第7話 むかしむかし

 飛んで避けるサユキ。勢いよく地面に叩きつけた大剣。


 その後に打ち合いが始まった。


 避けては防いで、攻めては避けての攻防が始まる。


 その光景を見て洞窟の中で見ていた光景が映し出された。


 誰かが戦っている。そして自分はどうしていいかわからず立っていた。


 『逃げて』と言われ本当にそれでいいのかと立ち往生する自分。


 ヨゾラは確かに強い。けれどそれは、あのゴーレムがセオリー通りの魔物であるなら勝てる敵なのだろう。


 だが今回は違う。


 かばいながら戦うことができないから逃げてと言ったのだろう。


 なら逃げた方がいいんじゃないか────


 そこでもう一度心が問う。『本当にそれでいいのか』


 変わりたいと願った。誰かを救えるようになりたいと願った。


 生活が苦しいから異界へ行ったんじゃない。死に場所を求めて探しに行ったわけでもない。


 無力な自分をようやく5年の月日を経て変えたいって思えたから行ったんだ。


 なら、やれることは一つだろう。


 サユキがゴーレムの切り上げを銀色の剣で受けるも弾かれてしまう。奴はそれを見て好機と言わんばかりに踏み込んだ。


 そうはさせない────


 走る。飛ぶ。


 そして後ろから奴の頭部へと一直線に刀を振り下ろした。


 それに感づいたのか奴は重心を外し頭部への一撃を避けさせるも幸い刃は左腕に命中した。


「ぐおおおおおおおおおおお!!!!」


 響く悲鳴が木霊する。それはゴーレムと思っていたそれが遺跡を守護する石像ではなく魔物であるかの如く。


 刀を食らった途端に横へと飛んで距離を取るゴーレム。



「ユキさん! 大丈夫ですか?!」


 傍から身と気づかなかったが大丈夫な感じにはなんだか見えない。転げまわったりしたせいか汚れと大剣をかすめただろう傷が目立つ。


「これくらい……なら大丈夫────もう、逃げてって言ったじゃないですか!」


「すみません……でも多分、それは死ぬより難しいかもしれないです」


 そう言うとサユキは笑った。


「死ぬより難しいってもう……変わったようで変わらないようでなんだか────安心しましたよ?」


 立ち上がる。


 銀色の剣は未だ輝いている。


「なら一緒に戦いましょ。まずはリプレイスって知ってますか?」


「いえ────」


「二人で戦う時の立ち回り方です!」



 ゴーレムは着られた左腕を剣の握られた右手で確かめる仕草を取りこちらを睨んだ。


────サユキが前へ出る。


 奴は大剣を肩に乗せ迎え撃つ気でいた。


 そしてぶつかり合った銀色の剣と大剣。


 サユキが下げていたものが大剣であるにもかかわらず、それよりも大きいゴーレムの剣。


 しかし、不釣り合いな大きさに対し力が相殺される。


 2撃、3撃とやつの剣を凌いで大きくぶつかり合った時。奴の剣を弾き仰け反らせた。


「今です!!」

 ────リプレイス。


 それは2人組それ以上の剣士による対亜人戦闘において用いられる戦闘方法。


 一人目が攻撃を相殺しもう一人がその隙に敵に一撃を加える必中の技。


 サユキの横を通り駆け抜ける。


 そのスピードを殺すことなく奴の首元へと迫り一閃。


 血飛沫が飛び散り離れた頭は転がり力なくその目に光がなくなると同時に胴体は倒れたのだった。


 耳元で心臓が脈打つ音が離れず倒れたゴーレムへと刀を向けるが動くことはなかった。


「はぁ……疲れました。シロちゃんもお疲れ」


 地べたに座り込むサユキとその近くを陣取るシロはわしゃわしゃと撫でられていた。


 いつになくデレているような感じだが、シロは何故か撫でられながらこちらを見つめるだけだった。


「ゴーレム……本当にゴーレムですか? こう石のロボットみたいなイメージありましたけど血──出ましたよね?」


「そう、ですね……すみません。私のあてが外れて危ない目にハルさんを合わせてしまいました」


「いやいや! ユキさんがいなかったら自分じゃどうにもできなかったです。それに戦闘の間もどうしていいのかわからない時とかあって……やっぱり自分は弱い」


「そうですか? リプレもしっかりできましたし、ここまでの道中。私、シラヌイさんが強くてびっくりしたくらいですよ?」


「そんな……いや、ありがとう──ございます」


「あはは。慰めたつもり、じゃないんですけどね。まだ三階層だっていうのにあのゴーレムの強さは異常でしたしカマイタチの攻撃も防ぐだけでも難しいし。私じゃ倒すのは難しかったでしょうね」


「そう……なんですか?」


「そうですよ! もっと自信をもってもいいと思います。それにリプレもあれ、作り出せる隙も一瞬で入り込むタイミングとかある程度身体能力向上してないとできないことでもあるんですからね?」


