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 イリスの『魔王軍幹部がここに来た!』って発言を聞き、俺たちはすぐさま装備を整え正門前へ向かうと、目の前にはかなりの数のモンスターの軍団が。

 そして先頭にはもの凄い威圧的なオーラを放つ人型のモンスターが平然と立っていた。


 ヴァンパイア


 発達した犬歯による吸血および眷属化であり、魅了の邪眼や高い再生力を持つ。

 銀製の武器や魔法の武器でなければ傷を負わせられないなど、一般的な吸血鬼の特徴を持つRPGゲームでよく出てきそうなモンスターだ。


 モンスターの群れを率いるそのヴァンパイアは、冒険者達が見守る中、まず自ら一歩前に歩み寄る。


「我が名はトゥルー・オリジン。通称トゥルー将軍。魔王様の命によりこの地でとある実験を行なっていた魔王軍幹部であるが」


 高貴で気品あふれる声を放った後、穏やかな視線を鋭くしてこちらを睨み。


「実験で生成した、巨大イセセミを毒殺した冒険者はどこのどいつだ!? 名乗りでよ!!」


 冷静を装っているけど、かなり怒ってるみたい。


 …………ってかちょい待って? 巨大イセセミ?


 その場にいた冒険者達も心当たりがあるようにざわめき出す。


「巨大イセセミって言えば……」

「やっぱりあれしか考えられないな」

「ってか、あれって魔王軍の仕業だったんだな?」


 そしてみんなの視線が俺に注目し……。


 え? え、え??? ちょっと待ってぇぇぇぇーーー!!?


 いやいやいや、なにこのベタすぎる展開、そりゃねえだろ!?

 俺はただ喰われたネコマタをなんとかしようとスミーヌ使った結果、偶然倒せただけなんですけど!?

 ってか、使ったらあっさり倒せたイセセミが魔王軍の実験ペットってどんなマッチポンプ!?

 俺はすぐさまチリやイリスをチラッと見ると、あいつらは口笛吹いて他人の振りしてやがるし!!

 

 ……ってかもうこれ、俺が前出なきゃいけない空気になってるよね?

 だって、みんな揃って俺が通れるように道空けちゃってるもん。

 出たくなかったが、もう幹部のヴァンパイアも俺が犯人だって目で見ちゃってるし、しょうがないから前に出た。

 エクレシアやチリ、そしてイリスも後に付き添ってくれて……。


 あれ? アリスとネコマタは??


 一人と一匹がいなかったことに一瞬戸惑いながらも、ヴァンパイアと数メートル離れた場所で対峙し。


「え、えっと……、はい、そうです。ワタシがイセセミの心臓抉り取った張本人です」


 この時の俺は多分冷や汗出まくってたと思う。


「………、ただの冒険者か。バカにしてるのか?」


 普通に考えたらそう思いますよね。


「いやぁ、確かに幹部のあんたから見たらそう思うかもしれないっすけど、こう見えて彼、あのトカットン? って言う幹部を倒した張本人なんっすよ」

「馬鹿!! 余計なこと喋るな!!」


 首を傾げるヴァンパイア。


「トカットン? ……まさか貴様!? 例の鉱山でトカッツンを倒したと噂になっているあの奴隷か!?」


 驚いたヴァンパイアの発言を聞き騒めく魔王軍と冒険者達。

 そんで反論したチリの言葉に食い付いたヴァンパイアはさっきから俺をガン見し続けてんだけど!?

 やめてくれよマジで! また変な展開になるなんざ俺はごめんなんですけど!?


「そうだ!! そこのツクルって奴はスミーヌで巨大イセセミを倒した『心臓盗みの達人』って言う称号を持つ男だぜ!!」

「心臓盗みの達人の手にかかりゃお前らの心臓なんてあっさりゲットして一撃だ!!」

「テメエらは銀製武器か魔法じゃなきゃダメって聞いたことがあるけどな、心臓捥ぎ取られたらそんなの関係ないね」

「ツクル先生!! やっちゃってください!!」

「ツークール!! ツークール!! ツークール!!」


 冒険者達が俺に対してコールを上げて、やるように促してる。


 ちょっとみんな揃ってマジやめて!! 俺まだ死にたくないから、これ以上あのヴァンパイアの野郎を刺激させるのは勘弁して!!

