泡沫の肖像 追憶の先に

ヒコ

第1話

 エルジオン・ガンマ区画。

 ホテル・ニューパルシファルを出たところで、アルドは聞き覚えのある声に呼び止められた。


「アルドさん!…お久しぶりです!」

「ああ、考古学マニアのおじさん!」


 振り返ると考古学マニアのおじさん…、もとい、マクミナル博物館館長と、見知らぬ青年が立っていた。


「こんにちは。元気そうだな」

「ええ、おかげさまで。アルドさんもお元気そうで何よりです」


 マクミナルは側にいた青年を振り返り、話を続ける。


「こちらはアルドさん。私の考古学研究に大変興味を持っておられる方でして」

「いや…別に興味を持った覚えは……」

「不思議なことに私の先祖ともご縁がある方なんですよ。…もしかしたら貴方のご先祖ともどこかで繋がりがあるかもしれませんね。そう考えるとなんだかワクワクしてきませんか?」

 

 青年はマクミナルの言葉にうんうんと興味深そうに頷いてアルドに歩み寄った。


「初めまして。マクミナルさんとは博物館で知り合いまして、それ以来仲良くして頂いています」

「初めまして。博物館ってことは、あんたも考古学が好きなのか?」


 アルドの問いに、青年はうーんと首を傾げながら言葉を続ける。


「考古学も好きですが、どちらかというと美術分野でしょうか。美術品全般…特に絵画に興味がありまして」

「彼は有名な画家の子孫なのです。少し前までは、それはもう熱心に、足繁く博物館に通って下さっていたんですよ」

「今は博物館が閉鎖中なので残念ながら入館は出来ないのですが…マクミナルさんとはこうして個人的に交流を持たせて頂いています」


 マクミナル博物館は現在、クロノ・クランからの襲撃に備えて厳戒態勢に入っており、一般人は入館不可の状態が続いている。


「彼のご先祖の作品は、既に当博物館へ何点も御寄贈頂いているんですよ。それらを観るために来館されるお客様も多数いらっしゃるくらいです」

「まあ僕の代で寄贈したわけではないんですけどね…。多くの方の目に留まることが出来て、先祖も画家冥利に尽きることでしょう」


「ああ、こんな時でさえなければ、この機会にアルドさんをご案内したいところだったんですけどね…」


 肩を落とすマクミナルに、アルドは明るく声をかける。


「前に博物館に行ったときはじっくり作品を眺めることが出来なかったからなあ。落ち着いたら観に行かせてもらうからさ、その時はぜひ案内を頼むよ。そんなに有名な人の絵ならオレも観てみたいし」


「よかったらご覧になりますか?」

「えっ!?」


 やりとりを聞いていた青年からの思いがけない申し出に、アルドは目を見開く。


「でも博物館は閉鎖中なんじゃ…?」

「全ての作品を寄贈したわけではないんです。多くはありませんけど、自宅にもいくつか残してあるんですよ。これも何かのご縁でしょうし、せっかくですから観て頂けると僕も嬉しいです」

 

 それを聞いたマクミナルの表情が途端に明るくなる。


「アルドさん!未公開の名作がお目に掛かれる機会なんて滅多にありませんよ!お言葉に甘えてぜひご覧になるといい!本当に素晴らしいものばかりですから!」


 アルドはほんの一瞬悩んだが、断る理由もないのですぐに頷いた。


「うん、じゃあせっかくだからお邪魔しようかな」

「ではさっそく行きましょう。自宅はシータ区画にありますので」





「うわあ…、これ全部あんたのご先祖が?」


「はい、そのように聞いています。」


 青年の自宅に足を踏み入れたアルドは、目に飛び込んできた色彩の波に息を呑んだ。

 リビングを改造して作られた展示スペースには、大小さまざまな絵画が飾られている。


「僕の先祖は中世のミグランス朝期に王都で活動していた画家だと言われています。僕が絵に興味を持つようになったのも、これらがきっかけなんです」


「風景画、っていうのかな。景色の絵ばっかりなんだなあ」


 見れば、どの絵の風景もどことなく知っている場所のような気がしてくる。遠い未来の都市で、自分がいた時代ののどかな景色を観るというのは、何だか妙に懐かしくてこそばゆい。


