恋愛初心者の付き合いかた

こすもすさんど

Episode:00 前奏曲

 春にしか姿を見せない桜の花々が満開になり、日が昇り始めて間もない暖かな蒼天の下に、桃色のシャワーが舞い降る。

 花々しいシャワールームを抜けたその先にあるのは、少し前までは別れを惜しむ声や、全霊を以て送り出す声に満ちていた、学舎――『私立四季咲学園』の門。

 今は、新しい出会いと始まりと言う二つのアーチを、彼――『九重蓮ここのえれん』はぼんやりと見据え、そこへ歩みを向けている。


 ――高校生にもなったんだし、そろそろ恋人の一人くらいは欲しいな――。


 ……と呟いていたのは、ちょうど一年前の始業式の、まさにこの時間帯だった。


 去年に蓮が一年生だった頃は、そんな前触れなど見当たりもせず、実に平凡に過ぎてしまった。

 クラスには仲の良い友達は何人かいたし、その中の女子と会話することもそれなりにあったのだし、悪くはなかった。

 けれど、それでも物足りなさを感じてしまうのは、恋愛をしていないからだろうか。


 それなら、今年こそは。


 密かに決意を固めつつ、その一歩を進めようとした、その刹那。


 降り頻る桜の花弁の中に、『一際大きくて四角い白い花弁』が目の前に落ちてきた。


「……ん?」


 それは花弁ではなく、ハンカチだと気付いたのはすぐで、拾ったのもすぐだった。


「あの、ハンカチ落としましたよ」


 自分のすぐ目の前を歩いていた女子生徒に声を掛けた。


 その声が届いてか、彼女は振り返った。


「え……?」


 振り返った際に、風に揺れる髪と、それにつられるように桜の花弁が舞い上がった。


 ――目に見えたその光景を、形容出来なかった。


 辛うじて言葉にするのなら、それは一瞬で、瞬きひとつぶんもない、本当に一瞬だけ。




 ――――――きれいだ。




 脳裏にそのチープな四文字が過ったのも一瞬で、自分の右手にある物の存在を思い出す。


「えっと、これ、落としましたよね?」


 目の前にいる女子生徒に、その白いハンカチを差し出す蓮。

 きょとんとしていた彼女は、蓮と目を合わせると、突然慌てだした。


「……あっ、え、えとえと……っ」


「あれ、違った?」


 落とし主を間違えたのだろうか?

 いや、そんなはずはない、目の前近くにいたのは彼女だけだったはず……

 どういうことかと疑問符が浮かぶ最中、


「ご」


「ご?」


 ご、と一拍を置いてから……




「ごめんなさーーーーーいッ!!」




「えっ、ちょっ?」

 叫びとも言える声と共に、女子生徒は瞬時に蓮の右手からハンカチをひったくると、そのまま逃げるように校舎へ駆け出して行ってしまった。


「…………俺、何かした?」

 今度は蓮がきょとんとする番だった。

 周りにいる生徒達が何事かと視線を向けているのを見て、ものすごく気まずい気持ちになりつつ、校舎へ向かった。






 昇降口の近くでは、各学年のクラス分けの張り紙が掲示板に張り出され、自分はどのクラスだろうかと賑わう生徒達でごった返している。


「(えーっと、九重、ここのえ、「こ」は……)」


 五十音順の中の、微妙に中途半端に上の方にある「こ」の辺りの、「九」の漢数字を目印にして探し……探し始めた最初の一枚目、二年A組の出席番号の十二番目に、『九重蓮』の名前はあった。


