2-裏-3

 やっぱり大人しく少女に殺されるべきだっただろうかと一瞬考えて、首を振った。竜に殺されたのは殺されるより外に仕方なかったからだ。でも、今回は違う。今回は、逃げるという選択肢が確かにあった。なら、やっぱり、逃げるのが俺の性分だろう。

 だとしても、こんな訳も分からぬ世界を果たして一人で生きていけるものだろうか?お金もないし、人情に頼ろうにも魔術師はどうやら嫌われているらしいし。それに、そもそもの話ではあるが、この世界はいったい何なのだろう。この世界は俺の夢か?それとも俺の住む世界とは別のどこかにある世界なのか?疑問は尽きない。

 それでも、どうやらこの世界と俺の住む現実世界のつながりのようなものになんとなく気づけたような気はする。おそらくそれは眠ることだ。でもただ眠ることじゃない。夜に眠ることだ。

 それというのも、現実世界で授業中にしょっちゅう眠っていても、ただの曖昧なぼんやりとした夢しか見なかったのだ。だということは、今回と前回のことを鑑みてみるに、夜に眠るのが現実世界とこちらの世界を移動するトリガーだというのが妥当な結論だろう。

 うっそうと茂る木々の隙間から辛うじて見える太陽から、今はだいたい三時か四時くらいかなと思う。大量にかいていた汗が今になって体の体温を奪ってくる。どうにかこれ以上、身体が冷えないように、こちらの世界に来てからずっと着ているローブを体に巻き付けた。

 とにかく、ここに夜までいるのはかなりまずい。体温は奪われるわ、獣に襲われるかもしれないわ、良い想像が一つもできない。火の一つでも起こせるば、なんとか森の中で一夜を過ごせるかもしれないが、そんなサバイバル技術はもちろんないし、もしあっても、こんな湿った葉っぱや木では、どう考えても火起こしには向いてない。

 仕方なく立ち上がって、薄暗い木々の間をのろのろと歩き出す。もう俺にはこの森を抜けて、町に戻るという選択肢しか思いつかなかった。よくよく考えれば、ローブさえなければ俺は普通の人間と変わらないんだ。なら、町に入る前にこれを脱ぎ捨てればいい。あとは、どうにか人のよさそうな人に泣きつけばいいだろう。一晩くらいならなんとか泊めてくれると思う。もしどうしても無理なら野宿ということにはなるが森で眠るよりは幾分ましだろう。

 町にたどり着く、ただのその瞬間だけを思い浮かべながら、震える身体を両手で抱きしめつつ、黙々と足を動かす。でも、歩けば歩くほどに木々の色は濃くなっていき、太陽はどんどん低くなっていった。

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