第6話 ミククラーネ皇国の魔術院
カチカチと可愛らしい音の金属が室内に響く。
部屋の中は左右の壁に一面の棚が配置されており、玩具のような色形の魔道具が雑然と並び置かれている。
机の上にあるのは時計。これに魔力を乗せて自分で設定した時間に音を出す仕掛けをしているところだ。
既にその作業は完成していて、リヴィアが悩んでいるのはどんな音にするかである。
ここは魔術院────翡翠の塔の一角。リヴィアの通う研究室のある場所だ。
ここミククラーネ皇国には、大昔に魔術を駆使し、大戦を収めたことから大きく発展した経緯がある。
その名残から魔術師を研究する機関を創設。国家運営の一助を担っている。
だが今の時代、魔術師と呼ばれる程の実力者はいない。
大戦中の魔術の脅威から、各国は共同で魔術を管理する政策を打ち出した。
当時の魔術は凄まじく、城も街も一夜とたたず消しとばしていたらしい。そしてそんな事を続けてしまえば世界が滅ぶ。だからこその管理制限。
……リヴィアにしてみれば、使う方の問題だろうと思うのだが、当時王侯貴族で魔術を扱える者はほぼいなかった。
魔術師を頭から押さえるようなやり方ができたのはその為で、世論を
魔術が忌憚され、魔術持ちが人的差別を受け行き場を無くしていた大戦後の時代。
しかし当時この国の王は魔術に積極的に関与し、魔術師への差別もしなかった。
魔術の素養がある者を魔道士と呼び変える事で蔑称意識を薄めさせ、各国の取り決めから彼らを守る法案を勝ち取る事に成功し、人材も進んで受け入れた。
やがて国内に魔術研究所なるものまでつくり今に至る。しかし当然他国からの批判もあったものだから、王はその研究所で魔道士の力を制限し、生活の基盤となる魔道具の作成を第一に掲げた。
……まあそれにより、古い魔術ほど戦闘に特化しているからと管理が疎かになり、修繕や補修に掛ける労力が凄まじい。と、今更度々魔術院の議題に上がっているのはまた別の話だ。
因みに当時の王が魔術師についての法の成立を優先し取り仕切ったのは、彼の妻が魔術の素養持っていたからだとか。元は彼女を各国から守る為の防波堤作りの為。王の行動は人として「魔術師」と接してきたからこそのものだったのかもしれない。
ついでに魔術の素養を持つ者に性別は関係ない。
そして貴族の労働に関しては未だ
なんだか矛盾を感じるが、魔術に関しては先進的に始まったこの国も、未だ古い考えに囚われ前に進めぬ部分もある。
平民では女性労働者が男性の職場で徐々に頭角を現す者が出始めているようだが、まだまだ社会全体でその変化は微々たるものだ。
その為例え貴族女性に魔術の素養を持ち生まれても、喜んで魔術院の勤人とはならないのが常だ。
魔術の素養を持つ者が減少傾向にあろうとも、その恩恵が既に日常的に手放せないものとなっているにも関わらず、
はしたない
未だにそれが貴族の常識である。
だがそれを推し進めれば、魔術を扱えるのは平民ばかりになると危惧され始め、魔術の素養を持つ下位貴族と高位貴族との婚姻を皇族で取締り出したのは先代皇帝が退位する辺りからだった。
ものは試しと始められた婚姻制度だったのか、あっさり立ち消えになっている。まあ、高位貴族の反発が強ければ、成り立たない制度ではあるのだが。
リヴィアは一つ息を吐いた。
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