大銀河幼女皇帝☆テオドーラ・スズキ~宇宙統一5分前~

青木のう

第1話 宇宙統一5分前

前書き

☆☆☆☆☆は場面転換です

よろしくお願いします

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 人の目をひくピンクの髪の毛に、エメラルドグリーンの瞳。

 テオドーラ・スズキはまだ八歳で幼女と言える年齢だ。

 この幼女が宇宙を二分する勢力の片方の長であるとは誰も思うまい。


「艦隊全艦、配置完了!」

「攻撃準備! 無能で無謀な反乱分子の同盟軍に、宇宙の王者が誰かわからせるのよ!」


 しかし事実としてそうなのだ。

 お花畑で無邪気な笑顔を浮かべて走り回っている方がお似合いなこの幼女が、今まさに宇宙に展開している大銀河スズキ帝国の宇宙艦隊の旗艦――超巨大戦艦クレオパトラのあるじである。


「同盟軍主力艦隊、ワープアウト! 予想地点との誤差……ありません!」

「完璧ね。全艦攻撃開始!」


 テオドーラ率いるスズキ帝国に未だ歯向かう同盟軍の艦隊が出現するが、それを予想していた彼女の指示により猛烈な砲撃を浴びせる。


 戦局の全ては彼女の予想通り進行していると言っていい。


 テオドーラははっきり言ってしまえば天才だ。

 シアトリア星系第四惑星マリナスで生まれた彼女は、驚くべきことに生まれ落ちたその時から言葉を話した。


 何をやらせても人より上手くやって見せる彼女は、わずか三歳の時に立ち上げた企業を瞬く間にマリナス一の大企業へと成長させ、五歳の時には惑星代表に就任した。


 六歳でシアトリア星系をまとめ上げてスズキ帝国を建国。

 永世皇帝として君臨し、周辺星系への侵攻を開始した。


「機動兵器部隊も出撃! 歯向かう者共を一層しなさい!」


 テオドーラの号令の下、全長十五メートルの人型機動兵器――いわゆる巨大ロボットの部隊が出撃する。


 帝国軍主力機である〈ローカスト〉が、群れを成して同盟軍の艦隊に襲い掛かる。

 この機動兵器を用いた巧みな戦術が、彼女の帝国をここまで躍進させた。


 ワープアウトした地点で待ち構えられていた同盟軍の宇宙艦隊は慌てふためき、ロボット部隊と濃密な砲撃の前になすすべなく撃沈していく。


 スズキ帝国の誰もが勝利を確信したその時だった――。


「へ、陛下……! 第四惑星マリナス付近に新たな敵艦隊がワープアウトしました!」

「……なんですって……?」


 新しく出現した艦隊は、先ほど攻撃した主力艦隊にそん色ない規模だ。

 予想外の展開。部下に気づかれないように気をつけるが、さすがのテオドーラも焦る。


 マリナスと言えば彼女の母星でありスズキ帝国の総本山だ。

 恐らく敵の狙いは王手飛車取り。マリナスを制圧してこちらの指揮をくじこうというものだろう。

 ならば……!


「惑星マリナスで戦術プランオメガを実行しなさい!」

「プランオメガ!? し、しかしそれでは……!」


 戦艦〈クレオパトラ〉のブリッジに動揺が広がる。

 戦術プランオメガ――それは惑星破壊爆弾を起動し、もろとも周囲を消し去るということ。


 このブリッジにいる誰もがその戦術を実際に運用することになるとも、ましてや皇帝テオドーラの母星であるマリナスで行うとは夢にも思わなかった。


 もちろんテオドーラ自信もだ。

 それほどまでに追い詰めてくる一手を打たれた。


「早くしなさい!」

「お、お考え直しを……!」

「ちっ! もういいわ、こちらから起動する」


 テオドーラは手元のコンソールパネルをいじる。

 真っ赤な警告の画面が彼女を責めるように表示される。

 だけどもう決めたことだ。テオドーラの辞書に敗北の二文字が刻まれるのは許されない。


「こ、皇帝陛下、お待ちを……!」

「待てないわ。私たちはこの大宇宙に新たな秩序を築かなくてはいけないのよ。その為には郷愁に浸る暇というものはないわ。惑星破壊爆弾、起動!」


 ――宇宙に新たな太陽が生まれたように感じた。


 それほどに膨大な熱量をともなったマリナスの爆砕と共に、周辺に展開していた同盟軍の艦隊は一瞬にして塵と化した。


「敵艦隊消滅!」


 ――さらば我が愛しの故郷よ。


 でもこれで我が方の勝利は確実。残るは死に体の主力艦隊を叩けばいいだけ。

 5分後には私はこの大宇宙を統べる唯一皇帝となっていることでしょう。


「あ、新たな敵艦隊がワープアウト! 砲撃きます!」

「なんですって!?」


 ――馬鹿な、それほどまでに敵戦力の数を読み間違えているはずは……!