「(A組か)」


 そう言えば、と先程の瞬間――からのプチ騒動を思い出す。


 長い黒髪を薄紅色のリボンで結んでいた、白いハンカチの女子生徒のこと。

 いきなり謝りながらハンカチをひったくられたことに対して、憤りよりも戸惑いを覚えた。

 何故かは分からなかったが、何となく、気になっている。


「……一緒のクラスだったら、いいな」


 と小さく呟いてから、自分のクラスである二年A組の教室へ向かった。






 教室へ向かう途中で、見知った顔と出会した。


「よっ、今年も同じクラスだな、蓮」


 軽く片手を挙げつつ挨拶をして来たのは、去年も同じクラスだった悪友の『芝山駿河しばやまするが』だ。

 蓮も片手を軽く振り返して応じる。


「あ、駿河もA組だったのか?」


「お前な、クラスメイトの名前くらい確認しろよ」


「いや、どうせ教室に来れば分かるしと思って」


「そりゃそうだけどな、誰と一緒のクラスなのか、早く知りたいだろ?」


 一年生の頃から飽きるほど――実際は飽きることなどないのだが――繰り返してきた、他愛もない会話を交わしつつ、二人で教室へ向かう。


「ってことは、鞍馬も一緒のクラスなのも知らない感じか」


 駿河はふと思い出したように、蓮もよく知る名前を口にした。


「鞍馬も一緒なのか。何だかクラス替えした気がしないなぁ」


「そんなこと言うなって。仲のいい奴と同じクラスで、なおかつ新しい出会いもある!最高だろ!?」


「それはまぁ……うん、わかる」


 蓮は自分でも大人しい方だと自覚しているし、実際その通りだが、対する駿河はポジティブかつアクティブだ。

 その前向きぶりがプラスに働いたり、逆にマイナスな方向にぶっ飛んで行ったりするが、しかし不思議と損した気分にはならない。

 何だかんだと『イイヤツ』だからだな、と蓮は言葉を頭に浮かべてもそれを口には出さない。言えば駿河はまた調子に乗ることも分かっているから。




 教室に到着すれば、まだまばらな人数しかおらず、所々で元同じクラスの者達同士で集まって会話をしているのが散見する。

 その中で一人、蓮と駿河を待っていた男子生徒がいた。


「ん、二人とも意外と早く来たんだな」


 女子受けの良さそうな端正な顔立ちに、高過ぎないスラッとした長身のイケメン。


 彼が、蓮と駿河との三人組の一角『有明鞍馬ありあけくらま』だ。


「おはよう鞍馬」


「はよーっす」


 蓮と駿河がそれぞれ挨拶すると、鞍馬の席の周りに集る。

 この光景も、一年生の頃から変わらないものだ。


「とりあえず、またこうして三人揃ったことを喜ぶとしようぜ」


 会話の一番槍を飾るのは、大抵駿河だ。

 その次に続くのが鞍馬。


「僕としては蓮はともかく、鬱陶しい駿河まで一緒なのは少しアレだな」


「アレってなんだよ!?ひっでぇなぁ!」


 駿河と鞍馬が二人で話すところに、頃合いを見計らって介入するのが蓮。


「俺は二人とも同じクラスで良かったと思うけどな」


 新しいクラスで知り合いが誰もいないのはちょっと心細いし、と蓮は頷く。


「蓮!お前はほんっといい奴だな!見てみろ鞍馬っ、少しは蓮の聖人君子っぷりを見習え!」


 ベシベシと蓮の背中を叩きながら主張する駿河だが、対する鞍馬は涼しい顔でしれっと返す。


「僕まで聖人君子になったら、誰が駿河にツッコミを入れるんだ?ボケにはツッコミがいないと、漫才の収拾が付かないだろ」


「いつの間にか漫才のボケ役にされてやがる!?」


 軽くぞんざいな扱いをされる駿河だが、これもいつものことであると本人は自覚しているし、鞍馬自身も言葉では鬱陶しいと言いながらも本気で駿河のことを疎んじているわけではない。

