花見






 観に行こうと思ったのは、完全に物見遊山だった。

 神が汚された閑雲の土地を閉じ込め、死海の頭上にて清め、数年後に消滅めしませてくださる。


 いつもの如く。


 御触れが国中にばら撒かれた。

 同じ事が百年に一度、あるかないか。

 親が子に聴かせ、その子が親になって子に聴かせる。


 当たり前の光景だと沁みつかせる。


 人が処理できぬ汚染を、神が処理してくれるその恩恵。


 神は最初から手を下さない。

 人ではどうにもならないと判断して、手を下す。

 だから犠牲者が出たとしても、それは、仕方がない事。


 人が未熟な所為。

 当たり前の事象。

 命だけでも助かってよかったと。


 昔語りのはずなのに浸透している。


 現実であったとしても。




 感想を抱く。

 土地などどこでも構わない。

 命さえあればやり直しができる。


 そう思っていたのは、着の身着のまま旅をする風来坊だったからだろう。



 一番手にはなれない。


 事実を受け入れて、そう決めてしまってから、忍びを脱退した。

 やる気が殺がれたのか何なのか。未だ明確な理由は見いだせないが、旅を好んでいたからもう、わだかまりはない。



 気の向くままに、足の赴くままに、色々な土地を渡り歩いている最中の御触れ。


 百年に一度、あるかないかの現象。

 観てみたい。

 珍しいその光景を。



 そうして踏み入れた海岸。

 辺り一面、透き通るように真っ白で細やかな砂と、空を映し出しているような清廉とした蒼の海。遥か頭上には岩が何百、何千、何万とぶつかり合って、重なり合って、繋がり合ったような、岩だけで創られた一つの世界。



 その狭間に座っている、一人の少女。



 その名を彼女の口から聴いたのは、三年も先の事。














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