第6話 五橋亜香里

結局、その後は自己紹介して連絡先を交換しただけで解散となった。


推薦入試のプリントを読みながら溜息をつく。


「敵同士集まってどうしろと・・・」


「ピリピリしてたねー」


望美と一緒の帰り道はプリントを睨みつける分だけいつもより足が重く、先を歩く望美が何度か振り返り足を止める。


なんでこいつはプリント読まないんだ?


「真剣だねー。そんなに楽したいの?」


「ん?楽って何の話だ?」


「わたしは別に推薦なんて興味が無いので。せっかくだからもっとみんなと仲良くなりたかったよ?」


「え?なんで一番学校推薦に近いやつがこんなにやる気無いの?」


「ふふーん。さぁ?なんででしょうねー」


解せないな。


「気になるから教えてくれよ」


「そんなに気になる?うーん。じゃあ次の中間考査で10位以内にはやちゃんが入ったら教えてあげる」


「言ったな。絶対だぞ」


「でももしダメだったら・・・ちょっと意地悪しちゃおうかな?」


楽しそうに手を後ろに組みながら顔を覗かせてくる。


こいつ、意地悪したいだけで最初から俺に期待して無いんじゃ・・・。


そんな疑念を持ってプリントから目を離す。


「何?その顔。言っておくけど、今日から毎日勉強だからね」


「宜しく頼む」


「頼まれました。でも、本当に大学行きたいって思ってる?」


そういえばこいつに上書きされたんだった。見られるってわかってたら、もっと第二、第三志望まで真面目に書けば良かったわ。


「目標は高く持ってたほうがいいだろ?」


「うわー。ちゃんと考えてないのがバレバレ」


くっ。言い返せない。


俺の成績じゃあ口が裂けても望美と同じ大学に行きたいなんて言えねーな。


こいつがどこの大学狙ってるのかすら聞けないチキン野郎ですわ。


「都合悪くなると黙るクセ、やめたほうがいいよ?」


「うるせーよ」


「とりあえずうるせーよって言っとけば良いと思ってるでしょ?」


わかってますみたいな顔してんじゃねーよ。ったく。先が思いやられるわ。


ーーーーーーー




午後9時、2時間ほど望美と俺の自室で勉強して大分捗った。


やっぱり望美は教えるのが上手い。飽きずにできるのは有難い。ただ、こいつがいつ勉強してるかが不明なんだよなー。


「あ、そうそう。はやちゃん明日昼休みに屋上行ってね。行けばわかるから」


「屋上?何?おまえまた告白されるの?」


「違うよ?わたしは明日の昼別件でいないけど、その子とお弁当食べてね?」


新しいパターンだ。


その子?ん?情報が多い。


告白スポットとして名高い屋上で誰のお弁当を食べるのだろうか。遂に俺にモテ期が来たのか?そうなのか?


「キモい顔してるね。絶対変なこと考えてるでしょ?」


「考えてるだけでキモいとか厳しくね?つーか誰だよ相手。気になっても眠れるけど」


「せっかちは嫌われるよ?じゃ、帰るね。家まで送ってよ」


いつも肝心なことを言わないのがこいつである。



ーーーーーー




そして次の日の昼休み。


望美に言われた通りに屋上に行くと、見知った顔があった。


「お兄、待ってた」


そこにいたのは五橋亜香里。


俺の幼馴染の五橋望美、の妹である。


姉と同じ栗色の髪でボブカット。顔も似てるが故に望美と同じく告白の嵐を受けるのだろう。どんまい。


ただ、亜香里は少々引っ込み思案で言葉足らずなところがあるので、温かい目で見守りたくなるらしく、中学では隠れファンがたくさんいたようだ。


「よう。俺に告白したいやつっておまえ?」


「バカ?」


渾身のボケが一蹴される。


「とりあえず、ご飯食べよ?お兄のお弁当もある」


「望美って亜香里の分の弁当も作ってたんだな」


「お姉のお弁当はいつも美味しい。お兄が購買に浮気するのが信じられない」


「たまに味濃いのが食べたくなるんだよ。焼きそばパンとか」


「つまり浮気」


ジト目で見ないでください。大体お弁当だって作りすぎた時にお裾分けしてもらえる程度だし。


「おっ、今日は唐揚げ入ってるじゃん。もぐ・・・うまいな」


「美味しそうに食べるお兄は、ある意味卑怯」


「で、なんか話あったのか?望美でも良い気がするけど」


「お兄はいつも暇。お姉は忙しいからなかなか捕まらない」


「悲しいこと言うなよ・・・」


「冗談。今日はお兄に相談があって来た」


じゅー、と牛乳を飲んだ後、あかりが言葉を発する。


「部活動の見学、一緒に来て欲しい」

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