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 冒険者ギルド。


 そこは冒険者に仕事を与えたり、支援してくれる組織。

 ぶっちゃけ言うとハローワーク的なあそこだ。

 ゲームより発明好きの俺にはあんま知識はないが、施設の中は西部劇のような感じで、新参者が中に入ると大体チンピラのちょっかいのごとく絡まれる。

 俺のようなモヤシ野郎なんかが入ったら、速攻にカモになるのは間違いない。

 そう考えるとエクレシアが一緒に居てくれることがありがたい。

 なんだって、見た目は可愛らしい女の子とは言え、彼女は勇者様だ。

 こんな初心者ギルドのチンピラなんざ軽く追い払ってくれるほどの力は間違いなく持っている筈だ。

 そう安心したのち、俺は目の前の大きな建物の戸を開けた。

 妙に薄暗い店内は、店内は妙に酒臭い。

 間違いなく酒場と併合されているようだ。

 どこもかしこも鎧やローブを着こなした連中がワンサカいる。

 ガラの悪そうな奴も少しいたが、そいつらも含め全員視線を俺たちに向けてきて。

 ……いや、視線を向けてきているのが男だけしかいない時点で、エクレシアとチリの容姿に釘付けになってるだけってことに気づく俺。


「あららー? すっごい見られてるっすねアタイ。ひょっとしたらあれっすか? アタイから出てくる美少女オーラでみんな発情期モードになっちゃってるんっすかね?」


 何すっとぼけたこと言ってんだこの自己宙人風情が。

 黙ってたらこいつもエクレシアほどじゃないけど美少女なのに、やっぱ中身ってのは大事だな。

 とにかく俺たちはそんな視線を気まずそうに潜り抜け、受付のカウンターの前に立った。


「……何の用だい?」


 受付の男は、西部劇とかによく出てきそうな酒場のマスターっぽいおっさんだ。

 カーボウイのようなハットを被り、タバコを蒸しながらダンディなイメージを醸し出している。


「えっと、冒険者になりたくてでしてね、ちょっと遠い所から来たもんでよく分からなくて……」


 まあ大体田舎やら外国やら言っとけば何とかなるだろ。

 ……っと信じたい。


「……わかった。じゃあひとまず手数料として銅貨五枚出して貰おうと言いたい所だが……」


 ラッキー。うまくいったみたいだわ。

 あとはこのままこのハードボイルドの店長の指示に従っていけば……え?


 手数料って何?美味しいの??

 俺は少しその場から離れる。


「チリ、お前金持っ」

 当然と言えば当然だが、チリは俺が言い終える前に顔を左右横に振る。


 やばい、いきなり詰んだ。

 何とかあのマスターっぽいダンディと交渉して後払いってできないかしら?

 でもなんて言うか目つき怖いしなぁ……あのおっさん。

 絶対に圧力だけで俺を黙らせることができそうな気が……。


「話は最後まで聞きやがれ、もう手数料は貰ってんだよ」


 ……え?


 突如こっちに近づいて来たダンディなマスターの発言。

 この世界に墜落した俺らにとってここは、最初に訪れた街みたいなものだ。

 知り合いなんて誰一人いるわけないから、立て替えしてくれる奴なんざ……。


 いや、街の住民じゃないけど一人いたわ。

 涙目の俺はすぐさまエクレシアの手を握る。


「ちょっ!? ど、どうしたの一体!?」

「神様仏様エクレシア様!! こんなことがあろうと予測して先に立て替えてくださったのですね。本当感謝しかありません!! ありがたやありがたや……」

「いや、立て替えたのは1日前に街を出てったライアンなんだけど」


 …………はい?


「貴方が冒険者になるってライアンと話してた時に言ってたの。冒険者になるためには手数料が必要不可欠だし、何よりトカッツンを倒したせめてものお礼がしたいとかなんとかで先に払っとくって。ちなみに後一日経ったらトカッツンを討伐報酬が貰えるらしいわよ」

「できれば入る前に教えて欲しかった……」


 よくわからないけどなんかショック……。


 まぁ、ライアンのおかげでなんとかなりそうだったから、これ以上は何も言わないことにしよう。

 そう思いながら受付に戻る俺とチリ。



「いいか?冒険者って言うのはモンスターや魔王軍など、人に危害加えるバケモン供を駆逐する職だ。まあ、ここ最近だと関係のない仕事もするなんでも屋になっちまってるが基本的にはそう言う仕事する連中だ。ちなみに冒険者にはそれぞれ全く違うことができる『職業ジョブ』っつーのが存在する」


 はい出ましたよ、な◯う系あるあるの職業ジョブって言う奴。

 剣使うか魔法で翻弄するか、戦いのスタイルを決めるあれって奴ね。

 受付のマスターが俺とチリに書類みたいな物を差し出す。



「まずはテメエらの身長や体重などを書いて、印部分にテメエらの指紋を押しやがれ。異国の言葉で書いても大丈夫なことだけは言っといてやる」


 異国の言葉でも大丈夫って言っても、日本語も対象に入ってるのかしら?

 えーと、武藤ツクル……167cmで黒髪……よくよく考えたら17歳になってたんだなぁ俺って。

 エクレシアがどこをどう書くのか教えてくれたおかげでなんとか全部書けれたよ。

 そういやチリの奴は書けれるのか不安だったが、怪しげな電子辞書っぽいので翻訳してそのまま書き写してやがる。

 ってかそんなのあるなら俺にも使わせろよ!