 気を落とさないよう気を使ってくれている。けれどあのゴーレムと正面切って戦えるサユキの方がよほど強い。


 昔の後輩がここまで強くなっているのに、自分ときたら────


 でもいつかは、そんな強さを手にしてみたいものだ。


 心のどこかでそんな身の丈に合わないような思いが燃えているのを感じる。きっとどこかで燃え尽きてしまうだろうに。



────少しの間ゴーレムの近くで休憩をとる二人。黄昏に染みる異界の光は白い遺跡を彩っている。


 ゴーレムより得たものは大きな剣。それ以外は亡骸とボロボロになってしまった石鎧のかけらだけだったので労力に見合わない戦果だった。


 そしていよいよ遺跡の中へと足を踏み入れる。


 下から上にかけて太くなるような造りの変わった柱が縦に並ぶ。ふつうは逆なんじゃないかと心のどこかで突っ込みを入れながら進む。


 遺跡の中はボロボロで天井はところどころ穴が開いており異界の天井が見えた。そこからうっすらと外の黄金色の光が差し込むので内部は言う程暗くなかった。


 眼をキラキラとさせながら見学するサユキを他所に前へと進んで行く。


 すると大きな広間へと出た。


「ん~? お?! ぉおおおお!! まじ?! 本当に?! ここで?!」


 サユキの今までのキャラを忘れるくらいのはしゃぎっぷり。テンションが上がるのもわからなくはない広さと目の前に飛び込んできた景色につい言葉が漏れた。


「へぇ~」


 横にいたサユキはいない。いたのは足元でしっぽを振ってるシロだけだった。


 ドーム状になっている部屋。


 円状に8つの柱をはさみその間に壁画が描かれていた。


 そしてサユキは入り口から近い入って左の広い円の始まりの壁をじっくりと見ていた。


「シロは……ユキさんがあの場所に行ったの気づいた?」


「……」


 シロは無関心な表情をつくり首を傾げる。ただ壁面に興奮するサユキを見つめるだけだった。


 改めて近くでサユキが夢中に見ている壁面をみる。


 耳の長い人。


 獣のような耳と尾をつけた人。


 水かきと魚の尾をつけた人。


 岩のような人。


 ふつうの人。


 背中に羽をつけた人。


 ずんぐりむっくりとした人がその壁面には書かれている。


 それぞれがまとまっていて世界はあたかも平和であるかのように。


 しかし、右へうつると7種類の人に対し黒い7人の影と竜のようなものが描かれており7人は炎の中で苦しみもがいていた。


 そして、それぞれの7種類の人がそれぞれ違う武器を手に取り並んで竜と7人の黒い人と戦っている姿が描かれる。


 次の場面へと移ると舞台となっていた島が竜の血で2つに分断されふつうの人とそれ以外の者達の島でわかれてしまっていた。


 最後にそれらの世界に花が咲いてまるでハッピーエンドのような。


 そんな物語めいた壁画は終わっていた。


「ああ、まさか……ここで、この壁画を見れるなんて思いませんでした。しかもこんなにきれいに残っているなんて」


「ここでも?ってことは」


「はい!! 日本に、この壁画が見れる所が富士山にある富士異界25階層と出雲市にある天台ヶ峰の出雲異界の30階層あたりでしたでしょうか……その2か所にあるんです」


「なんだか由緒正しそうな異界にありますけど……ということは結構この壁画についてわかってることとか多いんです?」


「いえ……今のところ何もわかってないのが現状ですね。私も何度か旭日隊の研究班の護衛に加えてもらったことがありますがあまり進展はなかったですし、ただもしかしたら異界にはエルフやドワーフ、獣人、魚人、天使、人間、岩の人? といった7つの種族が暮らしていたのかもしれないなんてことが、この絵から読み取れるじゃないですか! おとぎ話や聖書のような宗教の類であるとも考えられますが今や竜とか空想上の生き物が実際に存在しているのでもしかしたら……って夢のある面白い事実が読み取れるのに対して────」


 人類以外の知的生命体と触れ合う。きっとそれは宇宙人と会ったような衝撃があるのだろう。


 創作などで良く知る種族達が存在するのだとするのならとてもサユキの言う通り夢のある面白い話だ。


 それから遺跡内をしばらく探索して魔物が出ることもなくあのゴーレムが現れることもなく一通り見て回った。


 未だ見足りないというような顔をするヨゾラを連れ出し3階層の探索を進める。


 草原の草をむしゃむしゃと食べる大きな岩猿の横を通り森を抜けると遠くで見えていた大きな木に辿り着いた。


 大きさは2階層の山より大きく見上げるほどにでかい。


 ここで驚くことは、その大きさではなく大木と思っていたものの正体が岩だったのだ。


「木? 岩?……」


「多分、岩でしょうか?」


 まっすぐ伸びる岩の大木。天辺は枝状に別れ先には緑色の大きな葉が大量についている。


 見上げるほどに大きい岩の大木の根元に不自然に作られた石畳の場所が見えそこへと向かった。


 向かった先は4階層へと降りることのできる階段だった。

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