第17話「アサギ VS レキ ②」

 アサギとレキが模擬戦を始めてから既に五分が経過していた。最初から全開でやっていたのか、アサギもレキも肩で息をし始めている。だがしかし、それでも諦める様子は互いにないようだ。

 いつまで続けるのか分からないが、互いに諦めるまでやり続ける可能性は十分にある。それを知っているユートは、欠伸をしながら頬杖をして模擬戦の様子を見守っていた。


 『なぁ若旦那』

 「何だよ、おっさん」

 『最近の様子はどうだ』

 「それはどっちだ?……俺達の事か?それとも外の方か?」


 道具屋の主人である彼の言葉を聞いた瞬間、ユートは目を細めて声色が真剣なものに変わった。――それはユート達についての話なのか、それとも外についての話なのか。という意味で問い掛け直していたからだ。

 そんなユートの声色で理解したのか、彼はそれに応えるようにして小さく告げた。


 『バグの奴は、ここに攻めて来ると思うか?』

 「……さぁな、今のところは分からねぇよ。奴等は知能もあるから、遭遇したら一筋縄じゃいかない。まず間違いなく、ここを攻められたら俺達は終わりだ」

 『何故、そう断言出来る?』

 「アンダーグラウンドは他の市場に繋がってる。言い方を変えるなら、俺達が隠れて暮らしている街が露見するって事だ。そうなりゃ、バグは一斉にここを攻め落とそうとするはずだ」

 『そうならねぇ事を祈るしかねぇな……』

 「そうだな。まぁ俺達が全て倒せれば、それで問題は解決するんだけどな」

 『あぁ、若旦那はここに居る奴等全員の希望だ』

 「背中を叩くな」


 彼はそう言いながら背中を叩き、ユートはよろめきながら苦笑した。自分達の場所は、自分達で守り通すつもりだ。しかし、まったく不安が無いかと聞かれればそんな事は有り得ない。

 今こうしている間にも、地上ではバグが自分達を探している。もしかすれば、この場所も長くは持たない可能性だってあるのだ。何が起きるか分からない。

 それが今の世界であり、この世の現状だと言える。そう考えながらユートは、再び組手を始めようとするアサギとレキに視線を戻すのであった。


 「っ……チッ、しつこい!」

 「アサギ、諦めが悪い」

 「あんたの方が諦め悪過ぎ!さっさと降参しなさいよっ」

 「冗談。レキの方が強い。それを認めないアサギが悪い」

 「はぁ!?あたしの方が強いでしょうが!!これまで何体のバグを倒したと思ってるのよ」

 「それは間違い。アサギが倒したんじゃなくて、ユートが全部倒してる」

 「ぐっ、あたしも倒してるわよ!!組織で上がってるデータを見てみなさいよ!!データを見るのもあんたの仕事でしょうがっ」

 「レキはユートが全て。ユートのデータしか興味ない」

 「こっわ、あんたストーカーか何かなの!?そんなのユートは面倒だって嫌われるわよ絶対にね!」

 「……」


 アサギのその言葉が気になったのか、レキはゆっくりとユートの方へ視線を向ける。その目は「アサギの言ってる事は本当か?」と問い掛けているようだった。

 項垂れたような体勢を取ったレキは、そのままの体勢でジッとユートを見つめ続ける。徐々に近寄る姿は異形の奇妙さがあり、微かに殺気が混ぜられている事にユートは気付いた。

 

 「……ユート、ほんと?レキ、ストーカーだと思う?」


 そう言いながら、レキはユートとの距離を一気に詰めたのである。その距離、わずか数センチ……。

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