エンド・ペヴェンシーの人生

真希波 隆

episode1 whereabouts

 エンド・ペヴェンシーの話をする前に、彼にとってのとっておきを紹介しよう。僕はサイボーグとして生まれ、読み書きを習い、こうして文章をしたためられるまでに成長した。成長という言葉を使うと、エンドはとても嫌な顔をする。彼は平然と言う。「サイボーグは成長しないから、サイボーグなんだ」と。

 僕はとても嫌な気持ちになる。でもそのことをエンドに伝えると「そういう風に造ったからだ」と答える。彼は言う。「お前は自分が人工的に作られていて、人造人間であり、それ以上でもそれ以下でもないことを理解しなければならない」と。

 そう。とっておきを紹介しなければならない。僕は発明され、同時期にスチュアートという名前のドラゴン(有翼竜)を発明している。僕が哺乳類の人体実験の産物ならば、スチュアートは爬虫類の実験の産物なのだ、とエンド・ペヴェンシーは言う。

 スチュアートは言葉を介し、僕と意思疎通を図る。僕はスチュアートに言語を教えた。しかし、彼には彼独自の言語があるという。言語。いいや、違う。思考をそのまま念力のように、伝えることができるそうだ。僕にとって、それはあまり信じられる現象ではなかったが、実際にやってみせると言われ、それは成功した。

 彼は言った。

「お前の心が読める。お前は死刑囚だった体にクリエイターの脳髄をあてがわれている機械人形にすぎないのだ。お前がどうあがこうとも、その事実は変わらないし、そのことについて誰も何も言わない。しかし、お前は真実を知った」

 スチュアートは笑った。下品な笑顔だったが、愛嬌を見出そうとすれば、それは可能だった。僕も微笑んだ。サイボーグなりの精一杯の微笑。

 現在、彼、スチュアートは研究所から脱走し、一つの都市を陥落させた。ミネルヴァ・シティという名前のその都市は腐敗した政治家の温床で、それら全てを彼は体中からあふれでるエネルギーで焼き尽くした。エネルギー。そう形容することしかできない。サイボーグである僕はそれを見ていた。アレック。それが僕の名だ。

 物語は突拍子もなく、始まる。物語の始まりとしてふさわしいのは、裏切りだとか背信行為だ。僕は今から、エンド・ペヴェンシーを暗殺し、それからスチュアートを退治して、ミネルヴァ・シティの英雄となり、生涯の安定を約束された環境に身を置くことにした。世界はきっと僕の味方をしてくれる。なぜ?

 僕がきっと、たぶん、もしかしたら、世界でいちばん、不幸だからだ。

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