鮫滅の鋸 人肉列車編 ミッドナイト・シャーク・トレイン
武州人也
第1話 歌手SaME
人のまばらな電車の中で、ロングシートの端に座る一人の女性がうつらうつらと船を漕いでいた。
高校卒業を機に上京し、「SaME」という名義で歌手活動を始めてから早十年。アニメのファンを中心に名前を知られるようになった鮫島は、ようやく歌手として軌道に乗り始めていた。まだ生活は楽ではないが、それでも仕事があるだけ以前よりもずっと恵まれている。
彼女にとって口を糊することと同じぐらいの懸念事項であったのが、実家の両親のことであった。田舎の守旧的な家庭である故に、今まで何かと縁談を持ってきたり、歌手活動を断念するように説得を試みてきたりと、せわしく干渉を重ねてきた。勿論そんなことで折れるような彼女であったなら、もうとっくに歌手をやめていたであろう。
鮫島の瞼が、段々と重くなる。睡魔が彼女の意識を奪い取り、眠りの世界へと
けれども、もうすぐ乗り換えの駅だ。ここで眠るわけにはいかない。彼女は必死に眠気に抗った。
その時、彼女のぼんやりとした視界の中に、奇妙なものが捉えられた。
それは、電車内にいるはずのないものだった。
「さ、サメ……?」
その目が捉えたそれは、どう見てもサメにしか見えなかった。
だが、驚いているにも関わらず、眠気は覚めない。寧ろ、瞼の重みはどんどん増している。
それから間を置かずに、彼女は思考を放棄した。その意識は、暗闇へと沈んでいった。
***
アニソン歌手として知られた女性歌手「SaME」、本名
原因不明の行方不明事件は、彼女一人のことではなかった。東京都内では、類似の事件がここの所立て続けにあり、その全てで警察は行方を掴むことができないでいたのである。
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