 アルドの隣に立ったマクミナルは、穏やかな表情で目の前にある絵を見上げ、感慨深気な様子で息を吐いた。


「風景画がお好きな方だったようですよ。残存している作品の中で風景画以外のものにはまだお目に掛かったことがありませんね」


 マクミナルは何度かこの家を訪れたことがあるらしく、手近にあるものから順に解説をしてくれた。

 見るべきポイントや情報を織り交ぜた端的な説明はアルドにもわかりやすく、博物館の館長としてのプロの仕事が垣間見えたような気がした。


「なるほど…。うーん…オレは芸術ってよくわからないけど、ここにある絵はどれも素敵だなって素直に思うよ」

「流石アルドさん!!!」

「うわっ近い、…急なアップはやめてくれ…」

「この素晴らしさを感覚的にご理解頂けるとは…!いやー、それだけでも十分、ご案内した価値があるというものです!!」

「いや、別にそこまで理解してるわけじゃないけど…」


 フフッ、と小さく笑う声が聴こえ、後ろを振り返ると、側にあったテーブルに紅茶とささやかな茶菓子が用意されていた。二人が話をしている間に青年が用意してくれたようだ。

 時折こういった鑑賞者が訪れているのだろう。来客の対応には慣れている様子だ。


「いやはやしかしここにある絵画は、何度見ても本当に素晴らしいものばかりで…本当に眼福ですな。…特にこの海岸の絵は」

「ええ…この絵は僕も小さい頃から大好きで…何時間見ていても飽きないくらいでしたね。……亡くなった、僕の祖母も…」


 そう言ったきり俯いてしまった青年の様子が気になり、アルドは遠慮がちに問いかける。


「おばあさん…亡くなったのか?」


「はい、数週間前に…。僕は、昔から暇さえあれば名画集データを眺めたり、博物館に通って絵画を見ているような子供でしたから、幼い頃は友達が全く出来なくて。悲しくなるといつもこの絵の前で泣いていました。そうすると必ず祖母が隣に座って、お菓子をくれて…。二人でこの絵を観ながらおしゃべりしたのを今でもよく憶えています」


 青年は寂しげに目の前の絵を見上げた。アルドも倣って彼の視線の先を追う。



 断崖と海の絵だった。


 『セレナの風』とタイトルが掲げられたその絵は、アンティークな額縁で装われていて、両手で抱えられるほどのサイズの風景画だ。崖から望む水平線は豊かな色彩で繊細に描かれており、崖にそびえ立つ無骨な岩石が荒々しさを感じさせるが、傍の野花がその印象を和らげている。


 ふとセレナ海岸を流れる潮風を思い出して、アルドは思わず息を吸い込んだ。


「そっか…思い出がたくさん詰まった絵なんだな」

「だから僕は、祖母の最後のお願いをどうしても叶えたい…それが祖母に対する最後の孝行だと思ってるんです」

「おばあさんの、願い?」


 ボーン、と部屋に柱時計の音が響く。この時代では見かけない、年代物のアナログ時計だ。


「ああ、もう行く時間だ。…今日こそ見つけなければ」

「見つける?どこへ行くんだ?」


「祖母は生前、毎週この時間になるとどこかへ出掛けていて…おそらく野良猫に餌でもあげてたんだと思いますけど。『今でも私を待っていたらと思うと気の毒。もう会いに来ることは出来ないことだけでも伝えたかった』と亡くなる前まで気にしていました」

「えっ、猫相手に…?」

「そう…。まあ、僕も人のことは言えませんけど、祖母も少し変わったところがある人だったんですよ」


「(まあ…言葉がわかる猫も…いないわけじゃないからな)」

 

 アルドが口籠ったことには気付かない様子で、青年は話を続けた。


「…もちろん本気で猫相手に人間の言葉が伝わるとは思っていませんけど、せめて僕が代わりに祖母の言葉を届けてやりたいなと思ったんです。そしてもし身寄りのない仔だったなら、新しい家族として迎えるのも良いかなと思いまして…」


