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……疲れた。


俺の名前は波白 凪(ナミシロ ナギ)。此処、私立狗巻(イヌマキ)高校に通う2年生。

勉強も運動も、まあ、平均的。クラスでも特に目立つような生徒ではないし、目立ちたくもない。そんな俺でも熱中できるものがある。それがゲームだった。ゲームの中でならどれだけ勝ち続けても、目立っても、憎まれも疎まれもしない。目立つのはあくまでもゲームの中のキャラであり、自分ではない。それが心地よかった。様々なゲームで勝つために、思考して、実行し、修正する。それが俺の日常だった。


そしてここは、そんなゲームに生きるゲーマー達が集まって立ち上げた部活。狗巻高校ゲーム部の部室である。去年皆で立ち上げた部活だが未だによくこんな部活動の設立が許可されたものだと、我ながらに思う。



「……だぁぁぁぁぁぁぁぁ…燃え尽きたぁ」



俺の目の前でだらりと腰掛けるこの男は通称”マイル”。明るい茶髪に筋肉質な身体、細マッチョという言葉はこの男の為にあるようなものである。俺と同じクラスで幼馴染。所謂親友というやつだ。因みにあだ名の由来は、本名が夜須 海里(ヤス カイリ)の海里から来ている。



「ノノは…よく、がんばったっ!…」



マイルの隣、机に突っ伏している女子。小柄で、青みがかったショートヘアー、はっきりとした目鼻立ちだが、幼さの残る顔。野崎 夢乃(ノザキ ユメノ)。本名の頭とお尻を取って、通称”ノノ”。こちらもクラスは違うが俺と同じ高校二年生。



「おおーい!いっちー!!生きてるかー!?戻ってこーい!」


「………」



女子にしては長身で、真っ赤な髪。猫のような小動物を思わせる人懐っこそうな顔。活発、天真爛漫なんて言葉を絵にかいたようなこの人は”ミレ姉”と呼ばれている。俺の一つ上の先輩で三年生。本名、倉門 美麗(クラカド ミレイ)


そしてミレ姉に声をかけられ揺さぶられるが、天井を仰ぎ見たまま反応を示さないこの人は、一条 融(イチジョウ トオル)、ミレ姉と同じく三年生。ゲームのアカウント名はいつも”イチル”で登録している。線の細い体に白い肌。青みがかった長い髪が両目を隠し、少々不健康そうな印象を覚えるこの人は、物静かで口数は少ない。



「皆よく頑張ったね、これならなかなか反響も良いんじゃないかな?」



そんな俺たちを見て微笑むのは、九ノ原 冬夜(クノハラ トウヤ)先輩。ゲーム部の部長を務める三年生。成績優秀、容姿端麗、この学校じゃちょっとした有名人だが、この人が実はディープなゲーマーだと知る者は少ない。

スラリと背が高く、くっきりとした目鼻立ちに、綺麗なアッシュグレーの髪。噂によると芸能事務所からスカウトされたことも何度かあるんだとか。



「先輩達、すごいですよ!今までで一番の反響です!」



パソコンの画面を見ながら声を上げるのは由衣 奏(ユイ カナデ)、今年入部したただ一人の一年生。小柄で中性的な顔立ち、淡い栗色の髪。本人いわく、幼い頃から女の子に間違えられることがしばしばあり、コンプレックスなのだとか。現在ゲーム部はこの7人で活動している。



「もう7000再生いってますよ!これはまだまだ伸びますね」


「おっ、見せて見せて」



由衣の言葉にパソコンの前に集まる部員たち。画面には先ほど俺たちがプレイしていたゲームの映像、いわゆるプレイ動画が流れていた。最近俺達がドハマりしているオンラインゲーム、<ビギニングワールド>。俺達はゲーム内で”after school”のグループ名で活動し、そのプレイ動画を投稿サイトにアップロードし続け、今ではそこそこ有名なプレイヤー集団となっている。


このビギニングワールドというゲーム、協力してモンスターと戦ったり、プレイヤー同士で戦闘したり、広大なマップを探索したりと、高い自由度と膨大なイベントチャートがウケて大ヒットとなった。発売から二年たった今でもアップデートが繰り返され、コアなファンが多い作品である。



「おおー!すごいコメントの数!!」



画面の端から端へと流れていく視聴者が打ち込んだコメント。


『やべえええええええええええええ強すぎ』

『実質こいつら今の最強ギルドじゃね?』

『最後のナギ氏の一撃しびれるぅ』

『マイルが実はいい仕事してるんだよ』

『after school  最強』



等というコメントを見ていると、アップデート実装されて3日間、クリア報告が上がらなかった新しい超高難度クエストを誰よりも早く攻略したんだという実感と達成感が沸き上がってきた。


「由衣、すまないな。動画のアップ、一人に任せてしまって」


「いいですよ。今回のクエスト定員6人でしたし、僕は先輩たちのプレイ見てるの好きですし」



九ノ原先輩の謝罪に由衣は快くこたえ、微笑む。ほんと、出来た後輩が入ったものだ。



「こりゃあこのままPvPランキングも一気に1位までもってくしかねーな!」


そう意気込むのはマイル。PvPランキングとはプレイヤー同士で戦ってその勝敗で決まるランキングのことで、現在俺達after schoolのランキングは世界8位。これまでランキング1位を目指しつつ、プレイ動画をネットに上げてきた。だが8位という位置づけになってから、なかなか順位を伸ばせずにいた。というのも…



「んー…やっぱり今日も、【連合国軍】はログインしてませんね」



ゲーム画面を操作しながら由衣がつぶやく。



「えー!?あいつ等には一回勝っとかないと気が済まないのにー!!」



そうボヤくのはミレ姉。連合国軍…1年ほど前からビギニングワールドのランキング1位に君臨し続ける最強ギルド。PvPの戦績は全戦全勝、無敗の王者というやつだ。何でもランキング上位のギルドのリーダー達が、自分のギルドを解散して集まり、設立したギルドだという。


俺達after schoolの戦績は316戦309勝、これまでに7度、敗北を喫している。その7回の敗北の内5回が、連合国軍につけられたものだ。俺達はいつかこの悔しさを晴らそうと腕を磨いてきた。が、ここ最近連合国軍のメンバーはビギニングワールドにログインしていない。今では連合国軍は解散したなんて噂も出る始末。



「…勝ち逃げは許さない」


「お、燃えてるねぇ!ナギ!」


つい、熱くなって言葉が漏れてしまっていたようだ。でも、俺にとって自分を抑えることなく全力をぶつけられるゲームの世界。そのゲームで敗れるのは、許容しきれない悔しさがあった。






同時刻  某所




暗い部屋の中、煌々と光を放つ大きなモニター。そこには巨大な黒い龍と戦う六人の男女の姿が映し出されていた。そのモニターの前に立ち、画面を見つめる一人の男。


黒龍が炎を吐き出し、画面を埋め尽くす…



「……素晴らしい」



男は一人、不敵に笑みを浮かべ、踵を返し部屋を後にした。



画面には



≪WINNER   【after school】≫



の文字が表示されていた。

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