 親しい仲だからこそのどつき漫才と言える。


 騒がしい二人を尻目にしつつ、教室内を見回してみる蓮。

 何人かは前と同じクラスメイトもいるが、半分以上は初対面だろう。


 その中で、一瞬だけとは言えさっき見た姿が見えた。


 薄紅色のリボンで柔らかく束ねた黒髪。


「えー、でも私、苦いの飲めないよ?」


「美姫はお子ちゃま舌だしねぇ、コーヒー飲むんなら、砂糖まみれにしないと」


「あ、紅茶とかジュースとかもあるから大丈夫。下校のついでにでも、来てくれると嬉しい」


 元々同じクラスメイトだったのか、二人の女子生徒と親しげに話している。


 そちらに視線を向けていたせいか、


「……あっ」


「あ」


 ふと、目線が合ってしまった。

 お互いに相手の目を見合って、動かなくなってしまう。


「あの、えっと……」


 つい先程に"あのようなこと"があったせいか、女子生徒の方は視線を泳がせながら言葉に詰まるばかり。

 さっきのことなら気にしないでいいよ、と言おうとした蓮だが、


「ん、どうしたの美姫?」


「なっ、なんでもないの!なんでもっ!」


 強引に話を終えて、蓮から目を背けるように友人に向き直る。


「(なんだかなぁ……)」


 何か誤解されているのではないかと不安になる。

 ハンカチを拾ってあげただけで、特に彼女に何かしたと言うことはないはず、しかし知らない間に何かやらかしてしまったのか……と自分の落ち度を探そうとする蓮に、駿河から声をかけられた。


「あの娘が気になるのか?」


 美姫、と呼ばれていた女子生徒と目が合ったことを見られたようだ。


「うん、まぁ……」


 気になるかならないかと聞かれれば、前者だ。


「確か……お前が見てたのが『朝霧美姫あさぎりみき』さんだな。で、その隣のポニーテールが『早咲雛菊はやさきひなぎく』さん。ウェーブの方が『松前静香まつまえしずか』さんだ」


