僕は友達が少ない

 僕は友達が少ない。


 これは、僕自らが誰かと仲良くなれる機会を何度か掴もうとしなかった、ということによって生じた結果である。

 たとえば隣の席の男子が話しかけてくれたときとか、部活を通してメンバーと仲良くなったりとか。はたまた『友達の友達』は友達になれるかもしれない、とか。そういう機会は何度かあったが、どうも上手くいかない。

 理由は単純──気が合わなかったってだけで、僕との距離が離れていったからだ。


 僕は基本、誰かとコミュニケーションをとるのが苦手だ。コミュ障と言っても間違いではない。

 人見知りだし「声が小さい」とも言われるし。自主的に話題とか振れないし、日常での面白い話なんてできない。そもそもそんな話すらない。

 できるのは趣味の話──好きなアニメやゲーム、あとサッカーの話題など。

 しかし自分から一方的にその話題を振っても食いつかれなかったり、うまく続かなかったりして、最終的に疲れてしまう。

 そして相手も疲れさせてしまうからか、自然と距離を置くことも、置かれることも多々あった。


 ということで僕は『気の合う相手以外とは仲良くなる気はない』と殻にこもって生活することにした。

 もちろん友達は少ないままだし、クラスや部活では僕を朴念仁ぼくねんじん──無口で不愛想なやつと言われるようになった。

 女の子に告白したこと? そんなの一度もないね。


 だが、これでいい。

 だって僕には気の合う相手が二人もいるんだから──。


 今から話すのは、僕にまだ友達が一人しかいなかった頃の話。

 僕にとっては二人目の親友にして、唯一の女友達ができるまでの話だ。



 〇



 今から三か月前、四月初旬の出来事だ。

 ここは私立平手しりつひらて大学附属高等学校──通称、平高ひらこう

 ここは県内有数のだ。もちろん女子生徒なんていない。

 しかもこの学校、全校生徒の99%が「彼女がいない」と答えるほど、非モテが集まる学校として有名である。


 その理由は何か? 目の前で起こってることが証明してるので、是非見て欲しい。



「エ〇本じゃんけぇぇぇぇぇぇん!!!!」

「「「「うぇぇぇぇぇい!!!!!」」」」


 外したメガネをかけ直すと、部室でむさ苦しい動物たちがぎゃんぎゃん騒いでいるのが見えた。視界が開けた瞬間、ダントツで見たくない光景だ。

 もう一度言う──ここは高校だ。男子校だ。富〇サファリパークや姫〇ンではない。

 女子がいないのをいいことに頭のネジを外す、理性を捨てたやつが多いだけだ。


 部室のベンチに並ぶは、数多のエ〇本。三次元から二次元の同人誌まで。中にはこの前、メ〇ンブックスで見たエ〇同人誌まで……って、何を解説してるんだ僕は。


「エ〇本じゃんけん!じゃんけんぽん!! しゃあああああ!!!!」

「あぁぁぁ!!!!!!」


 じゃんけんの勝敗に騒ぐ猿たちを後目しりめに、僕は部室を出た。

 練習が終わって30分も経ったのに、部室を出たのは僕が一番だ。


「……時間が勿体もったいない」


 僕は自主練のため、ボールを持って学校近くの公園へ向かった。



『なぁなぁ、平女ひらじょで誰が一番可愛いか決定戦やらん?』

麻衣まいしか勝たん』

『はい、彼女持ちは黙れ~w』

『お前はよ麻衣ちゃんとこ行けよw』


 校門を出るサッカー部員たちに目線を向けず、僕は一人、公園でリフティングに集中する。

 平女──平手ひらて女子高等学校は、僕ら男子校と道路を挟んで隣にある女子校だ。

 そんな平女で誰が可愛いかって? そんなの無回答だ。他校の人間なんて知らないし、興味もない。


「……やっぱ静かなのが一番だな」


 公園には誰もいない。わずかに聞こえてくるのは野球部員たちの雄叫びだけ。

 それでも僕は気にせずリフティングを始めた。

 いつものことだが、こうやって自主練に励むのは僕だけ。かと言って『僕だけ真面目に練習してて偉い!』なんて微塵も思わない。

 だって僕がこうやって一人で残るのは、全く気の合わない部員たちと同じ時間に、同じ帰り道を歩きたくないからだ。


「……さて」


 今日もいつも通りボールを落とさずリフティングをしてから、新しい小技の練習でもしようか。それともこの前の大会を見直して一人反省会もありか?

 そしてそれをいつも通り、野球部のグラウンドが静かになるまで続けようか。


「あっ……」


 蹴っていたボールが横に逸れ、ライトの当たらない暗闇へ転がっていく。

 いつもはボールを蹴ることに集中しなくてもこんなミスをしないのに……。少しいじけた気分でボールを取りに行くと、一人の少女がボールを拾って僕の元へやってきた。


「毎日一人で残って自主練。真面目さんですね?」


 制服のセーラー服の下にピンクのカーディガンを着た少女は、微笑みながらボールを手渡した。

 毎朝見慣れた高校のセーラー服──どうやら平女の生徒みたいだ。

 そして新年度から新しくなった、と噂のカバンを持っている。一年生だろうか。


 しかしそんなの、僕にはどうでもいい。


「……ありがとう。それじゃ」

「まだ帰らないんですか?」

「……あぁ」


 そうだよ。だからキミは暗くならないうちに帰りな?

 手でシッシッと追い払うが、それでも彼女は帰る素振りを見せない。

 それどころか公園のベンチにちょこんと腰掛けた。


「いえ、私、先輩が帰るまでここにいます」

「……なんでだよ」

「私、先輩とお話してみたいなーと思って」


 どうやら平高ひらこうサッカー部員恒例(?)の、平女にアプローチを受けるイベントが始まったらしい。

 ……なぜだ? なぜ僕を選んだ? 

 

「ほら、やらないんですか? 自主練」

「……帰る」


 そしてなぜ僕に近づくのかは知らんが、とりあえずここから立ち去ろう。あとは家の近くの公園でリフティングだけでも──。


「それじゃあ先輩」


 すると後ろから服のすそをキュッと掴まれた。

 驚いて後ろを振り向くと、彼女は無邪気な笑顔で言った。


「私と一緒に帰りましょ?」



【あとがき】


「続きが気になる!」という読者様にお願いです。

良ければ☆や応援、応援コメント、作品のフォローなどしていただけると嬉しいです!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る