 そもそもヴァンパイアのようなアンデッドモンスターって心臓動いてないって設定って聞いたことがあるから捥ぎ取っても倒せない気がするんだけど!?


 ……ってかそれ以前に、心臓盗みの達人だなんて臓器泥棒みたいな呼び方、やめてくんない?


「ほう、まさかトカッツンを倒しただけではなく、所持品しか取ることができないスミーヌで、絶対盗めない臓器を捥ぎ取るとは……興味があるな」


 なーんか俺に興味持っちゃったみたいなんですけどあのヴァンパイア……。


「面白い、試しに我が心の臓をもぎ取って見せるがいい」


 はーいお約束のTNKI。じゃねェェェよ!!

 どーすんのこれ!? あの時はお約束展開っぽかったから偶然できたって感じなんですけど!?

 ってかもし出来たとしてもそれはそれでなんか嫌な気分になっちゃうし……。


「何を躊躇っている? もしやらぬと言うのなら……、否、出来ないとはっきりと申し出れば、貴様だけは見逃し、嘘八百申し出た冒険者どもを血祭りにあげても良いのだぞ?」


 あ、生き残れるチャーンス!! ……って訳にもいかないわな……。

 ここでヴァンパイアの発言通りに『USOウソでした⭐︎』なんてお茶目に言ったら間違いなく背後にいる冒険者達にフルボッコにされて殺されるもん。

 とは言えども完成したスーツはドライバーリアクターの電力がまだ足りなくて動ける状態じゃ無いし、装着する時間や宿戻ってまたここに来るのにちょっと時間もかかるし。


 ……やるしかないか。生き残れるチャンスだったんだけどなぁ。


「ねぇ、ヴァンパイアの言葉で一瞬、ツクルの顔が希望に満ちたように見えたのは気のせいかしら?」

「そ!? そそそそそ、そんな顔してねえし!?」


 相変わらずこう言う面の察しがよろしいですねエクレシアさん。


「それで、やるのかやらないのか、どっちなのだ?」


 もうドラキュラの奴の視線から放たれる殺意がどんどん強くなっていく。

 ……怖いから早くやっちゃお。

 

「一応冒険者の皆様に言っときますけどね、できなかったら皆殺しにされるけど、そうなっても俺を恨むのだけはやめてくださいよ、って感じで『スミーヌ』ッ!!!」


 俺は叫び、ヴァンパイアに向け手を突き出すと、異臭を放つモザイクかけた方が良い物体を手にしていた。


 そう、鼓動はしていないが心臓である。


 うん、これはこれで別の意味でヤベーイ……。

 絶対に最初に抹殺される標的だよ、俺。


「ば、バカな!! トゥルー将軍の心の臓が!?」

「将軍の心臓を本当に捥ぎ取っただと!? しかもたかが最弱職の冒険者にだぞ!?」

「奴は一体何者なのだ!?」


 冒険者達が歓喜を上げる中、事の出来事なだけに混乱するヴァンパイアの配下のモンスター達。


 ……ふと思ったのだが、確かヴァンパイアって木の杭を胸か心臓に打ち込まれたら死ぬんだったっけ?

 だとしたら、この場で木の杭っぽいので手に持ってる心臓打ち抜けば幹部倒せるんじゃない!?

 んでその後は混乱してるモンスターどもをここにいる冒険者達で一斉に攻めれば勝機も!!


「うろたえるなぁぁぁぁ!! ぶばぁ!! はぁ……、はぁ……」


 心臓引っこ抜かれたヴァンパイアの奴、顔青くして吐血を吐きながらも、幹部らしき大声を上げて冒険者もモンスター達も黙らせちゃったよ。

 ってかおかしくない? 一応ヴァンパイアも不死系モンスターの一種で、弱点を突かないと倒せないはずだから心臓引っこ抜いてもああはならないんじゃ……?



「お、……驚いたな。まさか本当に……、我が心の臓……を……」


 あ、アイツも結構驚いてるみたいだ。

 そう思ってたらドラキュラの奴、急に大きく息を吸い。


「……ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 全身に力を入れながら、どこぞの人造人間の有名な叫び声を上げだしたよ。


「……ふぅ、この我の心の臓を奪うとはな。どうやら貴様が実験用のイセセミを倒したのは本当らしい」


 ……あれ? さっきまで顔青くして今でも倒れそうだったのに、叫び終えた途端何もなかったようにケロっとしてやがる。


 ってか、笑ってるように見えて笑ってないんですけどあのヴァンパイア。

 だって鋭い視線が俺だけに向かれてるんですけど、その目先から放ってる紅眼が不気味に光り輝いてるんですけど!?