 既に知っていた名前なのか、駿河があの二人の名前を教えてくれると、鞍馬も話に混ざってきた。


「蓮は目の付け所のいい奴だな、三人とも可愛いし。……ただ、朝霧さんは男子が少し苦手らしい」


 男子が苦手と聞き、蓮はようやく腑に落ちるものを覚えた。

 いくらハンカチを拾ってくれたとは言え、いきなり見知らぬ男子に声を掛けられたのだ、彼女からすればどうしたらいいか分からなくなるのかもしれない。


 その結果が、謝りながら逃げるような形になったのだろう。


「そっか……」


 新学年早々悪いこと(ではないし、むしろ善行を働いたはずなのだが)をしたかな、と蓮は少しだけ自分を戒めた。






 始業式の全校集会とホームルームも滞りなく終わり、時刻は昼前辺り。

 校内各所のスピーカーにチャイムが鳴り響く中、駿河は蓮に声を掛けた。


「よっしゃ、始業式も終わったことだ。蓮ー、昼飯食って帰ろうぜ」


「あぁ分かった。鞍馬も一緒に昼飯?」


 駿河から蓮へ、蓮から鞍馬へと視線のリレーが行われるが、バトンは鞍馬のところで止まる。


「悪い、今日は彼女とデートの約束してるんでな」


 またな、と短く返すとさっさと教室を後にしていく鞍馬。


 それを見送る駿河は、


「ったく、彼女持ちってのは羨ましくてしょうがねぇや」


 と溜息混じりにぼやく。


「よし、今日は野郎二人で昼飯だ!行くぞ蓮!」


 しかしすぐに意識を食欲へと切り替える。この切り替えの早さも駿河の美徳だったりする。


「お、おー」


 蓮は駿河に連れられるように教室を後にしていく。


 ――何となく、教室を出る間際に美姫の姿を見つつ。






 学園の近くで、安くてボリュームがあり、かつのんびり話が出来るところとなれば、ラーメン屋くらいがちょうど良かったりする。


「でだ、蓮」


 注文を終えたところで、駿河は唐突に話を切り出す。


 とてつもなく真面目な表情で。


「俺はな、このままじゃダメだと思ってるんだ」


「ど、どうした?」


 いつにない真剣な様子の駿河に、蓮は思わず気を引き締める。

 何か悩みでも抱えているのだろうか。


「一年の頃は、「まぁ今はいいか」って思ってお前や鞍馬とつるんでいたりしていたわけだが、実は中学時代の頃から悩んでることなんだ」


 いつもはちゃらんぽらんに見える駿河だが、どうにも深刻な悩みのようだ。

 蓮はなおのこと耳を傾け、駿河の悩みを聞こうとする。


「なぁ蓮。俺やお前には無くて、鞍馬にはあるもの。それって何だと思うよ?」


「え?鞍馬にはあるものって……」


 それは一体何のことなのか。

 だが、意外にもその答えはすんなりと導き出せた。


「……彼女がいるかどうかってことか?」


「そうだ!その通りだ!よく答えてくれた!」


 蓮の回答に、駿河は涙を流さん勢いで大仰に頷く。


「まぁ、既にお察しの通りだと思うけどな、俺達もう二年生だろ?もう高校生活の1/3を使ってしまったわけだ」


「ま、まぁ、今からでもまだ2/3残ってるし……」


「その考えが良くねぇんだよ蓮ッ!」


 お冷をぐびぐびと飲み干し、すぐに注ぎ足す駿河。


「三年なんて時間は、ほんの一瞬で過ぎるんだぞ!?『まだ2/3残ってる』んじゃない、『もう2/3しか残ってない』んだ!」


「一年が過ぎるのは早いって言うのは分かるけど……でも、そう言う機会が無いんじゃ仕方無くないか?」


「仕方無くねぇ!仕方無くねぇんだよぉんっ!」


 ブルンブルンと身体を捻らせる駿河に、蓮は率直に「やめてくれ、キモい」と冷ややかな罵倒を浴びせつける。

 キモいの一言を喰らいながらも、駿河は体勢を元に戻してから言葉を続ける。


「機会なんて待ってたら一生来ないんだよ!そしてそのチャンスは、自分で作るもんだろ!」


「お、おぉ?」


 いやに説得力のある駿河を前に気圧される蓮。


「そして、春と言えば新しい出会いの季節!ウチの学園祭は五月末にあるから、そこにもチャンスを作れる!」


「…………新しい出会い」


「だろ!そのためにはまず!」


 まず、と言ってから駿河はその先を言おうとして、


「チャーシューラーメン、味噌ラーメンおまっとーさんです!」


 二人の座る席に、それぞれオーダーしたラーメンが置かれる。


「……昼飯だな」


「……昼飯か」


 いただきます。






 新学期早々、やらかしてしまった。

 彼女――『朝霧美姫』は、学生食堂の席に着きながら、今朝のプチ騒動を思い返す。

 あの男子――九重蓮と言う彼は、親切心からハンカチを拾ってくれたのだろう。

 にも関わらず、いきなり男子に声を掛けられたことに頭が真っ白になり、思わず謝りながらハンカチを引ったくり、そのまま逃げてしまった。


「ねぇ、美姫」


 向かいの席にいる、一年生の時からの友人の『早咲雛菊』は、今朝からどうにも妙な様子である美姫に訝しげに声を掛ける。


