第11話 爆破の呼吸

 列車鮫トレイン・シャーク、列車の先頭からサメの頭を出現させるこの奇妙なサメは、鮫辻が悪魔巨鮫デビル・メガロドンとは別に用意していた切り札であった。本土攻撃用に育成していたものの、その前に彼が命を落としてしまったがために奥多摩の山奥に放置されていた。真帆は衰弱していた列車鮫を発見し、これを利用することを思いついたのであった。


 シャチの被り物をした上半身裸の少年、射地助は、双眼鏡を用いて列車鮫の姿を双眼鏡で捉えていたが、とうとう目視でもはっきりとその姿を認められる距離に接近してきた。明かりに照らされたサメの頭は、所謂ホホジロザメのそれにそっくりである。

 線路沿いの木造家屋の屋根に陣取っている射地助は、クロスボウを構えて狙いをつけた。


「弩っつうのは大昔の中国人が発明したらしいがよぉ、便利なもんだよな」


 彼の持つ弩には、矢ではなく黒い筒状の爆弾が装填されていた。彼が持ち出したのは爆弾を投射する特別な弩で、ソートレルというフランス語名で知られるものだ。

 射地助は引き金を引き、爆弾を発射した。爆弾は列車鮫の先頭車両側面に命中し、爆音を鳴らし煙を上げた。命中した場所には大きな穴が開いていた。


「どうだ! どてっ腹に穴ぁ開けてやったぜ!」

 

 射地助は喜んだが、列車鮫はまだ走り続けている。勿論射地助の方も、手を緩めるつもりはない。弦を巻き上げ、次弾を装填して狙いをつける。


「爆破の呼吸! 弐ノたま強弩爆撃きょうどばくげき! ……なんつってな」


 二射目は二丁目上部に着弾し、パンタグラフを吹き飛ばした。だが、まだ列車鮫が弱る様子はない。

 二射目の弾着を観測した射地助が弦を巻き上げている時であった。列車鮫が突然、方向を転換した。

 それは全くありえないことであった。なんと、列車は線路を離れて宙に浮き、空を飛んだのだ。


「は? あんな図体のヤツが飛ぶのかよ!」


 空飛ぶ列車鮫は、そのまま射地助の方に向かってくる。腹に穴を開けられて、相当怒っているのであろう。

 射地助は弦を巻き上げるのを諦め、爆弾を手に持った。


「やっぱこっちの方が性に合ってらぁ」


 射地助の肩の強さは、鮫滅隊でも卓越したものがある。「歩く投石機Walking catapult」などと渾名あだなされるほどだ。その肩と俊足を買われて、地元の少年野球チームの助っ人として度々呼ばれていたこともある。


 列車鮫は、もうすぐそこまで迫っていた。射地助を飲み込もうと、大口を開けたまま突っ込んでくる。


「くたばれ、畜生!」


 射地助はサイドスローで爆弾を投げ込み、そのまま屋根から飛び降りた。爆弾はそのままサメの口の中に吸い込まれるように入っていった。


 爆音が鳴り響いたのは、射地助が地面に着地して少し後のことであった。爆弾を飲み込んだ列車鮫の頭部は、木っ端みじんという言葉が相応しい破裂の仕方をした。それに続き、後ろの列車部分も墜落して民家の塀を押し潰した。

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