第3話 離 脱

Leave


宇宙日誌の初記録を済ませ、足早にブリッジへ戻った―――

「チーフパイロット、直ちに、減速、反転」

キャプテンシートに腰を据えると指示を出した。


「ラジャー! SSアーク号、姿勢制御開始します」

ベテランパイロットのマイケル・シダーヒルは、素早い応答で操作に入った。


宇宙船はゆっくりと反転し、船首の向きを180度変えた。

いよいよ月軌道を離脱する。


「月軌道離脱1分前」

コスモナビゲーターのケイト・フォレストが、カウントダウンに入った。


「了解! 直ちにコスモ・ドライブに入ります」

マイケルは素早くエンジン切り替え操作を開始した。


彼は、WASAのパイロットの中でも、屈指のフライト経験を持ち、宇宙飛行士指導教官の資格を持つ。彼の操縦テクニックときたら、まるでマジシャンのような華麗なる手さばきで、誰もが脱帽する。


「いよいよ。出発だな!」

「ハイ! キャプテン」

黒い前髪から覗くケイトの大きな瞳には、光るものがキラリと浮かんだ。


この時、私の心の中には緊張感と期待感が同居し始めた。


私にとって、火星までの飛行は初めてで正直不安もある。でも、ベテランパイロットのマイケルをはじめ、優秀なクルー達にも恵まれており安心だ。また、提督である父やフライト・エンジニアのスミノフ博士を筆頭に、各分野の専門家の存在が、非常に心強い。


そして何よりの心の支えは、私の大事な天使が一緒にいることだ。彼女は、私の右腕として宇宙航行をナビゲートしてくれる存在で……。

というのは建前。実は、今後の人生行路も、彼女と一緒に歩みたいと思っている。



さて、月軌道を越えると、星間航行コスモ・ドライブに移ることができる。宇宙船はで宇宙航路に入るのだ。


【Attention! Attention! 人工重力生成。アストロブーツはオフです。Attention! 】

早速、マザーコンピュータからアナウンスが流れた。


不自由な無重力の檻から、ようやく解放される。

月軌道までは加速度飛行は許可されないため、船内は無重力に支配される。電磁式のアストロブーツという足枷あしかせを着けることで、重力の代用をさせている。


だが、これからは地上と同等の重力が働くことになる。私たち地球生物にとって、慣れ親しんだ1Gは、快適に過ごせるので何よりも有り難い。


今夜は、久々に本物の温水シャワーでもゆっくり浴びて、リフレッシュするとしよう。

 


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