「……ぅえっ、どうしたのヒナちゃん」


 若干声を上ずらせながら、美姫は慌てて反応する。


「どうしたの、は私が訊きたいの。あの男子……九重くんって言ったっけ?彼と何かあったの?」


「べ、別に何でも……」


 別に何でもない、と言いかけたところで、雛菊とは別の声が届く。


「何でも無かったら、美姫がそんな反応するわけないって」


 お待たせー、と自分の昼食をトレイに乗せて来たのは、同じく友人の『松前静香』。


 雛菊の隣席に着いた静香は、割り箸を割りながら美姫の方へ向き直る。ちなみに、美姫と雛菊は弁当を用意している。


「九重くんと目が合った時、明らかに動揺してたもんねぇ。なに、一目惚れでもした?」


 意地の悪そうに問い質してくる静香に、美姫は「ひっ、一目惚れじゃないよっ!?」と思わず声の音量を上げ、周囲から奇異の視線を集めてしまい、縮こまる。


「…………ただ」


「「ただ?」」


 雛菊と静香の声が重なったのは、美姫の事を案じているが故の偶然だった。

 ……尤もこの場合、純粋に心配をしているのは雛菊だけで、静香は話の面白味を探ろうとしている、と言う差異はあるが。


「私、ハンカチ落としたの気付かなくて、彼が「ハンカチ落としましたよ」って声掛けてくれて、それで振り返ったら……」


「振り返ったら……どうしたの?」


 そこに何の問題があるのかと、雛菊は疑問符を浮かべる。


「その……背とか高かったし、男子だったし、いきなりだったし……」


「だったし?」


 静香が続きを催促するが、その続きは彼女が期待する結果ではなかった。


「どうしたらいいか分からなくて……「ごめんなさい」って、ハンカチ思いっきり引ったくって逃げたの……」


「「………………」」


 沈黙する雛菊と静香。

 もう数秒だけ言葉が途切れてから、静香が最初に口を開いた。


「あー、つまり、やらかしちゃったわけだ?」


「うん、そうなの……」


 要約すると「やらかした」のだ。

 はぁ、と大きく溜息を洩らす美姫。


「九重くん、さっき教室にいた時は何も言ってこなかったけど、絶対怒ってるよね……?」


「怒るかどうかは知らないけど、快くは思わないでしょうね」


 少なくとも、善意と親切心で行ったことを無碍にされて、嬉しく感じるのは……いなくはないが、それは極々少数の特殊な人間に限られるかもしれない。


「まぁアレね、九重くんがどう思うにしろ、反応に困る返し方をしちゃったのは間違いないんじゃない?」


 静香の指摘するその通りだろう。

 素っ気なく冷たい態度ならまだしも、「ごめんなさい」と謝りながら引ったくりながら逃げたのだ。

 美姫自身も逆の立場であることを考えて、「……うん、やっぱり困るよね」と自覚する。


「……明日、九重くんにちゃんと謝らないと」


 彼に怒られるかもしれないが、謝らなくてはならない。

 こんな微妙な空気を抱えたままなのは、美姫としては耐え難いものがあるのだから。






 駿河と昼食を食べ終えて、帰宅した後は特に何かあるわけでもなく、ごく平凡に過ごした、その日の夜。

 入浴も終えて、後はもう寝るだけの体勢を整えてから、蓮はベッドの上に寝転ぶ。


「ふぃー……っと」


 四月にもなれば気温ももう大分暖かく、薄着で過ごしてもいいくらいだ。

 眠気が意識を覆うにはまだ早いが、何となくぼんやりとする。

 そんなぼんやりとした時間が数十秒も続け、脳裏に浮かぶのは、ラーメン屋での駿河とのやり取りだ。


 ――そして、春と言えば新しい出会いの季節!ウチの学園祭は五月末にあるから、そこにもチャンスを作れる!――


 新しい出会い。

 去年の今頃は、高校生になったばかりでそんなことを意識する余裕も無かったが……


 ふと、美姫のハンカチを拾い、その彼女が振り返った瞬間――からの、プチ騒動が思い返される。


 アレも、新しい出会いと言えばそうなのだろうか。

 それに、いやそれよりもと言うべきなのか、自分が彼女との出会いをこうも何度も鮮明に思い出せるのは、


「(可愛いかったな……)」


 そう。

 単にそこだった。

 我ながら単純な動機だとは思っても、自分の目には可愛らしい女の子に見えるのだから仕方ない。

 いや何に対して言い訳しているのか、自分で自身にセルフツッコミを入れてみる。


「……素直に寝るか」


 忘れない内に目覚まし時計のアラームをONにしてから消灯し、布団の中へ潜り込む。


 徐々に眠気が意識を覆い尽くし始め、朧気になる意識の中でも、やはり今日のあの出来事を思い出してしまう。


「(少しくらい、期待してもいいよな)」


 まだ膨らんですらない期待を胸に、蓮は静かに眠りに落ちた。

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