける


「クリスタさん、部屋に戻ったらお菓子を作りたいんですけど…キッチン使わせて貰えたりしませんか?」


レーナさんに少し相談した後に、返事が返ってくる。


「大丈夫ですよ。何か必要な材料はありますでしょうか?」


ん~何作るかまでは決めてないからな、ここは無難にクッキーを作ろうかな。でもエルメルトに材料が揃ってるかどうかなんだよなと思いつつ。


「材料は、自分で選びたいんですけど…見せてもらう事って可能ですかね?」


少しわがままを言ってしまった、流石に迷惑だったかなと心配になる。前からいくつもの大きな足音が聞こえる。その瞬間グレンさんが私を守るように前に立って、見てる先を睨む。


「お前ら、邪魔だ。どけっ!聖女様が通るんだぞ。」


どうやら私たちは、間に合わなかったらしい…私は、慌てて端に寄った。何人もの騎士様と侍女さんを連れて横を通り過ぎていく、何もなかったと思った瞬間。その足が急に止まった。


「お前が、一緒に召喚された年増の女か。ははっ、笑えるな。早く城から立ち去れ」


それだけを言ってまた歩き出していく。あれ、聖女様がこっちを見た気がする…気のせいかな?まぁ向こうがあの言い方するのは間違っていないから何も言えないけど、お城から立ち去れない状況なのは王様たちのせいだと思うんだけどな~


「ツキノ様、ここを離れましょう。」

「あっ、はいそうですね。」


気を使ってくれたのだろう、下手したらまた鉢合わせになる可能性があるからだろう本当に申し訳ない。


「ツキノ様、さっき言ってた材料の事ですが私たちも同行することを条件でよければ大丈夫です。」

「それで大丈夫です!無理なお願いを聞いてくださってありがとうございます。」


今回は少しわがまま過ぎたのにも関わらず、対応してくれたなんて優しいのだろう。お菓子を多めに作って皆さんにあげよう。この長い距離も足が少しずつ慣れてきた。


「もうそろそろ、お部屋に着きますが少し休んでから材料を見に向かいますか?」


ん~どうしようかな、なるべく早く渡しに行きたいからな…


「荷物を置いたらすぐ行きたいです。」

「分かりました。」


と話してる間にもう部屋に着いていた。すぐに終わるからとグレンさんたちは外で待ってて貰えますかとお願いし、私だけささっと部屋に戻って荷物を置き、作るときのために髪ゴムを持ってグレンさんのところへ戻る。


「ツキノ様、準備は大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。」


レーナさんを先頭に材料がある場所まで案内してもらう。今思ったんだけど、勝手にキッチンとか材料を使っていいのだろうかと不安になってしまいクリスタさんたちに聞く。


「あの、私がキッチンや材料を勝手に使っていいのでしょうか…?」

「はい!大丈夫ですよ。それにあの人たちもツキノ様の味方ですからね。」


私の味方とはと思ったけれど今は、深く考えないことにする。それにしてもクッキーに必要な材料は揃っているといいな…いくつ作ろうかなグレンさんたちの分でしょ、それに司書さんたちとあとルードさんにも渡したいなぁ~と思っている内にもうそろそろ着くとレーナさんが教えてくれた。

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