6

 エクレシアの意思により俺は、勇者の鎧を素材として装甲を作った。

 そしてオークが言う期限まで残り1日目前で、組み立ても装甲の取り付けも全て終わらせる。


 「おーし、後はこのドライバー型USBを差し込めばこいつは起動する」


 俺達の作戦はこうだ。

 まず寝静まった魔物達の寝室に、スーツを着た俺が特攻を仕掛け大混乱させる。

 その間にロリ宇宙人とエクレシアでここにいる奴隷達を全て逃し、エクレシアには途中でこちらに気づいた魔物達を、俺が作った剣で応戦してもらう。

 最初はエクレシアも共に戦うって聞かなかったけど、鉱山の周りに仕組んだ勇者弱体魔法陣の影響で弱体化してるし、何よりロリ宇宙人が自分だけ逃げ出すとかやりそうな気がする上、言う通りに行動したとしてもなんか失態を犯して状況が悪化する予感がしたからって言って説得できた。

 そしてエクレシア達が逃げ終えた最後、俺も片道分の燃料しかないロケットエンジンで飛んで逃げるって言うシンプルなものだ。

 鉱山から出た後は、出口の先をただまっすぐ走る。

 森を抜けたらそこに道があるから、それを辿ることで『スターライン』と言う街があるらしい。

 半日ほどかかる賭けみたいな作戦だが、現状はこれ以外の策は無いため賭ける以外に方法はない。


「んじゃ早速起動させて最終調整と……ん?」


 二人にパワードスーツを着せて貰い起動させる直前、エクレシアは自分の髪の毛一本をちぎり取り、ドライバーに結ぶ。

 勇者特有のおまじないか何かかしら?


「この鎧作っている間、貴方といる時間がとても楽しかった。できれば貴方を私のパーティーメンバーに加えたいって思ってる。そこまでは貴方が決めることだけど、無事出れたら再び会ってお礼が言いたいの」


 そう言いながら結び終えたところで、エクレシアは俺の顔を見つめる。


「だから、約束して。必ず生きてここを出て、私にお礼を言わせて」


 だから鎧じゃなくてパワードスーツだっつうの。

 ……って言いたいけど、それ以上に彼女の心遣いに心打たれたよ。

 なにせこのスーツを扱えるただ一人の人物とはいえ、俺に幹部のオークを始めとした、この洞窟にいる魔王軍全てを相手にしてもらうんだ。

 人類が助かる為に、無茶を押し付けるような気分で自分が許せないんだと思う。勇者ならなおさらだ。

 それにスーツの装甲は、エクレシアが着るはずだった伝説の鎧で作られたものだ。

 自分の半身とも言ってもいい程の防具を素材にしていることだから、余計に愛着が湧いたに違いない。

 そう考えてたら、なんか急に不安と期待が込み上げてきた。

 不安というのは、彼女のこの行動が死亡フラグになるんじゃないかってことだ。

 大体こんな決戦前に『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ』とか『あいつは親の仇!! どんな目に遭おうと倒して見せる!!』とか言ったり言われたりの主要キャラは王道漫画での盛り上げ、衝撃展開のために理不尽にフラグ回収するかのように死んじゃうパターンが多いんだよね。

 うまくいくかどうか、心配になってきたわ……。

 けど、もし生き残れてうまく街に着いて、お礼される展開になった時はきっと!!

 ……俺もやっとこうかな? D・T童貞卒業のために。


 「ナイフナイフ……動けないから頼む」


 ナイフを見つけ、エクレシアに頼み、自分の髪の毛一本切り取らせ、その髪の毛をドライバーにこま結び。

 それを終えた後、エクレシアは俺の顔見てクスリと笑い、そんな彼女の笑顔を見た途端俺も自然とニヤけてしまったよ。


「はいはーい、イチャつくのは結構ですけどね、そろそろ始めませんかー? アタイ他人の幸福そうな恋愛見てると虫唾が走るんで」


 ニマニマと冷やかすような笑みを浮かべてるロリ宇宙人の言葉に、バッと俺から離れて顔赤くして焦るエクレシア。

 そんな彼女の仕草は可愛いけどさぁ、ちょっとは空気読めよ性悪宇宙人!!


「と、とにかく!! 早速最終点検始めましょう!!」


 エクレシアはドライバーUSBを挿入口に差し込むと、挿入口から壁に向け、ローディング画面が投影される。

 画面には、データ読み込み中と書かれており、その下には0から徐々に増え続けている数字が。


「これが100になったらこの鎧が動くってわけ?」

「そういうことだけど、何度も言うがこいつは鎧じゃなくて……」


 俺がエクレシアに訂正を求めようとした瞬間、洞窟全体に響き渡るような大きな揺れが起きる。


 「なんだ!? 一体何が起きた!?」


 揺れを感じた瞬間、俺とロリ宇宙人は驚きながらあたふたする。


「ちょっと!? どこぞのアホ奴隷がしくじって変な箇所掘った結果、洞窟が崩れる的なあれじゃないっすよね!? 嫌っすよアタイ!! せっかくここまでできたのにここで生き埋めになって死ぬのは!!」


 いや、お前が来た時には既にある程度完成してたし、装甲作りの際にもエクレシアは手伝ってくれたのに対してお前は昼寝してただけだよね?