「そっか…。あんたは本当におばあさんが大好きだったんだな」


 アルドの言葉に、青年は寂しそうな、困ったような笑顔を浮かべて答えた。


「たった一人の家族だったものですから。…では、お二人ともすみません、僕はそろそろ…」

「なあ、よかったらオレも一緒に付いて行ってもいいか?」


 アルドからの申し出に、青年は一瞬驚いたような顔をしたあと、すぐに笑顔を返した。


「ええ、どうぞ!一緒に探して頂けるとこちらとしても助かります」


「それで、場所に心当たりはあるのか?」

「はい。場所はおそらく、廃道ルート99です」

「廃道ルート99?!」







 今日中に片付けなければならない仕事があるというマクミナルと別れ、アルドたちはエルジオン西にある通路から廃道ルート99へと出た。


 物悲しい、亀裂だらけの道路を、辺りを警戒しながら進んでいく。


「なあ、廃道ルート99って…おばあちゃんが1人で出掛けるにしては物騒すぎやしないか?」


「僕もそう思います。危険だから行くのはやめてくれって何度もお願いしたんですが『あの子を放って置けないから』と聞き入れてくれませんでした。せめて付き添わせて欲しいと言っても頑なに拒まれてしまって…。まあそんなに奥の方には行っていないと思うんですけど…。…うわっ!!」


 青年が突然大きな声をあげて立ち止まる。すぐ後ろを歩いていたアルドは、ぶつかる既の所で踏みとどまった。


「わっ!急にどうし…。?! あれは…!」

 青年の背後から顔を出し、行手を覗いたアルドは思わず身構えた。



 目の前に伸びる、荒廃した道路。その朽ちた道の、本来ならば何も無いはずの中空に、青い光が渦巻いている。周囲の空気がビリビリと不安定に歪む。


 アルドはそれが何か知っている。


 時空の穴だ。


「なぜこんなところに…」

 立ちすくむ青年を背に庇い、アルドは前へと躍り出た。


「あんたはここにいてくれ。オレは近くで様子を見…」

「っ!アルドさん!あれ!!」


 見ると、時空の穴から何者かが這い出てくるところだった。地に降り立ってからしばらくその場にしゃがみ込んでいたその人物は、やがてゆらゆらと立ち上がり、アルドたちの方へと向き直った。

 

 ギラギラと光を反射する金属の身体。本来目があるべき箇所についている赤いセンサーには、今は光がなく、何処を見ているのかさえわからない。

 

