中学生最後の日〜私はあいつに告白をする〜

ソラノ ヒナ(活動停止)

前編 

 この想いを伝えたい。

 それだけの為に、私はこの階段を上る。



優衣ゆい〜!」


 慣れ親しんだ声で名前を呼ばれ、私は振り返った。

 そして、他の通学中の生徒の中に、友人のひいらぎ花澄かすみの姿を見つけた。


「おはよ! 今日は珍しくゆっくりだね」


 いつもなら教室で本を読んでいる花澄がこんな遅くに登校している事を、少しだけ不思議に思った。


「昨日の、凄かったからさ」


 顔を赤らめた花澄がコソコソ話し始めた。


ってさ、クラスページの事だよね?」


 私も花澄と同じくコソコソと返事をする。


「みんなの回答が個性的で、いろいろ考えてたら外が明るくなってた」

「夜通し考えてたの!?」


 その事実に驚いて、私は声を荒げてしまった。


「しー!! 優衣は普通でも声が大きいんだから、静かにして!」


 花澄は人差しを自分の口に当てながら、必死な顔で私に注意をしてきた。


「ご、ごめん。文芸部だっただけあるね、花澄は」


 花澄に注意されたので、私は小さな声を心掛けた。

 そして花澄はまた顔を赤らめると、歩きながらも妄想の世界へと旅立ったようだ。


 私のクラスは卒業アルバムのクラスページに、アンケートの集計ランキングを載せていた。

 ただ、例外で『どんな場所での告白が理想?』というアンケートだけ回答がバラけた結果、記載された。


 昨日のクラスページの下書きを見せられた衝撃を思い出して、私は手にグッと力を入れた。


『世界の中心で愛を叫んでほしい!』とか、『夢で告白されて、目が覚めたら本人が目の前にいて、本当に告白された』とかさ、なんなの? もっと現実的な場所を書いてよ。

 しかもみんなの確認無しで卒業アルバム制作をお願いしちゃってるとか、あり得ないし。なのに担任は『青春だな!』で、終わらすって、どーよ。うちのクラスもみんなアホだから、『いいじゃん、これ!』とか言って、終わり。

 アレだけ見ると、こんな風に告白してくれっ! って自己紹介しているとしか思えないでしょ。


「しかも『卒業式の日』とか」


 私は私であいつの回答を思い出して、ぶつぶつ文句を言った。


「『卒業式の日』に何かあるの?」

「うわぁっ!!」


 私の想い人、小鳥遊たかなしれんの声がすぐ後ろから聞こえ、叫んだ。


「ちょっと、朝からうるさいんですけど。一ノ瀬いちのせは隣の柊から、落ち着きというものを学んだらいいよ」


 こっちはそれどころじゃないんだけど!

 まさか、本人に聞かれるなんて!!


 そう思いながら振り返る。

 けれど好きな人と通学中から会えた事が嬉しくて、私は少しだけにやけそうになった。


「か、勝手に盗み聞きしといて、うるさいって何!? それに花澄は——」

「おはよう。小鳥遊と会うなんて、そろそろ時間、やばいの?」


 か、花澄? なんでしれっとしてるの!?

 それにいつの間に妄想の世界からこっちに戻ってきた!?


 なんだか友人に裏切られたような気がして、私は愕然とした。


「おはよ。さっすが柊だね。お察しの通り、あんまりのんびり歩いていると遅刻するよ」


 得意気な顔でふざけた返事をする小鳥遊に、内心イラッとした。


「それ、ドヤ顔で言うことなの? 部活やってた時は普通に早起きしてたよね?」


 すると小鳥遊は小馬鹿にしたような顔で私を見ながら、ため息混じりに返事をよこしてきた。


「俺はやれば出来る子なんです。ただ、普段は早起きなんてしたくないんです」

「何それ。余計にタチ悪いじゃん」


 あまりにも酷い言い訳に、私は思わずそうつっこんだ。


「一ノ瀬だって部活なくなったら、ギリギリに登校してるよね? 人の事、とやかく言える立場じゃないよね?」

「うっ……」

「まぁ、確かに」


 何か反論しようとしたら、またも友人に裏切られた。


「っていうかさ、そろそろ本当にやばいよ。2人共、話の続きは教室でどうぞ」


 花澄のその言葉で周りを見回すと、通学中の生徒が殆どいない事に気付き、私達は急いで学校を目指した。



「間に合った」


 始業ギリギリに教室に着いた私はそっと呟いた。


「なに? 嫌味?」

「はぁっ!?」


 くっ……!

 こいつ!!


 幸か不幸か、私と小鳥遊は隣同士の席だ。


 なんで私はこいつが好きなんだ……。


 そう自身に問い掛ければ、すぐに答えが返ってくるのなんてわかり切っているのに、私は席に着きながら好きになったきっかけを思い出していた。

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