第26話

翌朝、目が覚めると、なぜか泣いているというわけもなく、横を見ると琉愛がいない。

突然起きても、私が男の子に戻っているというわけもなく、鏡の前に立っても、女の子の私が私を見つめてくるだけ。

ちょっとだけ寂しくて、でも、この姿にならなかったら、琉愛と結ばれていなかったと考えると、この姿になってもよかったかもと思ってしまうのは私の弱さかもしれない。

なんてことを思っていると、琉愛が帰ってきた。

「どこ行ってたの?」

と問うと

「ちょっとね、ランニングしてきた」

と、琉愛は答えた。

え?ランニングしてきたの?

私を置いて…?

「私も起こしてよ…」

「え?どうして?」

「いや、どうしてって。私も体力落ちてるから、戻すために走りたかったなぁって」

「あっ、ごめんね、でも、昨日の練習見てる限りでは、体力落ちそうには見えないから…」

「落ちてる、落ちてる。男のときとは全然違うぐらい落ちてる」

「いや、それを比べても…」

「そうだけど、やっぱり、落ちてるなって思っちゃう」

男の時と比べるのは、今の私には酷なのかもしれない。だけど、できるだけ、今までの状態に近い状態で、全力にやりたいのだ。

「とりあえず、明日からは起こすようにするね」

「ん、お願い」

と、明日からの約束を取り付けたところで、私は寝起きの、琉愛はランニングのシャワーに入る。

え?夜のお風呂は別々だったのに、朝はいいのかって?

琉愛が

「一緒に入ろっか?」

って言ってきたから、別にいいでしょ。

と、まあ、朝だったので、そういうことは起こらず、二人ともシャワーを浴び、着替え、紫田さんが用意してくれた朝食を一緒に食べ(そこで毎度のことながら、紫田さんが一緒に食べるか、食べないかという私たちと紫田さんとの口論があり、今日の夜からやっと、一緒に食べてくれるということになった。)、練習のお迎えが来るまで、練習への準備をすることになった。

「奏空、はい、ここに座って」

「ん?はい」

と、鏡の前に座らされた。なっ、なに?なんか行われるの?

「奏空は私と同じように髪が長いよね」

「そ、そうですね…」

「そして、艶がすごいよね」

「そう、そうなのかな?」

「なので、多分、昨日はバドミントンやりながら、若干どころじゃない、結構邪魔だったんじゃない?」

「うっ、そうですね…」

確かに邪魔だった。打っても、髪の毛が視界に入るし、汗で髪が顔に張り付いて、ああ!ってなってしまったし。

「ということで、私がヘアメイクしてあげるね、今後は」

なるほど、だから、鏡の前に座れと言われたのね。

「まあ、でも、スポーツの時って、ポニーテールとかしかないから、奏空もいつかはおしゃれのためのヘアメイクを覚えてもらわないとね」

「…すぅーっ、さいです」

「ということで、今日はポニーテールをやります!」

「はい…」

「ということで、じっとしておいてね」

というか、女の子って髪型とかいっぱいあるから、大変そう…。私が思うのもおかしいけど。

「そういえば、紫田さんが、今日なんか、パーティーがあるとかなんとか言ってたから、早めに帰ってきてって言ってたよ」

「え?そんなこと言ってた?」

「いや?紫田さんから聞いてなかった?」

「まったく」

「…ということで、今日は王様主催の私たち歓迎のパーティーだってさ、あいさつ回りとかはなくて、座ってて、来てくれる人たちにあいさつとかをするだけでいいって言ってたわよ」

「…それってさ」

「うん」

「私もおめかししないといけないやつ…?」

「多分そう」

と私の髪から手放し、首の方に手を回してくる琉愛。そして、悪いことを考えてそうな顔で、鏡越しに私を見ながら、

「だから、今日は化粧デビューだよ!やったね!」

「…」

私はそんな琉愛のかわいいけど、ちょっと腹が立つような顔を見て、練習後の現実から目を背けたくなった…。

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