 ……マジやばい、殺される!!


「貴様が余計なことをしたせいで、魔王城に戻った暁に、我はあのお方から大目玉を喰らうことだろう。どうしてくれる?」


 そう言い手を伸ばすヴァンパイア。

 その行動を見たエクレシアとイリスも、どんな手にも対抗できるように武器を構え出す。

 二人の背後の側にいたチリは、激闘に巻き込まれない安全っぽそうな平原まで移動しており、どこからか持ってきたかわからない高そうなソファーに深く座りながらポップコーンをムシャムシャと食べて、プロ野球の観戦者っぽく見守ってる。

 ……おい。

 そんなチリは置いておき、二人の構えを見た冒険者達も配下のモンスター達も戦う構えを。

 みんなやる気だ。

 これはいつ戦闘になってもおかしく。


「『コロナマイト』!!」


 ……空気を読んでないような感じに、聞き覚えがある声が聞こえた途端、モンスターの群れの中央の真上から小さな橙色の粒が落ち。


「「「……え? ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」」」


 ダイナマイト並みの爆発を起こし、全てのモンスターを一掃した。


「なんだ!? 一体だ……、貴様か!!」


 ヴァンパイアの向けた視線は、俺たちや、冒険者達達よりも後ろにいる、顔が真っ赤でベロンベロン状態のアリスと肩に乗っているネコマタだった。


 「らりよあんら、このアラシが楽しるろんれるろきにしゅうへひらんへいい度胸しへるひゃないろ。いまふぐアラシの魔法でけひほはひへ……ウブゥ!!」


 呂律回らないどころか急に青ざめ四つん這いになり、口から虹の液を吐き出しやがったよこの女!!

 ってか空気読めよ恥ずかしい!! あの子一応俺らの仲間なんですけどっ!?


「お姉様!? そんな真っ赤な顔で、一体どうなされたのですか!?」


「実はこの騒ぎに乗じて儂、ギルドの中にある高級酒を何本かくすねて神様通販サイト『メルカミ』に出品しようとしたところアリスはんに見つこうてしもうてな。取り上げられて棚に戻されそうになったんやけど、アリスはんすでに酔ってたし出来心もあったんやろうな。儂と二人で高級酒全部飲み干した結果こんなんに……、あ!!」


 この非常時に何してんだこいつら!!

 後でギルドマスターのところに謝りに行かせよう。


「……我が心の臓を奪いし小僧を対象にするつもりだったが、気が変わった。そこの小娘で十分!!」


 ヴァンパイアはそう言うと、すでに伸ばした手から黒くて細い光線を放った。

 その光線は俺やエクレシア達を通り過ぎ、冒険者達の間も通り過ぎ、そのままアリスに。


「危ない!!」


 当たりそうになった瞬間、恭介がアリスの盾となるよう自身の体で彼女を隠し、身代わりになって受ける。


「ぶぇ!? な……、ヴロロロロ……」

「きょ、恭介!?」


 アリスが吐き、エクレシアが叫ぶ中、恭介の体が黒くほんのりと光る。

 油断してた、アリスの馬鹿が空気をぶち壊すから!


「おまいさん、大丈夫さかい!?」


 ネコマタが慌てて聞くが、恭介の顔は青ざめており、呼吸も荒く、まるで危篤状態の病人そのものだ。


「あかん!! かなり衰弱しとるで! このままやと恭介はん死んでしもう!!」


 血相変えたネコマタの言葉に全員驚く中、ヴァンパイアは勝ち誇ったように宣言する。


 「我が放ったのは死の呪いだ。余計な邪魔が入ったが、これも実験のイセセミを倒し、我が配下を皆殺しにした貴様らに対する罰と言っておこう。冒険者の小僧に酔っ払いの小娘よ、その男は死ぬ。貴様らの行いのせいでな。もし解いて欲しければ、拠点とした我が城に来て、この我を倒すがいい。城に残っている我が配下のモンスター達も、貴様らを苦痛と恐怖でもてなしてやろう。まぁ、こんな初心者の街の住民どもが、我のところにたどり着くとは思えんがな」


 そう宣言した後、ヴァンパイアは高笑いしながら場の景色に溶けて消え去った。

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