第5話 のじゃロリ×人狼少女②

「すまんの。時の魔術も使わせて貰ったぞい。」

「さて、おぬしはなにものじゃ……?」


 と転がる獣よくを見ると人の子供のように見えた。


「人間……?いや、こやつは、人狼か!」


 人狼。狼男。狼付き、獣付き、呼ばれ方は各地で様々だが人と狼の両面を持つ怪物だ。


 子供の人狼は耳だけ狼の姿を残し、あとは人間の子供になっていた。

 おそらく狂気の呪で、暴走状態だったのだろう。


「また、珍しい者がやってきたのぅ・・・・」

「ううぅ……」

 生きてはいるようで少し安心した。

 知らなかったとはいえ子供を殺したとなると一層罪悪感で生きづらくなる。


「おい、起きんか童。おぬし、だれに頼まれてわしを狙った?」

「ううう……」

「ダメか。まあ十もいかぬ童のようじゃし、とりあえず起きるまで家で……」

「ぅっ……ぅううあああああああああ!!!」


 急に大声を出した子供人狼。

 痛がっている……?


「おいおい、そんなに痛い魔術は使っとらんぞ?ちょっと大げさ……」


 ラニャは子供の尋常じゃない汗から別の可能性を探した。

 そしてそれはすぐに見つかった。


「この首輪……の下から?」


 子供は首輪をさせられボロボロの服ともいえない布を纏っていた。


 その首輪の下に

 謎の呪刻が赤黒く光って脈打っていた。


「これは、隷属(れいぞく)の呪刻か……?狂気の呪が解けたら発動するようになっておったのか……?」


 だとするとつまり


「なんちゅう胸糞悪い」


 この子が自分の襲撃に失敗し、自我を取り戻したらそのまま呪いで処分し用済みということだろうと悟った。


 腹が立ってきた。


 呪刻に触れるとバチッと拒絶反応があった。


「うううあああああああああ!!」

「待っとれ。今、解呪するでな!」


 ラニャは解呪を始める。しかし。

「うっ!」


 こちらの解呪に反応して脈打っていた呪刻が枝を伸ばし、触れているラニャの指から這い上がろうとしてきた。


「呪詛返しか!わしは何とかなるがこれでは童がもたんな……」


 呪詛の戦いはルールを理解し、制する方が勝つ。


 これは隷属、すなわち呪詛をかけた人間が頂点にたち相手を命令に従わせ、逆らえば呪い殺す。そういうものだ。


 つまり、


 この子に呪詛をかけた人間より術者としてラニャが上位に立てば命令の上書きができる。



「解呪がだめなら、同じ呪詛を上書きする!」



『汝(なんじ)、か弱き草原の羊。


 賢者ラニャ・オウル・マギラステの名において、我が名、我が声、我が命(めい)をきくならば


 汝、忠実なるわが傀儡(かいらい)となれ!』


 ラニャは指先を少し切り、血を出して首に触れながら呪を唱える。が


「うううう!」


「ちと足らんか……!」


 上位に立つにはただの隷属の呪詛だけではダメだった。


「ならダメ押しじゃ!」さらなる呪詛を付け足した。


「我、汝に呪われし名を刻まん者なり。

 

 我、汝に聖なる名を授けし者なり。

 

 授けし汝の名は「ルー・ガルー」


 人と獣の子よ。

 

 汝、我が傀儡となりて、我が意に従え!」


 それは命名の呪。


 相手に名を与えることで絶対的な権利を得る。


 これは、名前を持たない者にしか効かないが、道具のように扱われるこの子供人狼にその可能性をかけた。


「ぅぅぅぅ……」

「はぁはぁはぁ……」


 賭けはラニャの勝ち。

 赤黒い呪刻は消え、代わりに灰色の線が首の周りにできた。


「あー寿命縮まったわい……」


 たった10分ほどだったが超次元の呪詛バトルがあった。


 子供の人狼をおぶって家まで運ぶ。

 そのあとのことは子供が起きてからでいいかと思い、ラニャはソファーで眠り、子供は二階のベッドで寝かせた。



 