 アルドたちは己の背丈を優に超える巨大な無機物を息を呑んで見上げた。


「合成人間が…どうして時空の穴から?」


 剣の柄を握るアルドの手に力が篭る。


 一際眩い光を放ち、光の渦が旋回する。周囲を巻き込みそうなほどに空気を攪拌しながら、時空の穴はすぐに跡形もなく消えた。



 辺りに静寂が戻る。

 アルドはその間も目の前の合成人間から視線を外せないでいた。


「(戦うか…?しかし相手に戦う意思があるようには感じられない。…この人を危険に晒すくらいなら戦わずにいっそ逃げたほうが…)」


 アルドの葛藤を知ってか知らずか、先に膠着状態を先に解いたのは合成人間だった。

 時空の穴から現れた時と同じように、ゆらりとした緩慢な動きで踵を返し、そのまま振り返ることもなく去って行く。



 金属の背中が見えなくなって、アルドが漸く緊張を解くと、背後にいた青年がへたりとその場に座り込んだ。


「ご、合成人間が人を襲わないなんて…珍しいこともあるんですね…」

「…あ、ああ…。まあ、合成人間だからって必ず人を襲うわけじゃないよ」


 現にアルドの仲間にも合成人間たちはいる。一緒に旅をする者もいれば、戦わずに旅のサポートをしてくれる者たちもいる。

 決して数が多いわけではないが、人間との共存を目指している合成人間が存在することをアルドは長い旅を経て知ることが出来た。



「さっきの合成人間…心ここに在らずって感じでしたね…。合成人間に心があるかはわかりませんけど…」


「そうだな…確かに様子が変だった…。…さて、どうする?このまま猫探しを続けるか?」

「いえ、今日はもう帰ります…。びっくりしすぎて…足がまだ震えていて…」

 目の前で座り込んだまま動けないでいる青年の様子を見て、アルドは笑って手を差し伸べた。


「ははっ、そうだよな。じゃあ家まで送って行くよ」







「はぁ…なんだか家がとても遠く感じました…」



 自宅に到着するなり、展示スペースの来客用ソファへ倒れ込んだ青年を見届けて、アルドは踵を返した。

「お疲れさま。…じゃあオレはお暇するよ。今日はゆっくり休んでくれ」

「すみません、お手数をおかけしてしまって…」

「いや、オレの方こそ付いて行った割に何も出来なくてごめ……って…ん?」



 つい数時間前に訪れたはずの青年の自宅。

 でも何か違和感がある。どこかがおかしい。


 一見、何ら変わりないように見えるが、確実に何かが違うことだけはわかる。


 アルドはぐるりと部屋を見回す。


 ぐるぐると視界を三周させたところで、漸く目の前にある一枚の絵に目が止まった。

 


 おばあさんとの思い出の風景画。



 そこには彼が一番お気に入りだという、断崖と海の絵…『セレナの風』が飾られていたはずだ。

 

 否、絵自体は今も変わらず目の前にある。額装も絵の大きさも飾ってある場所も、絵の背景にもほぼ変化はない。

 異なっているのは絵の中心。



 断崖と水平線をバックにして、見知らぬ女性が寂しげな表情で佇んでいた。



「あれっ…!これ…ここにあったのって風景画だったよな?」

「え?…いえ、ずっとこの絵ですよ?先祖は風景画をたくさん遺していますが、残存している絵の中ではこれが唯一の人物画です」


 青年はソファから立ち上がり、アルドが指差す絵を一緒に見上げた。


「僕は子供の頃からこの絵が大好きで…どこか影のある女性なのですが、何故かこの人を見ていると気持ちがあたたかくなるんです」


 アルドは改めてもう一度辺りを見回した。室内に飾ってある他の絵には目立った変化はない。


「(他は変わりなし…じゃあなぜこの一枚だけ?)」


 アルドはまじまじと絵の周辺を観察する。


 掛けられている場所は間違いなくあの崖の絵と同じ。

 別の絵と取り替えられたような形跡もない。まるで何年も前からずっとそこに存在しているような自然さが、逆にアルドに違和感を感じさせた。

 


 今度は絵に焦点を当ててみる。


 多少濃淡の違いはあれど、背景に描かれた風景は先程までと変わらないように見える。

 中央に描かれた女性は20〜30代くらいだろうか。古代の女性特有の化粧を施された顔は、どこか遠くを見るような哀愁のある表情を湛えている。身に付けている衣服や装飾品も、古代の町で見掛けるような一般的な庶民の装いと遜色ない。


「(絵にも特別おかしな点はない…ように見えるけど…。未来の技術があれば、筆や絵の具の跡も本物そっくりに複製したり合成することも可能だろうけど、あの人の反応を見る限りそれはなさそうだ。この女性ひとだって古代の町を歩いてそうなごく普通の…)」


 そこまで考えたところで、アルドははたと気が付いた。



「なあ…この絵が描かれたのっていつ頃って言ってたっけ?」

「AD300年…ミグランス王朝時代ですね。昔、専門家に分析を依頼したことがあるようなのですが、絵の具やキャンバスの素材等から推測する限り間違いないそうです」

「AD300年?!でも、この女性が身に付けてる服って、もっと昔の…古代の衣服じゃないか?」

「アルドさんお詳しいですね!そうです…それがこの『セレナの風〜迅雷〜』の最大の謎であり、魅力でもあるんです」


「…ちょっと待って。…もしかして、それがこの絵のタイトル…?」


「?そうですよ。ほら、ここのタイトル銘板にもしっかり書かれているでしょう?」


 青年の指差す先をみると、間違いなく『セレナの風〜迅雷〜」と彫られたプレートが貼り付けられている。


「(さっき見た時は『セレナの風』だったと思うんだけど…。絵が変わったからタイトルも変わったのか…?それにしても…)…これ、絵のメインは女性だし空も晴れてて青いのに…なんで『迅雷』なんだ?」


