第38話 7-7

 それからどのくらい時間が経っただろうか。

 比嘉はいよいよ動いた。Sカードを手に持ち、足を少し開いてしっかりと立つ。時任が眠っていることを改めて視認し、満足げに首肯する。

「それそろだな。名前も知らない誰かさん。よい目覚めになることを願っているよ。失格になった時点で目覚めることはないのかもしれないがね。――さあて、行くか。スキップ」


 ~ ~ ~


 比嘉の「スキップ」という声が耳に届いた瞬間、時任は目を開けた。本当に眠ってしまわないように緊張感と集中力を維持してきた分、とてつもない疲労感を覚える。それと同時に気が少し緩んだのか、これまで耐えてきていた痛みが強まったように思えた。

「もう限界だったわ」

 口走りながら右手に握ったペンを脇腹から離す。ペン先が強く押し当てられてた皮膚からは、血が流れ出ていた。

「――江住さん」

 口の渇きを自覚し、唇を舌で湿らせてからその名を呼ぶ、

「何でございましょう?」

 これには答えず、時任は江住の身体に再び抱きついた。そして江住の穿いているズボンの尻ポケットからSカードを抜き取る。一度目に抱きついた際、押し込んでおいた物である。時任は身体の中に隠したように思わせておいて、実のところ、江住を隠し場所に選んでいたのだった。

「気が付いていました?」

「ええ、まあ。違和感がわずかにありましたから。でもこれを皆さんのいる前で言ってしまっては、中立でなくなりますので言わずにいました」

「さっすが。私の見込んだ通りね。あっと、ごめんなさい。おしゃべりしている余裕はないんだった」

 Sカードを左手に持った時任。

「最後から二番目にスキップした人が勝つのよね?」

「制限時間内に、ですよ」

 江住の注意に時任はしっかりうなずき、行くべき時空を脳裏にしっかりとイメージした。

「スキップ」

 キーワードを唱え、うまく行くようにと念じながらカードを手放した。



 跳んだ先で時任は辺りを見渡す余裕もなく、素早くSカードを拾い上げ、先ほど思い描いた行き先を再び強くイメージすると、すかさず「スキップ」と言った。



 こうして、ほんの数瞬前に現れたばかりの時空に、時任はまた出現した。

 これでSカードは使い切った。あとは自分の組み立てた理屈が正しく通じることを祈るばかり。

(最後から二番目にSカードを使って、跳ぶべき時空に跳んだ人が勝者となる。今の私はこの条件に当てはまるはず。最後から二番目と、一番最後にSカードを使ったのが同じ私という人間である、それだけのことよ)


――エピソードの7、終わり

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