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 全てのドローンを駆使してヴァンパイア幹部ごと古城を消し飛ばす事に成功した俺達。


「いやぁ我ながらすごいもんだねぇ。まさか今までの製作技術を駆使して幹部倒すどころか、予定通り城ごと吹き飛ばしちゃったんだからよぉ。やっぱ戦いってのは王道勇者的真っ向勝負ってより衝撃的な奇襲戦略だよね。平和に乾杯」

「ま、まさに死の商人ね、あんた……」


 ボソっと言うアリスの一言にグサリと心に刺さって痛いけど、いい気分だし特別に水に流すとしよう。


「ま、まあとにかく、ツクルの作戦でヴァンパイアも倒せたし、これで恭介もきっと良くなるはずね」


 ちょっ、エクレシアさん!? それフラグっぽい……って言ってもヴァンパイアは昼間に行動なんてしないし、問題ないか。


「ではすぐ帰り祝杯をあげましょう! イーシズ教団にも報告せねばいけませんから。ふふふ、これでまたイーシズ教が優秀と言う証拠がまた一つ増えて……え?」


 イリスがまた余計な事を報告しようと宣言しかけた時、誰かに無理矢理話を遮断されたような感じに上空を見上げている。

 俺たちも流されるように顔を真上に向けると。


「なんや!? この邪悪な魔力、嘘やろ!?」

「あんな大爆発を受けて無事だったっていうわけ!?」


 城の中央部あたりから、禍々しい黒い光がぼんやり灯っており、目視した瞬時に城に目掛け光柱が地に挿した。

 ネコマタもエクレシアも、あの黒い光を見て不吉な事を言ってる時点で……もうこの一言だけしか思い浮かばないよ。


 まさかのフラグ回収って嘘でしょ!? 


 だって日差し当たったら消滅するって有名なヴァンパイアですよ!? なんとか生き延びて洞窟に逃げ身を潜めるならわかるが、こんな昼間堂々と攻めるなんて聞いたことが。

 そんな考えが頭の中をぐるぐる駆け巡っている中、上空の光柱の中央からサッカーボールサイズの魔力で構成されし球体が。


「え、え?? なにどういうこと??」

「まさか!! アクホーン教の邪神であるアルミスが降臨し、世界を滅ぼす気では!?」

「イーシズ教同様国境になるかもしれない神様が、んなふざけた真似するっすかねぇ?」

「いやロリーズはもっと危機感持てよ!?」


 そうツッコミ入れた瞬時に、球体は黒柱が挿している地に墜落し、衝撃で砂煙が舞い上がって何も見えない。

  煙が消え、視界がはっきり見えるようになった時。


 __幹部のヴァンパイアが平然とその場に立っていたのだ。


「き、貴様ら……よくも舐めた真似を!!」


 持ち前の紅く輝く瞳で、俺たち……いや、特に俺をギロリと睨んでくるヴァンパイア。

 この様子からして、絶対激怒しているのは確定だ。

 こいつはMZI!! このままじゃ俺たちヴァンパイアに血を吸われて殺されちゃうよ!! 生き残れたとしたっても絶対ミイラになっちゃうよ!!


「プッププッのプー! なに震えてるの? ビビってる? ひょっとしてビビっちゃってるのあんた? あんな玩具如きに怯えちゃうなんて、魔王軍もたいした事なさそうねー」


 アリスが心底楽しそうに馬鹿笑いする。

 おい馬鹿やめろ!! それ以上刺激するなや!!

 アリスの笑い声が気に入らなかったのか、ヴァンパイアの視線は俺から馬鹿ロリ姉の方に切り替わる。


「聞け小娘。我がその気になれば、貴様らなど皆殺しにでき、そのままあの街の冒険者や住民どもを全滅させることができ……」

「『パーシアス・ターン・アンデッド』!」

「貴様ああああああああああ!!!」


 話最中のヴァンパイアが、イリスのステッキから放たれた銀の砂のような光を浴び、全身から黒い煙を吹き上げのたうち回る。

 お気の毒に……。


「ふん! アンデッド風情がお姉様に対し説教など痴がましいですわ! このワタクシがちゃっちゃと浄化し……て……?」


 右腕が灰となって崩れてる時点で結構効いたと思うが、ヴァンパイアはなんとか持ち堪えよろよろしながらも立ち上がった。


「な!? 流石は魔王軍幹部、ワタクシの神聖魔法を耐え切るなんて」

「こ、このレベル……、本当に初心者冒険者かどうか疑うところだが、とにかく話は最後まで聞くが良い。貴様らは魔王軍拠点ダンジョン攻略の基礎を理解しているのか? 普通はクリア条件であるラスボスと戦う為に必要最低限の条件を、邪魔してくる我が部下を押し除け、中ボスを倒し、必須アイテムなどを獲得し、全て満たした時こそが、ようやく戦えるという物。……それが普通なのにお前達のあれはなんだ!? 馬車を我が城に置いて帰り、何がしたかったのかと思いきや、突如その馬車から変な虫もどきの玩具がブンブンブンブン飛んであらゆる場所でポンポンポンポン爆破し城ごと崩しにきおってっ!! ねぇ、なんでこんな陰湿を超えた嫌がらせするの!? ちゃんと世界観に合わせて昔ながらの伝統はちゃんと……」

「さっさと爆破するっす!!」

「ばぎゃああああああああ!!!」


 気品のある声からだんだん情けない声に変化していくヴァンパイアの話が長かったのに我慢の痺れを切らしたのか、チリがロケランを構えて撃ち込んだ。

 うん、すごい理不尽。

 ヴァンパイアに命中し、爆炎が消えた頃には全身がボロボロに。

 

 「き、貴様らっ!! 話は最後まで聞くものだとお母さんから教わらなかったのか!? ええい、もういい!! ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 アクスーキングの時のように、どこぞの悪の軍隊の生き残り科学者が作ったボスキャラの有名な叫び声を上げるヴァンパイア。

 そんなヴァンパイアを見つめていたら、ナ◯ック星人のように右肩から右腕が生々しい音を立て再生し、チリのロケランによる負傷もみるみる塞がっていく。

 え? ちょっとこれやばくない??