 ってことを心中で思いつつも、ロリ宇宙人が来るまでの間の数ヶ月、美少女と一緒にいたとはいえ、一度も襲わず我慢してきたんだから!!

 だからまだ俺童貞のままだから!! 本当にムラムラ的な意味で半殺しの毎日を送ってきたんだから!!

 ……体洗い用の川で彼女の水浴びをこっそり覗き込んだことが数回あったことは置いといて。

 とにかく!! それらの不満を残したまま死ぬだけは絶対嫌だ!!

 俺はそう思いながら投影画面を見続けていたら。


 「この魔力……きっとそうだわ!!」


 何か気づいたようなエクレシアの言葉を聞き彼女を見る。

 彼女はこの揺れの理由に気づき、瞳がいつも以上に希望に満ちた輝きをしていて……。


 ……あれ? これってひょっとして仲間が助けに来た的なあれなの?


「なぁ、お前の反応からして聞きたいんだけどさ、この揺れの理由ってエクレシアのお仲間さんが?」

「そう!! 助けに来てくれたのよ!! 同じ勇者のライアンが!!」


 ちょっと期待した俺の問いに、生き生きとした声で望んだ回答通りに返答するエクレシア。

 それを聞いたロリ宇宙人も俺も、彼女と同じような眼差しになって生き生きとした顔に。


 やっぱりそうか!! キャッホォォォォォイ!!! めちゃくちゃ良いタイミングで救出イベントキタァァァァァァァァァ!!!

 そう思いながら出入り口を確認したら、見張りのゴブリン達は、血相を変えた他のゴブリンの話を聞いている真っ最中。


「じゃあ、勇者ライアン達は奴隷全員逃すことに成功しちまって、俺たちが捕らえた勇者を探してるっていうのか!?」

「そう言うことだ!!見張りなんかしてる場合じゃねえ!!応戦に行くぞ!!」


 話を聞き終えた途端、見張りのゴブリン達も血相を変えてその場から駆け足で去っていった。

 いいぞ、遂に運がこちらに回ってきた!!

 奴らは今んところ、そのライアンって言う勇者パーティーとの戦闘最中で、人質の奴隷達もみんな脱出させてくれたみたいだし、いずれ劣勢となるだろう。

 そこを狙って、俺が奇襲を仕掛けたら大混乱するのは間違いない!!

 そしてそのまま魔王軍幹部のオークを!!


 ……ん?奴隷達は全員救えたってことは……。


 「……エクレシアさん? 貴方、俺が作った剣だけで、ここに来る魔王軍幹部抑えられる?」

 「え? ちょっと無理があるわよ。鉱山の周りには、勇者のみ魔法を封じる効果の他に、力を押さえ込む効果も含まれてるって前にも言ったでしょ? でもその鎧が起動したら大丈夫だってツクルが」


 ……まずい!!

 奴隷と言う人質がいないとなると、真っ先に人質にする候補は間違いなく!!


 俺はそう思った時既に、血相変えたロリ宇宙人がもう急ピッチで作業台やベットや俺お手製の着発式ダイナマイトなど、余った資材などですぐさま出入り口を塞ぐように簡易的なバリケードを作り始める。

 あいつ、こういう時になると必死になるタイプなんだな。

 ……ん? あいつとんでもない物を素材にしなかったか??


「え!? ちょ、何してるの!?」

「バカ!! 人質として利用できる奴隷がいなくなったとなりゃ、力が弱ってるお前が一番の人質候補だって気付かないのか!?」


 俺の怒声の返答に、はっ!! と気づいたエクレシア。

 彼女もロリ宇宙人と一緒に、身近に置かれている重たそうな物をバリケードとして組み立て始める。

 その直後に……。


「なっ!!?あいつら気付きやがった!!これじゃあ通れねえ!!」

「確かトロールが居ただろ!?早く連れてこい!!」


 ゴブリン達の声がバリケード越しに聞こえる。


 危なかったギリギリセーフ!! ……って言いたいけど残り時間はそんなにも残ってない。

 俺はすぐさま投影画面を再確認するが、現在読み込み36%くらいしかできていない。

 早く!! 早く!! もう時間が残っていないんだから!!

 そう思っていた矢先に、叩きつける音と同時に煙を上げ揺れるバリケード。

 トロールが来るまでの間、バリケードを攻撃し始めやがったよあのゴブリン共!!


