第4話 死神

 俺のスキルの数を見た冒険者たちが、パーティに誘ってきた。

 だが、パーティメンバーのクラスやスキルのバランスが取れているところだと、俺が参加しても余計だろう。

 色々と余計なものが重複してしまう。


 お誘いはありがたいが、吟味させてもらうことにした。

 俺を誘ったパーティも、急ぎではないから、ゆっくり判断してくれ、と待ちの姿勢。


 余裕がある。

 俺はと言うと、財布の中身的に大変余裕がないので、さっさとパーティを決めたくもある。

 さて、どうしたものか……。


 そう考えていたところで、ふと、カウンターに突っ伏した女性を見かけた。

 長い金髪で、鎧下を纏った女性だ。

 傍らには飲み干された酒盃がある。


「彼女は昼間から飲んでるのかい?」


 俺が尋ねると、冒険者の一人が顔をしかめた。


「ああ。あいつは死神だよ」


「死神?」


「あの女とパーティを組んだやつはみんな死ぬんだ。だから死神。今じゃ誰も、あいつと組まないよ」


 端的な情報が来た。

 なるほど、死神。


 冒険者はジンクスを大事にするそうだ。

 死神という評判が立ってしまえば、誰も一緒に冒険などするまい。


「君、君」


 俺は彼女の方をゆさぶる。


「う……うーん、放っておいてくれ……。私は死神だ……。みんな、みんな死んでしまうんだ……」


「ふーむ」


 私は彼女の身なりを観察する。


 使い込まれた剣。そして槍。

 どれも魔法の光を放っている。

 詳しく調べれば、それらの武器の来歴も分かるかも知れない。


 鎧下は、その上にプレートメイルを纏うタイプ。

 女性でありながら、金属鎧で戦えるだけのパワーがあると見える。


 これらの情報から推測するに、彼女は腕のいい戦士だ。

 それが死神?


「解せない。優れた戦士である彼女が、どうして死神になるんだ?」


「それはなあ」


 冒険者たちが、酒を飲みながら語ってくれる。


 いわく、死神はパーティの仲間と高難易度のダンジョンに挑んだ。

 盗賊のいないパーティだったため、丈夫な鎧を纏った彼女が前に出た。

 果たして罠は発動し、彼女の後ろにいた仲間たちがそれにかかって全滅した。


 いわく、死神は新たなパーティの仲間と護衛の任務についた。

 晩餐にて、死神は怪しい人物を見つけて追跡。

 撒かれた上に夕食にありつけなかった。

 その夜、仲間たちは毒で全滅。


 いわく、死神は三度新しいパーティと冒険に出た。

 輸送を護衛する仕事だったが、崖に挟まれた道で、賊が崖崩れを起こした。

 パーティは崖崩れに呑まれて全滅したが、彼女と彼女が護衛していた荷馬車は生き残った。


「なるほど」


 どれもこれも、彼女を残して仲間たちは死んでいる。

 だが、面白いことに、全ての仕事は完全に達成されていた。


 彼女は一人になっても、仕事をやり遂げたのである。


「な? 死神だろ。こいつと組むのはやめたほうがいいぜ、道化師さん」


「そうかな? 彼女は本当に死神だろうか? むしろ彼女のそれは、死を招き寄せるのではなく、死をかいくぐる幸運と言った方が近いんじゃないか?」


 俺は、受付嬢にステータス・クリスタルを持ってきてくれるように頼む。

 各個人の詳細なデータは、冒険者になる時点で登録される。


 その後、パーティを組んだり、冒険者としてのランクが上がる場合に登録し直す。


 彼女は三度、このクリスタルに触れていたはずだ。

 そこに、今回の事件の手がかりがあるのではないだろうか?

 最初の登録時には存在しなかったスキルが生まれ、この状況を導き出しているのではないだろうか。


 俺が持つ数々のスキルが、知識を吐き出し、そこから俺は推測、判断していく。


「幸運というものはね、本人がラッキーでも、その他の人間には不幸がふりかかったりしたように見えるものだ」


 受付嬢に呼び出してもらった、死神嬢のデータを見る。


「やはり」


 思ったとおり。

 死神嬢の名前はイングリド。


 彼女のスキルは、剣術、槍術、体術などなどが続き、最後に幸運の名があった。


「やはりイングリドは幸運だった。彼女と行動をともにしていれば、仲間たちは生き残っただろう。でもこれ、多分ユニークスキルのたぐいだよね?」


 ユニークスキルとは、世界でそれ以外にほとんど確認されていない、特殊な固有のスキルのことだ。

 俺の持つ知識をざっと呼び出してみても、幸運なんてスキルは他にない。


「はい。ギルドの記録でも、イングリドさん以外にいないですね」


 受付嬢が首を傾げる。


「よし、決めた。俺の運命は、この幸運な女戦士さんに賭けることにしよう。何せ、早急にお金がいるんだ。生活費が尽きそうなんでね」


「ええっ!?」


 冒険者たちは目をむいた。


「正気かよ!」


「死ぬぞ!」


「ああ、諸君のジンクスだとそうかも知れない! だが、彼女に関する情報から、俺が導き出した答えは全く別のもの。のるか、そるかだ。この賭けで勝って、彼女が死神でなくなれば、俺の名声だって上がるだろう?」


「そりゃあ、まあ」


「やれるもんなら」


 冒険者たち、俺の話に目を白黒させている。


「何より、報酬は二人なら二等分だ。この賭けで勝てば、金はガッポリ彼女はニッコリ。なかなか笑えると思わないか?」


 俺の言葉に、冒険者も受付嬢も、笑みを浮かべた。


「人生かけて、死神とパーティ組むのかよ!」


「なるほど、こいつは芸だ!」


 酒の勢いか、その場の空気か。

 冒険者ギルドがわっと盛り上がる。


「さあ、張った張った! この俺、道化師オーギュストは、死神イングリドとともに冒険して、果たして生き残れるのか! それとも死神イングリドが再び記録を伸ばすのか!」


 不謹慎なジョークではある。

 だが、これを乗り越えれば、彼女は死神ではなくなるだろう。


 俺のジョークで、ギルドが爆笑した。


「よっしゃ、オーギュスト、お前に賭けるぜ!」


「俺も!」


「私も!」


「おいおい、なんだよ! これじゃあ賭けにならねえ!! みんなオーギュストが生き残る方じゃねえか!」


 俺は彼らを見回すと、こう告げた。


「そりゃあそうさ! だってその方が面白いもんな!」


 再び笑い出す、冒険者ギルドの面々。

 かくしてこの俺、道化師オーギュストの冒険ライフが始まるのだった。

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