三章 都市伝説と過ごす日常

1 予想通りの朝

 翌朝、キッチンで簡単な朝食を作り始めた俺の元にメリーがやってきた。


「おはよう将吾」


 彼女はどこか機嫌良さそうにそう言ってくる。


「おはようメリー。よく眠れたか?」


「うん。お布団まで用意してくれたからね。ぐっすりだよ」


「そりゃどうも」


 昨日どうやらメリーは床で眠るつもりでいたらしく、来客用の布団を用意したらそれだけでとても喜んでくれた。

 本当に、本当に嬉しそうに。

 改めて当然の扱いをしただけではあるのだが、まあ喜んでくれたなら良かったと思う。


「とりあえず呼びに行く手間省けたわ。もうすぐ朝飯できるから」


「えーっと、私の分ある?」


「いやこの流れで無いわけねえだろ」


「やった」


 そう言って彼女は、当たり前の事で嬉しそうに笑う。


「何か手伝う事あるかな?」


「手伝う事……ね」


 言いながらフライパンに軽く油を引き、ガスコンロの火を付ける。

 その瞬間、メリーの肩がビクリと震えた。

 油が跳ねた訳でもない。

 だとすれば理由がなんであるか。

 今なら流石に理解が及ぶ。

 ……火が怖いのだろう。

 他ならぬ自分が焼き殺されたから。

 ……この調子だと、何かあっても手伝わせる訳にはいかない。


「今は特にないな」


 だからメリーが自然とキッチンから離れられるようにそう言う。


「そっか……じゃあ朝ごはん終わったら皿洗いは私がやるよ」


「じゃあそれは頼むとして、今は少し寛いでろよ」


「う、うん」


 そう言って彼女は逃げるようにリビングへと消えていく。

 ……本当に火が怖いんだな。

 これは炊事担当だけは奪われそうにない。


「……よし」


 メリーを見送った後、気持ちを切り替え俺は比較的手際よく朝食作りを進めた。

 本当に簡単な品だ。

 ハムエッグトーストと、適当に野菜を盛り合わせただけのサラダ。

 こんな物で満足してくれるかは分からないけれど。

 喜んでくれるかは分からないけれど。

 そうであれば良いなとは思う。

 媚を売るとか、そういう醜い考えではなく。


 ああ……大体予想通りだ。

 そんな気は、もう失せた。

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