「ちょっとツクルさんまだですか!? この状況なんとかしてくださいっすよ!!」

「なんとかしろって……、やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!! ちょっ、どうしよう!? マジでどうしよう!?」


 遂に俺の口から焦りの言葉がこぼれ出てしまう。

 そんな中でもエクレシアは、冷静さを保ちながら俺が作業目的で作ったが失敗してしまった鉄棒と、体を拭くボロボロのタオルでバリケードを固定する。


「私達がなんとか時間稼ぐから、急いで読み込みってのを終わらせて!!」

「い、イエス・マム!!!」


 彼女の覇気こもった声に、俺と宇宙人の背筋が勝手にピン!! って伸びた。


 それにしても、こんな危険でパニックになる状況でも冷静に判断し行動できるなんて、やっぱり女の子でも勇者なんだなって実感させられるよ。

 とは言っても、読み込み作業はどうこうして早く終わる物じゃないから手の内用がない。

 ただ終わるまで静かに待つことしか出来ないんだが……


 っと思ってたら、先ほど以上の音と共にバリケードも尋常じゃないほど大きく揺れた。

 もうトロール来たのかよ!!

 俺が動けなく何もできない間、エクレシアとロリ宇宙人は一緒にバリケードを押さえ、突破されないように踏ん張る。

 何度も打ち付けるハンマーの音、その音ともに伝わる全てを崩すような振動。

 見なくてもわかる、バリケードはもう限界だ。


「ダメダメダメェェェ!! こんなのもうどうしようもないっすよぉ〜!! ツクルざぁ〜ん!! まだでじゅぐぁ〜〜!?」


 ロリ宇宙人のぐずりながら喋っている声からして、既に泣いているのがわかる。

 そして画面に表示されている数字は68パーセント。


 ……ダメだ、間に合わない。これじゃもうどうしようもない。


 「諦めたらダメよ!! 最後まで希望を持って抵抗しなさい!! 背後の奇跡を信じていれば、僅かな可能性もきっと!!」


 諦めかけたロリ宇宙人に向けて言ったのだろうが、諦めの悪いエクレシアの言葉が心に重くのし掛かった。


 ……そうだ、こんなところで諦めてたまるか!!

 一体何のためにこの数ヶ月の間、ひたすらにスーツを作って、脱出の計画を練ってきたんだ!?

 全てはそう……。



 失った右中指を取り戻すため!!

 実家に帰って溜まっているメカを作るため!!

 溜まりに溜まったムラムラを解消するため!!


 そして何より、俺をこんな目に合わせたロリ宇宙人と相方宇宙人どもに落とし前つける形でゲーム機全部没収する!!

 慰謝料を貰いながら没収したゲーム目の前で全部ぶっ壊してショックじみた顔見てざまぁって言ってやるためだァァァァァァ!!!


 「……ツクル、貴方すごく小さな理由で頑張ってない?」


 冷静に悟ってツッコミ入れてくるエクレシアさんの声が聞こえ少し恥ずかしくなった。


 ……っと思った時、読み込み率が一気に上昇し始め100パーセントに達した瞬間、ダイナマイトが爆破してバリケードが木っ端微塵に、エクレシアとロリ宇宙人をも吹っ飛ばされた。

 やっぱダメだろ、爆発物をバリケードに使ったら……。


 バリケード破壊されたのと同時に舞い上がった砂埃で、その場の全員の視界がよく見えない中、俺はゆっくりと重い体を動かそうとする。

 まず足を一歩踏み出してみたら、体の動きに反応して俺の動きに合わせるように自動的に動いてくれた!!

 そのままゆっくり歩いてみてもいつもと変わらない歩行感覚だ。

 こんな感じなら話が早い。俺はすぐ倒れているエクレシア達の近くにいるゴブリン二体に歩み寄る。


「たく、てこずらせやがっ……ん? なんの音だ?」


 俺の重い鉄の足音にゴブリンが振り向いたところで砂埃は収まり、スーツを着て2メートル近くの鉄の身体になった俺を見た途端、驚愕したゴブリンの顔がまた面白い。


「な、なんだおまがぶぁ!?」

「てめぇ何しやぐぁびゃい!?」


 怯んだゴブリン二体を太い鉄の豪腕で一体ずつなぎ払ってみたら、俺も正直びっくりするほどの速さでゴブリンが吹っ飛んで、壁に激突して気絶する。


「なんか変なの出てきた!? なんだこいつは!?」

「構わん!! やっちまえ!!」


 確かに、剣と魔法の世界に、こんな世界観違いそうなのが現れたら、人も魔物もそんな反応するのは納得できる。

 そう考えながら、混乱していながらも俺目掛けて矢を放つゴブリン達に、一歩一歩近く俺。

 放たれた矢は俺に命中するも全部弾き落ちていき、ゴブリン達が剣で斬りかかろうとしたところを全員、それぞれ拳骨一発かましてグロッキーにして倒す。

 残りの同身長のトロールも、俺に目掛け棍棒を振り下ろそうとした瞬間を狙い、顔面に右ストレートを炸裂させる。

 流石にゴブリン達のように吹き飛ばなかったけど、当たった瞬間、動かなくなった事を察して手を離す。

 その時トロールの目の焦点が合ってなく、そのまま仰向けに倒れピクリとも動かない。

 命中した時既に気絶してたんだと思う。

 部屋に入ってきたゴブリン供とトロールを倒したところで吹っ飛ばされた二人の安否を確認すると、二人ともただ呆然と俺を見ていただけ。

 どうやら無事みたいだ。良かったよ。


 こうして、俺達の脱出計画は、始まった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る