最終話 あなたのうしろ

 スマートフォンの連絡先にはメリーの番号が記録されている。


 夜。


 俺はベットに横向きに寝転がりながら、普段使いのスマホの画面を眺めていた。

 何度かその番号に電話を掛けようかと思った。

 もしもメリーがスマホをまだ所持しているのなら、繋がる筈だから。

 話ができる筈だから。


 だけど結局、中々そんな勇気は湧いてこなくて。

 メリーに謝りたい。

 そう考えていても、まずは何をどう言えばいいのかも分からなくて。

 そもそもその資格があるのかと。

 拒絶されるのではないかと。

 そんな不安にも駆られて、結局何もできずにこの時間になった。


 ……今頃メリーは何をしているのだろうか。

 元気でいてくれているのだろうか。

 そういう事を考えては不安になって。

 元よりメリーと連絡を取りたいという思いを後押しして。

 そして結局断念してふりだしに戻る。

 その繰り返し。

 ずっとずっと、その繰り返し。


「……メリー」


 そんな自分に嫌気がさしながらも静かに考える。

 それは何処までも他力本願な、どうしようもない願い。

 ……メリーの方から電話を寄こしてくれれば良いのにと。

 そしたら俺は迷うことなく出られるのにと。

 そんな風にメリーに、話すための背中を押してほしいと、そんな事を考え始めた。

 考え始めたその時だった。


「……ッ」


 着信が鳴った。

 液晶画面に表示された相手の名前に注視する。

 それがメリーであると祈りながら。

 だけどそこにはメリーの三文字は書かれていなくて。


 代わりに非通知の三文字が記されていた。


 そしてその通話に応じなければならないという、強迫観念染みた感覚が伝わってきて。

 俺自身それから逃れようとする意志も無くて。

 寧ろ背中を押してくれたような気がして。

 ……俺は迷いなくその通話に応じる事にした。

 この電話に出る事が、最終的にどういう事に繋がるのかは分からないけれど。

 その先で果たして自分が生きているのか、死んでいるのかも分からないけれど。

 ……それでも。


「もしもし?」


 そして、聞こえて来る。

 もう一度。

 叶うならこれからも聞きたいその声が。





『「私メリーさん。今、あなたの後にいるの」』

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