From Asgard with hatred

COTOKITI

第1話 プロローグ

異世界転生がどんなものか、ハッキリ言ってやろう。


ソイツはロクでなしのクソッタレだ。


今やWeb小説のランキングを埋めつくし、多くの若者の憧れる異世界転生。


緑豊かで綺麗な世界。


平和な暮らし。


美しくて最高にクールな魔法。


美味い飯


伝染病に侵されていない街中。


そして、明らかに作者……もとい、主人公の性癖にどストライクな美少女の群れ。


これが異世界転生のテンプレであり、理想だ。


言っておくが、そんな幸福に満ちた世界は有りやしない。


コレが、異世界転生の現実だ。




《こちらアルファ04! 10時の方向に敵増援多数!! 対戦車兵器を視認!!》


《撃たせるな!!先に狙撃しろ!!》


《アルファ14、ロスト!!》


《再装填!カバー頼む!!》


《クソっ!!右腕がやられた!!》


《後退しろ!!カバーする!!》


平原に響き渡る砲声。

鋼の巨人がその身の丈に合った巨大な銃を構える。

前方には敵の鋼の巨人がさらに複数、数えれば凡そ30機はいる。


けたたましく砲声が鳴り響く度、空薬莢が重い音を立てながら地面に転がる。

76mm弾と65mm弾の応酬は数十分前から続いており、複合装甲の盾は弾痕まみれで元あった塗装も分からなくなっている。


数百m先の茂みには敵の狙撃兵が150mm滑腔砲でこちらを狙っている。


《10時の方向……見えた!敵狙撃兵!!》


《やれ!》


味方の狙撃兵から放たれた120mmのAPFSDSが空を切り、ダーツの矢の如く敵狙撃兵の胴体に突き刺さる。


敵は被弾の衝撃で仰向けに倒れた後、動かなくなった。

コックピットブロックが射出されていない事からして、中のパイロットは生きていないだろう。


《一機やった!》


《まだいるぞ!引き続き狙撃しろ!》


草原の向こうにある森の中の至る所から敵のマズルフラッシュが見える。

65mm弾が時折装甲を掠め、激しく火花が散る。

頭部の装甲に掠った弾によってメインカメラが揺さぶられ、コックピットの映像が一瞬乱れた。


頭部メインカメラと胴体サブカメラが暗闇に瞬くマズルフラッシュを元に敵の位置をリアルタイムで網膜投影で映し出される映像に反映する。


しかしそのマズルフラッシュも少しづつだが数を減らしてきている。

この調子ならば敵を突破も出来そうだ。


《『ラタイェスカ』まで後何キロだ!?》


《コイツらを蹴散らせばすぐそこだ!!》


《早く突破しねえと守備隊が持たねえぞ!!》


メインカメラ越しに敵の曳光弾が機体を掠めるのが見え、それがパイロットの焦燥感を煽る。


《アルファ01から各隊へ、突撃隊形に移行せよ!》


大隊長からの号令があると、大隊は大型の盾を持った機体を前衛にただの横陣から楔型陣形に移行し始めた。


《突破地点を戦域マップに表示する。 遅れるなよ!》


大隊長の機体からデータリンクでマップ上に突破地点が表示された。

そこはこちらの大規模な火力投射によって守備に綻びが出来ていた。


《シールド、構えろ! ファイアチームは前衛に速度を合わせろ!》


前衛が盾を構え、後衛の機体の姿が完全に隠れた。

敵も楔型陣形に気付いたらしく、迎撃するべく陣形を変えようと動き出していた。


彼ら双方の機体の動きはまるで歩兵そのもので、統制の取れた動きに乱れは一つとして無い。

彼らはこの戦いの為に鍛え抜かれて来たパイロットだ。

訓練の成果は確実に出ているだろう。


《全機突撃開始!!》


斜面から前衛の盾持ちが飛び出し、それに続いて後衛も続々と出て来る。


盾持ちの機体一機につき後衛が三機。

それが楔型に並んでこの陣形が作られている。


絶え間無く響いていた銃声が更に増し、盾はその攻撃を真正面から受け止める。

敵は65mmの嵐を浴びせながら、65mmライフルの銃身下に装着された200mmのグレネードランチャーまで発砲する。


榴弾砲クラスの砲撃を受けた盾持ちは大きくよろけ、体勢を崩される。


《ぐううっ!!》


《持ち堪えろ!!後衛が蜂の巣にされるぞ!!》


何百発もの砲弾による集中砲火を受けながら大隊は急速に敵陣との距離を詰める。


