第7話 魔王の娘

 昼食を食べ終え、当初の予定通り駅前のデパートへと向かう。


 良太は女性物の衣服などよくわからないが、店員に聞きながら選びなんとか買うことが出来た。


 選ぶのに時間がかかった事もあり、気づけばもう夕方。


 そろそろ帰らないと、と思い空を見上げる。薄暗くなっていると思っていたら、どうやら一雨きそうな雲行きだった。


「そろそろ帰らないと……リム、ちょっと急ぐからな」


「ん、わかった……」


 デパートを出てバス停に向かおうとした矢先、案の定雨が降り始め、すぐに激しさを増してくる。


「やべっ!! これはどっかで雨宿りだなっ。リム走るぞっ」


「……ん」


 リムの腕を引き、激しい雨の中凌げそうな場所を探して走り出す。ようやく休めそうな店の軒下に入るころには、良太の全身はずぶ濡れになってしまっていた。


「冷ってぇっ。リムは大丈夫か?」


 顔に張り付く髪をかき上げながら、ずっと握っていたリムの腕を離す。


「……っ?!」


 ふと自身の腕を見て、ある事に気がつく。……右手が濡れていないのだ。良太は視線をリムに向けると、驚きに目を見開く、


「ん?」


「なんで、濡れてないの?」


「……?」


 良太の疑問に首を傾げるリムの身体は、なぜか水が滴るどころか、少しも濡れていない。驚く良太の疑問も彼女は理解できていないのか眉を寄せていた。


「……なんで、濡れてないの?」


「……濡れたら寒い」


 理解していない様子のリムに再度問いかける。悩んだ彼女は、見当違いの答えを導き出す。


「いやいやいや、そうだねっ! 濡れたら寒いよねっ! だけど、そうじゃなくて、どうして濡れていないのかを聞いてるのだけど」


「濡れたくなかったから……良太はなんで濡れてるの?」


「雨に打たれたからだよっ!! じゃなくって、普通濡れるでしょ。こんな激しく雨が降ってるんだからっ!」


「ごめん……人間には出来ないんだった……はい、これでいい?」


 店の軒下からから外は土砂降りの雨。


 はねてくる雫は直接かからなくとも、良太の身体を濡らしていたのだが、リムが片手をかざすと、身体にかかる雫が全身を避けていく。


「……っ?!」


「水除の魔法をかけたから、もう濡れない」


 先ほどよりも大きな驚きに良太は口を開けたまま、リムの顔を見つめ、言葉も耳に入らずに立ち尽くす。


 無意識に軒下から外に出る。


 雨は良太の周囲で弾かれるように消えていて、先ほどリムの腕を掴んでいた右手が濡れなかった理由も理解できた。


「お前……本当に人間じゃないのか?」


「初めからそう言ってる」


「……じゃ、じゃあ何なんだよ?」


「リムは魔王の娘。勉強したくないから家出してきた……」


 雨は止む様子も無く降り続いているのに、雨粒一つ良太の身体に辿り着けない。


 不可思議な状況。


 戸惑いながら彼女の言葉に眼を瞑る。


 神社で出会った少女は人間では無く魔王の娘。


 今までの彼女の言葉は真実。


 どしゃぶりの雨の中、良太は昨日までの平穏な毎日が変わってしまう。


 そんな予感を感じていたのだった。





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