 ~翌日~





 珍しく午前中に起きたラニャ。


 さすがに気になるので二階へ。

ベッドでまだ寝ているようだった。


「うえー犬臭いのぅ……起きたら風呂じゃな……布団も変えねば」


 ボロ雑巾のように扱われてきたと思われる子供は凄まじい獣臭がした。

 きっと風呂など入ったことはないのだろう。


  キッチンへ戻り 子供人狼の分の食事を作る。


 きっと匂いで起きるだろう。


二階へ行く


「ぅう」

「お、起きたかの。」

「……!?」


 目が合うや否や、布団から飛び出し部屋の隅で威嚇してくる子供。


「そう警戒するな。わしはラニャ。おぬしはルー。わしが名付けたんじゃぞ。」


「ウゥゥゥウ」


「とりあえずこれを食うんじゃ。腹減ってるじゃろ。」


 それは珍しく作ったハンバーグだった。


 ソースに少し獣化を抑える薬を混ぜたので落ち着いて話ができるはず、食べればだが。


「なんじゃい。食わんのか?」

「ウゥゥゥウ」

「じゃあわしが食ってみるぞ」

 ソースのないところを食べる。

 モグモグ

「久々に作ったがうまいもんじゃ。ほれこっちこい。わしが食わせてやる。」

「ウゥゥゥ」

「警戒しとるの。じゃあこっちから行くぞ。」

 子供に近づくラニャ。

 そして

「グァァァァア!」

 と子供はラニャに飛びかかり噛みついた。

「痛っっっ!やめんか!老人の腕などうまくないぞ!」

「ウゥゥ」

 腕から血が流れ子供の口に付く。すると


 ドクン

「!?」

 隷属の呪詛は血によって交わされる。

 故にあるじの血をなめたことで主従の関係を思い出させ、その契約はここに完成し、子供は大人しくかむのを止めた。


「よし。いい子じゃ。おぬしの名はルー。わしの…………弟子じゃ。」


「……」

「おぬし、しゃべれるか?」

「うう」

 首を振るルー。何となく言葉は理解しているようだ。


「じゃあお勉強からじゃの。わしは厳しいぞぇ?」


「??」

「っとその前に風呂じゃ風呂!」


 ルーを風呂へ連れて行き一緒に入る。

 シャワーをかけながらルーの体を見て、


「おぬし、おなごだったんじゃな。見た目ではわからんかったわい。」

「?」


 ルーは女の子だった。


 風呂上がりに服を着せ、髪を少し切り整えた。 なぜ女児の服を持っているのかは、今は語られない。


 短めの黒髪で人狼には珍しくたれ耳。

 さっきまでは前髪で見えなかったが、オッドアイという人狼の特徴はおさえ、将来を期待させる、きれいな顔立ちだった。


「んーなかなか美人じゃなおぬし。契約して良かったわい。将来の楽しみができたぞ」


 しかし


 シャー……


「ん?」


 人生初のシャワーと風呂で気持ちよかったのか、ルーは脱衣所でお漏らししてしまった。


「あー……まあトイレの習慣も教えんとな……」


 なぜか慣れた感じのラニャ。

 もう一度、風呂に入れることになった。


 のじゃロリは子供に優しい。



神秘その2『人狼』-解決-






ーメモー


時の陣:自分の周りの狭い範囲に体感時間を遅くするフィールドを作る陣術。


狂気の呪:単純な命令のみを残して、暴走状態にする。気絶で解ける


隷属(れいぞく)の呪刻:かけた術者の奴隷として命令に従わせる呪い。血の契約。反逆すれば痛み出し死に至らせるため首に刻まれることが多い。


呪詛返し:呪詛を解呪しようとするものにたいして起こるカウンター。呪いの浸食を受ける


命名の呪:名前を与えることで絶対的支配権を得る。支配する呪としては最高位のチート技だが名前のない者にしか効かないため使いどころの難しいジョーカー。



人狼:狼男や獣人の事。性別はあまり関係ない。この世界では耳とオッドアイ、満月での獣化以外は普通の人間と同じ。寿命は人間よりかなり長い。



※この物語はフィクションです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る