宮地航  ③ SNSを手放すと受験勉強ははかどる



「とにもかくにも。今の話は他言無用」


「分かってるって」


イケメン宮地はオレの念押しに爽やかな笑顔で応えた。


「ついでにさっきのスタバも同じく他言無用」


「分かってるって」


今度の笑みはいささか様子が違う、と思ったら、おもむろにスマホを取り出してオレに差し出した。


ん? 何だ??


覗き込むと、そこには。





ぎゃーっっっっっっ!


久保が差し出したスプーンを咥えているオレの画像が……!!





「ななななななんてものを……!!!」


思いっきり取り乱してしまったオレを尻目に、宮地はひどく楽しげな顔で


「まだあるんだ。ほら、」


スマホの画面をスクロールしてみせる。

そこには同様に、川原とオレの姿が写っていた。


「おおおお、おまえってヤツは……!!!!」


怒りと羞恥で体が震えるオレに向かって、宮地はのうのうと抜かしやがった。


「この画像、送ってやるからLINE交換な」


「いいいいい要らねえよそんなもんっっっっ!!!!!」


「え? マジ? 要らないの? 寂しいコト言うなよ。せっかくうまく撮れたのに。

あ、だったらコレ、久保と川原にあげようかな?

あの2人ならきっと喜んでくれるだろうし」


ああそうだそうだそれがいい、とひとり頷く宮地にオレは慌てて止めに入るしかなくなった。


「わ、分かった。分かったから。

LINEでも何でも交換する。

画像も送ってくれて構わない。

だから。

頼む。

あいつらには送らないでくれっ!!!!!!」


悲鳴にも似た声が、オレの口からほとばしる。

宮地は好青年らしいその顔を大きくほころばせると、


「おお。素直に始めからそう言ってくれればいいものを」


言うなりスマホの画面をさっさと切り替え、自分のQRコードを差し出した。


オレは震える手でスマホを取り出し、QRコードを読み取る。

すぐに、ダイヤモンド型に線が引かれた黒々としたグラウンドの上に、野球ボールと野球帽のアイコンが載った画面が映し出された。


「これで晴れてオレたちは『友だち』だな」


やけに嬉しそうな宮地の笑顔。


「今までだって、クラスメートという名の『友だち』だっただろ」


「だけど三崎はクラスLINEにすら入ってないじゃないか」


「そんなの入らなくたって毎日ちゃんと学校行ってるんだから、用があるなら学校で話せば済むことだ」


「でもほら球技大会の時とかクラス写真なんかも皆、上げたりしてたんだけど」


「別に写真なんて要らない。それよりSNSは勉強の邪魔だから、家族以外とはもう使ってないんだ」


「どれ」


ひょいとオレのスマホを覗き込むと


「あ、ホントだ。『友だち』がまるでいねぇ」


驚いたような、呆れたような声を上げた。


「今までもずっとこんな?」


「いや。さすがにそれは。ただ、受験勉強に集中するって決めてから、家族以外のアカウントは全部ブロックして隠した」


「マジか?!」


「ああ。今、そんなことやってる時間はムダでしかないからな。別に一生やらない訳じゃなくて、今だけの話だろ。合格したら好きにやるさ」


「……三崎。

おまえって、ホント凄いヤツなんだなあ」


ため息交じりの宮地の顔が赤く上気している。

イケメンってヤツはこんな時でもイケメンなんだな、と我ながらバカなことを思う。


「オレからしたら、あんな物好きな写真撮ってるおまえの方が、訳分かんなくて凄いと思うけど」


「そうか。そうだよな。おまえみたいなヤツからしたら、そういうのって訳分かんないんだろうな」


イケメン顔がわずかに歪んだ。


何だよそれ。

ホントまるで分からねぇ。おまえの言動。

これが現代文読解問題だったら、点を取れる自信がまるでない。


「まあ、とにかく後で画像送るからな。

それと。

画像受け取ったからって、オレのことすぐにブロックするなよ?」


「こっちの事情は分かっただろうし、今回以降LINEしてくることはないだろ?

だったらブロックする必要もないさ」


「それって喜んでいいのか、どうなのか」


苦笑いを浮かべながら宮地は缶コーヒーの残りをあおった。


「でも、おまえのアカウント持っててブロックされてないのって、じゃあ、今現在、いわゆる同級生の中ではオレだけってことだよな」


「ああ。そう言われりゃそうだな」


肩をすくめながらオレもコーヒーを飲み切る。


「それってなんか、ちょっと感動モンだな」


「バカかおまえ」


オレの呆れ声に、宮地は屈託のない笑い声を上げた。


「だってさ。オレらたしかにクラスメートだけど、今までたいした接点もなかったじゃん」


「まあそうだな。おまえはなんてったって野球部のスポーツ万能な人気者だしな。しかもイケメンときた日にゃ無敵だろ。

それに比べてオレはただのガリ勉。そんなヤツに何絡んでるんだほっとけよ、とは思うよ正直」


「おまえのセリフ、そのまま返却するぞ?

バカかおまえ」


「は? 勉強しか能のないオレに”バカ”とか言うか?」


「実際、バカなんだから仕方ないだろ。

おまえ、ホント分かってないよ。色々と。

たまには勉強の手を止めて、回りのこともうちっと見た方がいいぞ?

勉強も大事だが、高校生活だってまんざら捨てたもんでもねえぞ?」


学校のセンセイが聞いたら泣いて喜びそうなことをさらりと言ってのける。

わざと崩した口調だろうに、どこか爽やかだ。

さすがイケメンは考えることも言うこともイケメンだ、とオレは妙に感心してしまった。

そんなオレの気持ちも知らず、


「だからな、たまにはこうやってつるんで、息抜きでもしようぜ?」


なんておまえ、肩に手まで回してきやがって、口説く相手、ちょっと、いや、かなり間違えてると思うぞ?







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