これは素敵な出会いです!

ありきた

第1話 先輩と一緒に寮生活!

「ついにっ、待ちに待った寮生活が始まるよ~~っ!」


 興奮のあまり校門前で大声を出してしまい、一斉に集まった視線によって冷静さを取り戻す。

 周りに迷惑をかけてしまったことを反省し、浮かれて踊り出したりしないよう強く意識する。


 私こと花咲はなさきつぼみは、親元を離れて寮生活を始めることになった。

 この春から三年間お世話になる、私立星花女子学園高等部。

 寮に入るのは今日からだけど、入学式は数日後だ。

 午前中のうちに手続きを済ませたり説明を受けたりして、いよいよ本格的に寮生活がスタートする。

 ルームメイトはどんな人だろう。

 仲よくなれるといいな。


 食堂や大浴場のある一階から階段を駆け上り、ワクワクしながら二階の廊下を早足で進む。

 共同生活に対する緊張は、期待や高揚感と比べれば皆無に等しい。

 私は部屋の前に着くと同時に、ノックするのも忘れて扉を開けた。

 清潔感のある室内に、シングルベッドが二つ。

 奥側のベッドでは、とんでもない美人さんが腰を下ろして読書をしている。


「初めましてっ、花咲蕾です! これからよろしくお願いします!」


 部屋に入って扉を閉め、元気よくあいさつしながらルームメイトのそばに歩み寄る。

 張り出されていた部屋割り表によると、彼女は新二年生の青崎あおさき友璃奈ゆりなさん。

 ボブカットの黒髪は染めているのか、わずかに青みがかっている。

 組まれた脚はとても長く、スレンダーなのに胸は大きい。

 私は見た目が小4の頃から変わっていないので、理想とも呼べる体型に思わず見惚れてしまう。


「……よろしく」


 静かなのによく通る、澄んだきれいな声だ。

 友璃奈先輩はこちらをチラッと一瞥した後、脚を組み替えて読書を再開した。

 ただ本を読んでいるだけのはずなのに、一流の画家が手掛けた絵画のような芸術的光景を作り出している。

 私が同じことをやっても、印象はきっと真逆だ。『お子様の読書風景』なんて題名が付けられるかもしれない。


 読書の邪魔にならないよう、できるだけ物音を立てずに荷物を置く。

 ベッドに寝転ぶと、想像していた以上にフカフカで気持ちよかった。

 これなら夜もぐっすり眠れそう。むしろ熟睡しすぎて寝坊するかも。

 ゴロゴロしながらスマホでお母さんとメッセージのやり取りを交わし、ちょうど区切りがついたところで、友璃奈先輩がパタリと本を閉じた。


「友璃奈先輩っ、後でトランプしましょうよ! 家から持って来たんです! オセロとか将棋もありますよ!」


 仲よくなるチャンスなので、彼女の隣に移動しつつ話しかける。

 学年が違うと、お互いに顔も名前も知らないまま卒業するケースがほとんどだ。

 そんな相手と交流する機会に恵まれたのだから、これは素敵な出会いだと断言できる。

 たくさんお話しして、どんどん仲よくなっていきたい!


「やらない」


「じゃあ、おしゃべりしたいです!」


「……どういう神経してるのか知らないけど、よく初対面の相手にそんな満面の笑みを向けられるわね」


「え……?」


「私は一人でいる方が好きなの。あんまり馴れ馴れしくしないで」


「でも私、先輩と仲よく――」


「私は別に仲よくなりたくない。それに、どうせあんたも……」


 友璃奈先輩は私の言葉を遮り、なにかを言おうとして途中で口をつぐんだ。

 そのままスッと立ち上がって、呼び止める間もなく部屋を出て行ってしまう。

 一瞬見えた横顔は、怒ってるというよりも、どこか悲し気だった。


「友璃奈先輩……」


 一人きりになってしまった部屋に、私の声が虚しく溶ける。

 もしかして、いきなりグイグイ話しかけてウザいと思われちゃったのかな?

 あと、最後になにを言おうとしてたんだろう?


 今回の件はしっかりと反省して、次から気を付けよう。

 さっきはちょっと怖かったけど、友璃奈先輩は決して悪い人には見えない。

 いますぐには無理だとしても、いつか必ず、笑顔で話し合えるような関係になりたいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る