 アルドの問いに「待ってました!」と言わんばかりに、鼻息荒く青年が目を輝かせた。


「それも、未だに多くの学者やミステリーハンターたちの心を掴んで離さない理由の一つなんですよ!何故この一枚だけ人物が描かれているのか。何故描かれた時代と衣服がそぐわないのか。「迅雷」とは一体なんのことなのか。そしてこの女性の正体とは…。それらを解明するべく、長年研究を続けていらっしゃる方も大勢いるんですよ!」

 

 アルドの中で、ぞわぞわと違和感が広がっていく。


「…亡くなったおばあさんも、この絵が好きだったのか?」


「ええ、とても。だからどんなに売って欲しいと大金を積まれようが、決して首を縦には振りませんでした」


「大金?この絵を欲しいって言ってきた人がいるのか?」


「ええ、それはもう大勢いますよ。何せ、風景画ばかりを描いていた画家の、たった一枚の人物画。しかも謎に満ちた絵でしょう?世間ではとても値打ちがあるものと言われているようで…今でもバイヤーだとかコレクターだとか言う方が頻繁に交渉に訪れていますよ」


 僕も売る気は毛頭ないですけどね、と笑う彼に曖昧に返事をしながら、アルドは頭の中の記憶を必死に辿る。


「(前に聞いた話と違う。マクミナルのおじさんと三人でこの絵を観ていた時にそんな話は無かった…家を出る前までは、確かにただの風景画だったはずだ)」


 考え込むアルドの隣で、青年は少し躊躇いながらもぽつぽつと語り始めた。



「こんなことを言うと変な奴と思われるかもしれませんが…僕は本当にこの絵が……いえ、この絵の女性のことを…愛している…のかもしれません」

「えぇ!?絵に描かれた人のことを?」


 アルドが思わず声を上げると、青年は困ったように微笑んで、少し間を置いてから再び話を続けた。



「やっぱり変だと思われますよね。いえ、自分でもわかってはいるんです。でも、昔からこの絵を観ていると…懐かしいような切ないような気持ちで胸がいっぱいになるんですよ」


「変…とは思わないけど…。でも会ったことも話したこともない人のことを、なぜそこまで?」


「自分でもよくわからないんです。この湧き上がってくる気持ちが何なのか…言葉では表せない感情だから、もしかしてこれは恋なのではないか、と思うんです」


「…おばあさんにその話をしたことは?」

「もちろんあります。この苦しい気持ちの名前が知りたいと言うと『いつかわかる日が来るかもしれない。とても素敵なものだから大切にしなさい』と…。祖母以外誰にも理解されたことが無いので、もう何年も人に打ち明けたことはなかったんですが…」


 青年の言葉に、アルドは思わず目を見張った。


「そんな深い話をなぜ出会ったばかりのオレに?」


「さあ…なぜでしょうね…自分でも不思議なんですけど…。でも、そうですね…アルドさんがどことなく…祖母に似てる気がしたから…でしょうか」


「えぇっ、オレが?」


「ははっ、なんとなく、ですよ。気を悪くしないで下さいね。……そういえば…」


 青年は再び絵を見上げて言葉を続ける。


「祖母がこの絵を観ているとき、度々「偶然ってあるのねえ」と言っていたのが気に掛かっています。何のことか聞いても絶対に教えてはくれませんでしたが…。まあ今ではもう真相を知ることは出来ないのですけどね」







 青年の自宅を後にし、アルドは一人立ち止まって考え込む。


「どうしてあの一枚だけが変わってしまったんだろう。変化に気付いているのはオレだけみたいだったし…。あの女性は一体何者なんだ?」


 マクミナルと出会ってから青年を自宅へ送り届けるまでの出来事を順に頭の中で追っていく。


「それに、あの時空の穴から飛び出してきた合成人間…。あの様子もなんだか気になるな」


 アルドの足が自然とエアポートへと向かった。


「あの人の先祖、王都で活動していたって言ってたよな…。…王都…一度ユニガンに行ってみるか」

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