第51話 流通都市・バンデラン

僕とハリッサは行商人マルコスさんの馬車で移動すること、3ヶ月が経過していた。


現在は次の街へ行くため、森の道を走っていた。


「もう少しで目的の街に着くんだよね?」


「うん、流通都市・バンデランって街にはあと3日位で着くらしいよ」


ハリッサは暇そうな感じで僕に聞いてきた。


この3ヶ月、ハリッサは剣術の練習が出来ない馬車の上で生活する時間が長かったので、もう限界だという感じの表情だった……


「そう言えばバンデランにはなにがあるの?」


「いろいろなものがある巨大都市で、大きな冒険者ギルドや商業ギルドがあるらしいよ」


「冒険者ギルド! じゃあ、いっぱい依頼があるのかなっ!?」


今まで通過してきた街は、周辺に凶暴なモンスターはいない地域ばかりだったので、冒険者ギルドに行っても依頼はほとんど雑用ばかりで、討伐系の依頼は全然無かったのだ。


まあ、だからわざわざ3ヶ月もかけて流通都市に来たというのもあるんだけどね。


「もちろんたくさん討伐依頼があるはずだよ!」


「やったぁ! 楽しみだなぁ~! ……あれ?」


「ん? どうしたの?」


ハリッサが急に真剣な表情で森の方を見だした。


何かあるのかな?


僕が同じ方角を見ても……何にも見えない。


「誰かが争ってるみたい」


「こんな森の中で?」


「うん、たぶんひとりが何人ものひとに囲まれてるかな」

 

「えっ! それじゃあ助けなくちゃ! マルコスさん、ここで待っていてもらっても良いですか?」


「はい、ここで待っていますので、ご自由にしてくださって良いですよ」


「よしっ、じゃあ行こうハリッサ!」


「分かった!」  


僕とハリッサは森の中を走り出した。


「あっ!!」


しばらく走ると、ハリッサが大きな声と共に走るのを止めてしまった。


「どうしたの?」


「もう終わっちゃった……」 


「えっ、殺されちゃった? でも、囲っていた人達が悪人だったら拘束しないと」


くっ、間に合わなかったのかな……


せめて囲っていた人達が盗賊みたいな悪人ならば拘束しないと、他の人がまた被害に……


「アカリお姉ちゃん、違うよ」


「ん? 違うってどういうこと?」


「囲っていた人達、14人全員がやられちゃったんだよ」


「ええっ!? 逆のパターン!?」


「おや? 新たに2人が急接近してきたから、山賊の仲間が増えたのかと思ったら、どうして女の子2人が……こんなところに?」


僕とハリッサが向かっていた方角から剣を持ちながら歩いてくる爽やかそうな見た目の青年がいた。


あれ?


どこかで見たことある顔だな?


どこで見かけたのかな?


「あっ、もしかして、クロポン!?」


そうだ、ファイナルオンラインで僕の事を師匠と呼んでいたクロポンに容姿がそっくりだなと気が付いた。


「俺のことをクロポンなんて呼ぶのは師匠だけの筈なのに……まさか」


「うん、その師匠のアカリだよ」


「ええっ! 本当に師匠なんですか!? 女性だとは思っていましたけど、まさか子供だなんて……そうか、師匠は……」


「いや、これにはいろいろあって……クロポンも僕と同じ理由でこっちの世界に来たの?」


「はい、こちらには神から頼まれて来ました。そして、『流通都市に行けば運命の人に会える』と占い師の人に言われたので、森を抜けて流通都市へ向かっていたんですが、まさか街に到着する前に師匠と会えるなんて、やっぱり俺と師匠は運命……そう言えば隣の女の子は師匠のパーティーなんですか? もしかして、その子も俺たちと同じなんですか?」


「いや、この子は僕と一緒に旅をしている現地人のハリッサだよ」


「そんなんだ、俺の名前は……まあ、クロポンで良いか……よろしくね」


「私はハリッサ!」


巨大都市である流通都市に行けば他の勇者たちに会えるとは思っていたけど、まさかいきなりクロポンと会えるとは思わなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る