「どこの所属のものなの!?」

「これは……、オークル星系第五惑星ティックのものです!」


 こんどこそ信じられずにテオドーラは激しく動揺した。

 オークル星系は彼女の支配に対して非常に好意的だったはずだ。

 中立を守ることはあっても敵対はしないというのがテオドーラの見立てだった。


 それが今、大規模艦隊を組織してスズキ帝国に敵対する布陣についている。

 まったくもって信じられない。


「続いてキッサス星系第二惑星レゲルの艦隊がワープアウト! 同じく敵対する模様!」

「み、味方のロッド艦隊がこちらに砲撃を仕掛けてきます! 裏切りです!」


 新たなる艦隊の出現、味方だったはずの者の裏切り。

 いくつもの情報がオペレーターから伝えられ、レーダーの画面は敵影を示す赤色で染まる。

 味方艦の轟沈ごうちん報告も舞い込んでくる。


 ――崩れていく、私の帝国が。


 なぜ、私は天才のはずなのに。終わった……?

 いいえ、私はお花を摘むのが得意なか弱い少女ではないわ。

 まだあきらめない。私の志は生きている!


「残存艦隊は集結、火力を集中して敵艦隊を各個撃破するわ。所詮敵は烏合の衆、こちらのような統率は不可能よ」


 自信満々に言って見せてブリッジの面々を安心させる。

 まずは味方にたいしてハッタリ。次に自分自身が切り開いて活路を見出す。


「機動部隊も陣形を組みなおして。私も専用機で出るわ」



 ☆☆☆☆☆



 皇帝専用機〈カエサル〉は、全長二百メートルを超える超巨大人型機動兵器だ。

 むしろ機動要塞と言っていいのかもしれない。

 天才的な頭脳と操縦センスを併せ持つテオドーラが乗れば、その戦闘能力はゆうに艦隊三つ分はある。


「全方位レーザー発射! ちぃっ、数が多すぎるわ」


 確かに〈カエサル〉のビームは、同盟軍の主力機〈ドラゴンフライ〉をバッタバッタと落としていく。

 しかし多勢に無勢。彼女の予想に反して続々と援軍が到来する同盟軍を殲滅しきることはない。


『陛下だけでもお逃げ――』

「……〈クレオパトラ〉! クソっ!」


 ついに旗艦〈クレオパトラ〉さえも轟沈した。

 もはや大勢は決した。敗北の二文字をはっきりと意識し、テオドーラの頭を絶望が支配する。


「……まだ」


 ――まだここで立ち止まる訳にはいかない。ここで立ち止まる程度なら宇宙統一なんて志は持っていないわ。


「まだよ! まだ私は負けて――」


 〈カエサル〉を囲むのは無数の〈ドラゴンフライ〉。

 砲撃をかけるのは数多の同盟軍の艦隊。


 いかに強大を誇る機体といえども、無双を誇ったいにしえの武人が数の暴力には敵わなかったようについには爆散した。


 かくして、シアトリア星系を中心にその名を轟かせた大銀河スズキ帝国は終焉の時を迎えた。



 ☆☆☆☆☆



「負けた」


 その言葉が口から出るが、ここまで徹底的に敗北したらもはや悔しさの感情すら湧いてこない。


 テオドーラ・スズキは名も知らぬ辺境の惑星の荒野で、一人夜空を見上げていた。

 傍らには愛機〈カエサル〉のコアユニット〈カエサルコア〉。

 この機体が脱出ポッド代わりになってかろうじて生き残ることができた。


 しかしその〈カエサルコア〉もボロボロだ。

 自分が心血を注いだ帝国も、自分を信じてついてきた部下たちも、そして自分が生まれた母星さえも失った。今のテオドーラに残っているものといったらこれだけなのだが。


「素敵なレディ、何故泣いているんだい?」


 不意に男の声が聞こえる。顔を向けると、二十代後半に入るくらいの男が立っていた。

 タバコをふかして薄汚い外套がいとうに身を包み、肩には大型のライフルをかけている。


「……泣いている? 私が……?」


 悔しさなんてないと思っていた。

 でもテオドーラ自信も気がつかずに零れ落ちる涙は彼女自身の悔しさだ。


「何があったかしらないけどさ、そんな世界の終わりみたいな顔をするもんじゃないぜ?」

「……そうね」


 ――こんな男に言われて気がつくのも癪だけれど、確かにそうだ。


 まだ私には私自身がある。

 私が生きている限り私のこころざしは生き続ける。


「俺はエルダー、君の名前は?」

「私はテオド……テオよ。ただのテオ」


 こうしてテオは、エルダーの差し出した右手をとり再び立ち上がった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

後書き

読んでいただきありがとうございます!

ブクマ、☆評価いただけたら嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る