聖女 人間に嫌気が差す

「はぁ……」


 アリシアはため息をついた。


「聖女アリシアの退陣を我々は求める!」

「聖女アリシア! 政権からの退陣を!」

「貴様のような悪女! 聖女なんかじゃない! このアバズレのクソビッチ!」


 デモの雰囲気に乗せられ、国民達は好き放題にアリシアを罵っていた。


「全く……何なのよこれは。災害復興の作業も遅れているし」


 朝から抗議デモで五月蠅かったのだ。心休まる時間などない。


「こんなはずではなかった。こんなはずでは」


 国王を暗殺し、王権を得る。そしてあのうざったかったネクロマンサーを追放すれば全ては思い通りでバラ色の未来がやってくると思っていたのだ。


 しかし、現実はそうではなかった。やってきたのは過酷な現実であった。


「くそっ! なんなのよもう! 段々人間が嫌になってきたわっ!」


 アリシアはジルの言葉を思い出す。あの不気味に見えていたアンデッドたちではあるが、今から思えば主のいう事をなんでも聞く忠実な奴隷だったではないか。


そう思わざるを得ない。人間は裏切るし、信用もならない。私利私欲で動く、何とも醜い連中だ。

 

 自分自身が何よりもそうではないか。平気で人を貶める。自分の利益の為なら国王を殺し、あのネクロマンサーに濡れ衣を着せた。

 それは他の人間も同じだ。人間は醜いのだ。醜い自分と同じで。


「……そうよ。あのネクロマンサーの言う通りだったのよ。人間は信用ならないし。我儘だし。本当、最低最悪の生き物だわ」


 聖女は嫌気が差してきた。


「……こんな事ならもういい。アンデッドの方がよほど信用ができる。うるさくないわ。何も言わないのだし。見た目は不気味かもしれないけど。すぐになれそうだし」


 アリシアはふらふらと歩きだす。


「アリシア様! どこにいかれるのですか!」


「うるさいわね! どこだっていいでしょう!」


「困ります! 今から復興資金の計画と、そしてデモ隊の鎮圧! 流出する国民の阻止策の会議などをしなければならないのです!」


 大臣の一人に言われるが、アリシアはもはや聞く耳を持たなかった。王城の隠し通路から出る。

 デモ隊に直面したら殺されたりレイプされたりしかねない。


「あのネクロマンサーは確か不死者の国にいるはずよね」


 アリシアは不死者の国へと向かったのである。

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