 だってこの光景を見た瞬時に口をあんぐりと開けてるチリや、目玉飛び出すほど目蓋開いてるイリス。

 何より勇者で一番まともなエクレシアでさえも驚愕した顔で見てるもん! 絶対やばいと思ってる顔だよこれ!?


「ふん、我が力を甘くみていたようだな」


 不適に笑うヴァンパイアの右手には、自身の弱点とも言える銀製の杭が。

 そしてその杭を自身の心臓に向けてそのまま……。

 ぐ、グロい……っていうかアイツ狂っちゃった!? なんでわざわざ自殺紛いな事を!?

 チリがボケーっと理解不能な顔でヴァンパイアを見つめる中、エクレシアもイリスも俺と似たような顔をしてヴァンパイアを見ている。

 きっと俺と同じことを考えてたんだろう……って思っていたら、ヴァンパイアは何事もなかったように杭を抜き捨て高笑いしてやがる。

 エクレシアとイリスの驚愕した反応からして、銀製武器も杭も弱点だというのは間違いないと考えてもいい。

 だとしたらなんで!?


「理解不能な顔をしているようだな? まあ姑息とは言えども我をここまで追い詰めた勝算に免じて教えてやろう。我はトゥルー将軍!! 魔王軍最高位幹部である『大罪幹部』の内、『傲慢』の位、ルシファー様の側近であり、キメラとスライムの能力を取り込みしヴァンパイアである!! っと言えば、後はわかるであろう」


 うん、さっぱりわかりません。

 全く理解できてない俺は、聞いただけで理解し後退りしかけたエクレシアに、助けを求めるように見つめると。


「あなたまさか、キメラとスライムに共通する能力、『捕食適合』のスキルを!?」

「その通り。我はこのスキルを得るために、数多くのキメラとスライムを殺し研究していた。全ては弱点無き不滅の存在となり、ルシファー様のお役に立てる為!!」


 うん、勝手に二人で王道展開っぽく盛り上がってて割り込む隙がない。

 エクレシアが言う『捕食適合』と言うスキルを聞いたイリスも、エクレシアと似たような顔をになってたのを目にした俺は、ちょんちょんと人差し指でイリスの肩に触れる。


「ねぇ、なんなの捕食適合って? そのスキルっぽいのとヴァンパイアの弱点と何の関係が?」

「『捕食適合』。それは、スライムやキメラが所持しているモンスター専用のスキル、取り込んだ物に対して耐性を得たり、能力が使えると言ったスキルです!!」


 ……理解できた。あのヴァンパイアがこうして真昼間の日差しに当たって平然といられるのも、さっきの自殺紛いの行いしても平然と笑っていられたのも、あらかじめにいろんな奴を食って、弱点に対して耐性を得たってことか。



 …………逆にどうやって倒すのそんな奴!?



 エクレシア達がヤバそうにヴァンパイアを見つめるのが納得できた。

 だって、ヴァンパイアの不死性に付け加え、日差しも効かない、杭に刺されても平気、銀製武器で攻撃しても効かないうえに、ピッ◯ロさん並の再生能力、もはやチート超えたバグじゃん。

 とにかくやばい、こいつはあのオーク幹部なんかとレベルが違う。

 ロード・スレイヤー装着するにも時間がかかるし、ひとまず隙ついて逃げることを考えなきゃ絶対死ぬってこれ!?


「そ、そう言えばお前さっき『大罪幹部』とかなんか言ってたけど、それってなん……でしょうか?」


 うん、逃げる隙を作ろうとかっこつけて言おうとしたら、途中で気弱になっちゃった。

 ガタガタ足を震わせている俺の問いに、ヴァンパイアが視線を向け。


「ほう、どの街の住民もその名を聞いただけで恐れ震い、衣服を着たまま尿を垂れ流す奴らしかいなかったが、貴様はそうではなさそうだな。いいだろう。貴様の度胸に免じてこの我が特別『コロナマイト!!』」


 幹部らしく偉そうにペラペラと語るヴァンパイアの口を遮るかのように喋り出したアリスと。


「あぐぁああああああああ!!!」


 ヴァンパイアを中心として発した大爆発。


「弱点がなんだってのよ!? そんなもん、アタシの連続で放つ高火力魔法で消し飛ばしてやるんだから!!」

「ま、また貴様かぁぁぁ!!!」

「『コロナマイト!!』」

「あぎゃぁぁぁぁ!!!!」


 アリスに殺気こもった視線を向け激怒りのヴァンパイアに、追い討ちをして丸焼きにするアリス。


 ……少しは話を聞いてやれよ。

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