異世界でドロップアウトして猟師になりました。

有夢

死んでないけれど転生して幼年期

第1話 俺が俺を見てる

 ふと目が覚めた、目が覚めたというよりも意識が覚醒した。そう表現したほうが良いのかもしれない。

 これは夢だな、しかも明晰夢ってやつかだろう。なにしろ夢なのに思考がクリアだ。そもそもなぜ夢だと思ったのか、それは最初に見たのが約32年間毎朝鏡で見てる自分。那須正樹のおっさんの寝顔だったからだ。

 ちょうど天井辺りから自分を見下ろしている状態で、動いてみようとしたのだが体の感覚が全く無い。瞬きしようとしても瞼の感覚も無い。自分の寝顔から目を背ける事すらできないのだ。なんの拷問だろうか?


『もしかして幽体離脱?家は霊感無い家系だと思ってたのだけれど……』


 おや?声は出る様だ。年齢にしては少し高めのいつもの俺の声だ。もっと渋い声になりたい。

 とりあえず……やることも無いので改めて寝ている自分を観察してみる。寝ている。イビキがひどい。あと線が太い。


『最近太ってきたからなぁ、しかもこんなにデカいイビキかいていただなんて……』


 言い訳をするなら俺は介護職員をしている、その介護の仕事はストレスがぱないのだ。そして溜まったストレス発散方法がやけ食いだった。若い頃はそれでもよかった。いや良くはないのだが昔はそれでもそれなりに痩せていた。

 しかし悲しいもので30歳を超えた辺りで変化が訪れた。おっさんに進化する過程で代謝が落ちた……。その結果が目の前で寝てる。辛い。



 暫く見下ろしてると「んごっ…」という声でイビキが止まった。

 恐らく無呼吸症候群というやつだろう、30秒ほどたっても呼吸する気配がない。


『え?これ俺死ぬの?』


 流石に焦ってしまう。


『息して!俺!息して!死んじゃう!』


 まさか幽体離脱って死んじゃうからなのか!?

 そんな風にパニックになり始めたところで「……んごぉ~」とイビキが再開して安堵した。この野郎心配させやがって!


『うん、痩せよう』


 俺が決意するには十分な出来事だった。





 あれから特に何も無いまま朝が来た。

 何時間たっただろうか?ずっと俺は俺を見下ろしたままだ。そろそろ目覚ましなるんじゃないか?外明るくなってきたなぁ。朝チュンしてやがる。朝ごはん何食べようかなぁ?なんて考えてたらようやく目覚ましが鳴った。

 もそもそっと俺が起きる

「朝か…」


 俺が起きた、そしてスマホの目覚ましを止めてた。

 あれ?俺が起きた?俺は俺を見下ろいているままなのに?俺は俺の体に戻る気配がないんだけれど?俺が俺でゲシュタルト崩壊しそう。


『これ、まだ夢?』


 何度目かのパニック。あたふたしてると俺が動き始めた、そしてこちらに気が付く事も無く部屋から出て行ってしまった。


『マジか…』




 約30分後、朝ごはんを食べたらしい俺が戻ってきた。


「はぁ……今日も残業かなぁ、マジでそろそろ辞めようかな。まぁ辞めれないだろうけど……」


 知ってはいたけれど、俺なぜか独り言の癖があるのだ。


『気をつけよう…』


 その自分の独り言でハッとして気が付く、あの俺には俺の声聞こえるのだろうか?


『おい!俺!聞こえますか?あなたの頭の上から語り掛けてます!』


 返事がない。聞こえてないようだ……。





 夜になった。

 ぐったりした俺が帰宅して、そのままベッドに寝転んだ。昼間何もする事が無くて俺も精神的にぐったりしてる。


「マジきつい、腰痛い…」


『俺もきつい、暇で死ぬ』



 そんなこんなで俺は眠る俺を見下ろしたまま夜は更けていく。


『ほんと、何の罰ゲームだよこれ…』


 ホントに何なの。


『…いつまで続くんだろう』


 病みそうだ、このままずっと俺見てが続くのだろうか?一体何の罪でこんな事に。神様!居たら助けてください!何でもします!