 書き終えマスターに渡すと、書類をそれぞれ、目の前に置かれた銅でできたプレートに吸い込まれる。


 「おし、次はこのプレートに触れて魔力を送りな。そうすりゃプレートから魔力で構成されたステータス表が出てくっからその数値に合わせて職業を選ぶんだな。職によって様々なスキルが習得できるからその辺も理解しとけよ」


 出たよRPG系異世界あるあるのアレ。

 大体ここでどこの誰かさんの潜在能力が発揮されてギルドが大騒ぎになる的なヤツ。

 俺は少しでもがっかりしないように期待をを込めずにプレートに触れた。

 するとプレートから無数の光の粒子が放出され、一つの画面へと切り替わる。


 「えーとぉ、武藤ツクルか。筋力D+俊敏性D魔力D−耐久力C……ほう、幸運がA−で知力がEXか。大したもんだが、残りのステータスが貧弱すぎるから宝の持ち腐れって奴だな。基本職の『見習い冒険者』ってくらいにしかなれねえぞ?その運と知識生かして商人になりゃ大儲けできるかもな」


 あ、やっぱり商業の方が向いてたわ俺。

 まあ元々俺になんかそんな能力なんかあるわけないのは分かっていたから置いといて、俺の世界の物を売って大儲けするってのは異世界あるある案件の一つだ。

 ……もしチリのステータスがまともだった場合、すぐにでも商人に転職しようかしら?



「まあその道も考えるとして、ひとまずはそれでよろしくっす」

「そうか、まあ有名な店の店主も冒険者の奴が多い。最弱職での苦労を元手に作り上げた商品で成り上がった連中だからよ、お前にはそっちの面が期待が持てるぜ。あと余談だが、レベル上げてステータス上がりゃあ転職だってできる。それに冒険者は初歩段階のしかないが全ての職のスキルも習得できることも忘れんなよ」


 そう言われたのち、俺はプレートを首にぶら下げる。

 そう言えばエクレシアのステータスってどんな感じなんだろう?


「なあ、エクレシアって勇者なんだろ? やっぱ俺と違って結構ステータス高い方か?」

「うーん、確かに見習い冒険者よりは断然高い方だけど、上級職の伸びの良い部分をかき集めただけって感じかしら?筋力B+で俊敏性がA、魔力がB+に耐久力A−で、後知力と幸運がB+って言ったところかしら?」


 なるほど、確かに俺より圧倒的だけど平凡すぎる。

 とにかく、これで俺も冒険者になった。

 だけど俺自身は別にそう言うゲームの世界とかは好きでも嫌いでもないからなんの実感も湧かなかったけど。

 ひとまずチリの様子を見てみると……。


「はぁ!? なんだこのステータスは!?」


 チリのステータスを見たギルドマスターが大声を上げていた。

 その声と共に施設内が騒めく。


 ……これってあれか? 無能すぎるように見える奴が意外と才能持ってた的なあれ?


 だとしたらなんかムカつく。なんであんな自己中心的な奴なんかが……。


「え? なんっすか? ひょっとしてアタイにはとんでもない潜在能力が秘められていた的な何かっすか!? やっぱアタイほどでありゃそりゃあねぇ」

「その真逆だわバカ!! 耐久力だけがEXで残りの数値は最低クラスのE−−だぞ!!」

「はいいいいいいいいいいいい!!?」

「つーかよく見たら知力に至ってはランクじゃなくて数字の1じゃねえか!?」

「え!? 1!!!!?」


 この事実に別の意味で驚愕するチリや冒険者達。

 ぶっちゃけ俺は少し笑うのを堪えてる真っ最中でした。ざまぁwww。


「こんな偏りすぎたステータスなんざ長年いろんな冒険者見てきたけどお前が初めてだぜ。お嬢ちゃんもそこの坊主同様基本職の見習い冒険者になるしか……って言いたいが、それさえもならない方がいいかもしれな……、ん?」

「ちょっと!! ル◯ーダの酒場で職に就けない時点でアウトじゃないっすか!? アタイ単なる村人の無職ポジ!?」

「いやちょっと待ってくれ、基本職である見習い冒険者の枠がねえぞ? 変わりに見たことねえ職業? みたいなのがあってそれしか選べねえっぽそうだ」


 見たことがない職業? それってあれか? やっぱ優秀な潜在能力的なあれ展開?

 ステータスが酷い変わりに、誰にもなれない優秀な職業を神様が与えてくれた的なそんな感じ?

 ……やっぱりなんかムカつくんだけどあのロリ野郎。


「見たことのない職業? なんすかそれ?」

「『無職』って奴だ」

「そのまんまじゃないっすかァァァ!!!」


 ……うん、すごく納得できる。

 思わず腹抱えて大爆笑しちまったよ。


「ちょっと! アタイだけ色々おかしいっすって!? 最弱職にもなれないどころか勇者パーティーの足引っ張る屑野郎にしかなれないってどう言うこと!?」

「い、言ってる意味が分からねえが安心しろ。その職は名前だけがそんな感じで、基本職の見習い冒険者と何も変わらねえみたいだ。レベル上げれば転職もできると……思う」

「最後に間を開けて言った理由を聞いてもいいっすか!?」


 俺個人の考えだが、無職から転職できる方法があるとしたら、真面目に働けってことだな。


「最後に言っておくが、このプレートを持っていると経験値が表示される。経験値の獲得方法はモンスター討伐かクエストクリアのどっちかしかねえ。経験値の量によってレベルが変わり、それがテメエの強さになる。このレベルが上がると上がったレベルに応じてスキルが習得できるようになるからよ……と、とにかく頑張れよお嬢ちゃん。ここにいる全員、少なくとも応援してるからさ」


 マスターが気まずくそう言った後、ショックで呆然としているチリに向けて、多くの冒険者達が哀れみの目で見ながら静かな拍手を送る。

 ……なんだこれ?


 まあ、とにかく。

 俺の異世界生活、第2章の突入だ。

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