 そんな事を考えてるといきなり変化が来た、今までなかった感覚がする。これは浮遊感だろうか?水中から水面へと浮き上がっていく時の様な感覚がしたのだ。


 『何だ?引っ張られる?押し上げられてる?』


 視界が屋根裏になった、そうしたら直ぐに屋根瓦になった。そして数秒で俯瞰で自宅(親の持ち家)を見下ろす形になる。


『な…な…な…なっ!?』


 思わずななな星人になってしまう。もしかして、これ宇宙まで行くんじゃないか?地球から追い出される?焦る、すごく焦る。

 そこからは早かった、あっという間だった。マップアプリで見れる衛生写真みたいなわが町になり、更に直ぐに日本地図で見た日本が視界に映る。あ、人口の光ってキレイなんだな。なんて柄にもなく思ってたらまた直ぐに真ん丸な地球が目の前に。


『キレイだな…』


 青い地球がどんどん小さくなってしまう。ここまで来たら諦めの境地というか、不思議と不安感とかは無くパニックも起こさなかった。

 更に地球から離れていく。木星を越えたあたりでふと気が付いた、宇宙にしては明るくよく見えるのだ。日の当たらないはずの惑星の裏側まで不思議と見えるのだ。


『謎だ…』


 こんな体験をしたことがある人間は俺が初めてではないだろうか?なぜか不思議とわくわくし始めている自分が居た。




 太陽系を出たあたりで更に変化が訪れた。周囲に見える星明かりが糸のように伸びて見え始めたのだ。

 まるでトンネルを潜っている様に。進行方向である目の前と、もう見えなくなった地球があるはずの真後ろだけ円形に真っ暗にみえるのだ。

 さらに時が経ち周囲の知覚が難しくなるころには今度は思考がぼやけ始めた。ふわふわして思考が定まらなくなってきた。


『いつまで続くんだろう…』


 なんだか色々とどうでもよくなって来たかもしれない、このまま宇宙の果てまで行くのだろうか?

 そんな事を考えていたのだが、いつの間にか俺は考える事を止めていた。










 どのくらい経ったのだろうか?何日?何年?もしかしたら何光年とか経っているかもしれない。

 それは突然現れた。

 強すぎる重力場、突入してしまうと物質はおろか光ですら脱出できないと言われる存在。

 そう、ブラックホールだ。

 そんなものの前でもなぜか不思議と無関心というか全く心も思考も働かない。自分が無限に引き延ばされ吸い込まれるような感覚を感じながら俺は徐々にブラックアウトしていった。


 


 急にゾクッと悪寒がした。ガバッ!と擬音がしそうな勢いではね起きる。


「っ!はっ!はぁっはぁはぁはぁはぁ……生きてる?」


 もの凄く動悸が激しい、長時間運動した後みたいにすごく汗もかいている。

 胸に手を当ててみるとドクッドクッと感じたことがない位心臓が鼓動している、少し頭が痛い目眩もしてきた気がする。


「あ…ヤバイかも」


 目を閉じて仰向けになる、少し横になっていると動機も収まってきた気がする。

 あれは何だったのだろうか……全部夢だったのだろうか?やっと夢から覚めたのだろうか?そんなことを考えていたら気分もようやく落ち着いてきた、落ち着いてきたらすごく疲労を感じていることに気が付いてしまう。


「ハァ…」


 溜息が出てしまうのも仕方ないだろう、改めて疲労を意識してしまうと眠気に逆らう事などできなかった。




 少し寝たおかげで体調も戻ったようだ。


「知らない天井…っていうか天井高っ!」


 目を開けて最初に見た天井は10m位の高さのものだった、ゆっくりと周囲を確認してみる。


「うん、これ家じゃねーな…まだ夢か?」


 目が覚めた場所はまるで神殿で、ギリシャとかにありそうな有名な神殿のような作りに見える。

 天井は見える範囲で継ぎ目がなく、人が手を繋いで10人位でやっと囲めそうな石造りの太い柱を等間隔に建てて支えているような作りだ。


「これ地震が来たら死ぬな…」


 想像してしまうと背中に冷たいモノを感じた、考えてしまうと怖くなり急いで神殿から外に出てしまう。


「痛っ!」


 普段から運動していなかったツケだろう、出たところの階段で足がもつれて派手に転んでしまった。ヤバイすごく恥ずかしい。

 幸いなのか、不幸にもなのか、人がいない誰もいない。誰かいませんか!?


「だっ、……誰かいませんかっ!?」


 返事がない、誰もいないようだ。


「ん?泉?」


 改めて周りを確認してみる、神殿の周りは森林が広がっている目の前には広場がありその真ん中に泉があった。

 泉の底からは水が湧き出ており、広場の端の門の方へ小川が続いている。


「飲めるかな?キレイみたいだけれど、匂いもしないしいけるかも」


 泉の水を口に含んで様子を見てみる、臭くもないし違和感もない、むしろおいしいとさえ感じる、そう感じてしまえばもう止まらないお腹がタプタプになるまで飲んでしまった。





 人心地ついた所で改めて神殿を観察してみる、やはり地球のギリシャにある有名な神殿ぽくみえる。

 と言う事はここは地球なのだろうか?この神殿が作れるくらいの技術がある国だろうか?もうこの時にはこれが夢である事は諦めていた。


「さっきコケた時めっちゃ痛かったもんな…」


 

 まだ痛いけど擦り剝けてないよね?

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