胴体と脚部に取り付けられたホバー用メインモータと推進用メインモータ、そして姿勢制御用バーニアスラスタが火を噴き、草原の雑草を焦がす。


《敵、突破するぞ!!》


《近接戦闘用意!!》


もう敵はメインカメラをズームしなくてもはっきりと分かるぐらい近付いていた。

前衛の盾持ちは何とか耐え切ってくれたようで、脱落者は一人としていない。


前衛の最先頭が遂に敵陣を突破した。

前衛が突破すると、後ろにいた後衛の部隊が即座に散開し、敵への攻撃を始める。


その内の一機、一人の青年の乗る機体が目の前の敵機を捉える。

透かさず操縦桿のメイン兵器のトリガーを引き、FCSのロックオンした敵機に発砲する。


アサルトライフルから発射された76mmの劣化ウラン製高速徹甲弾は寸分違わず狙った位置、メインカメラに直撃し、頭部パーツ丸ごと吹き飛ばした。


我武者羅にばら撒かれる敵弾を装甲で往なしながら動きの止まった敵機の背後にホバー移動で回り込む。


左手のスロットルレバーの傍にあるタッチパネル式の操作盤を操作すると、彼の機体はアサルトライフルを右手から左手に持ち替え、右手に装着されていた近接武装を展開した。


その武装の形は一言で表すならばチェーンソー。

しかしそのチェーンソーの刃一つ一つが赤熱し、暗闇の中で輝いていた。


敵機が反応する暇もなく轟音を立てて回転するチェーンソー、『ヒートチェーンブレード』を背中に突き刺す。

激しく回転する刃が敵機背面の装甲を融解しながら削り取り、そこに機体の質量も加わり、コックピットを貫き胴体正面の装甲から切っ先が突き出た。


パイロットの物であった鮮血は熱によって瞬時に蒸発し、臓物は炭化して空に舞った。

彼はレーダースクリーンを見て自分の背後に二機敵機がいることを確認するとブレードに敵機が突き刺さったまま振り向き、突撃する。


味方機を盾にされた敵側は目の前の彼を撃とうにもIFFがアサルトライフルのトリガーをロックし、もたついている間に盾にされた味方機の腋下から突き出されたアサルトライフルによって蜂の巣にされた。


完全に機能停止した機体は、頭部パーツを強制パージしその穴からコックピットブロックが射出され、同時に点火されたロケットブースターで空の彼方へと飛んで行った。

運が良いパイロットはあのようにして緊急脱出装置によって生還する事が出来る。


ブレードを引き抜き、残骸を放り捨て肩部9連装グレネードランチャーから発煙弾を発射し敵の視界を潰す。


信管が作動すると発煙弾の弾頭が空中で分裂し、中の赤リンのペレットがばら撒かれる。

放出されたペレットは激しく燃焼し、白煙を広範囲に発生させる。


可視光だけでなく赤外線すら遮断するこの装備はこういう戦いには丁度良かった。

白煙で何も見えない森の中を突き進み、メインカメラの映像だけを頼りに敵を探す。


その時、煙の中から離脱を試みていた敵小隊の姿が見えた。

迷わずスロットルレバーを押し倒し、後方にいた孤立気味の敵機を狙った。


敵機もこちらに気付いたが、明らかに反応が遅かった。

アサルトライフルを構える前に彼が右腕を撃ち抜いた。


敵の武装を潰した次は、76mmアサルトライフルの銃身下の200mmグレネードランチャーを胴体に向けて撃つ。

200mmの榴弾は機体の腰の付け根辺りに命中し、コックピットブロックごと吹き飛ばした。


「あの動き……まだ新兵だったか。 いや、気にしてる場合じゃないな」


一機撃破したらすぐに離脱し、発煙弾で視界を潰しつつホバリング移動しながら次の攻撃の機会を狙う。


レーダースクリーンに敵影が更に三つ。

接近警報がコックピット内に鳴り響く。

白煙の中から飛び出して来た敵機は右手の『高周波パイク』を前に突き出し、飛び掛かる。


「……ッ!!」


咄嗟に回避機動を取る彼だったが、敵はそれを見逃さず機動を予測してパイクで突いて来た。

コックピットへの直撃は避けられたが、その代わりに左腕を持っていかれた。


「速い……!! エースパイロットか!!」


アサルトライフルを構えてバースト射撃を行うが、どんなに精密に撃っても相手は容易く躱し、往なしてしまう。

それに左腕を失ったことにより射撃の精度もかなり落ちている。


《アルファ05!!無事か!!》


相手が反転して再攻撃に移ろうとした所で味方機から無線が入り、同時にこちらを狙っていた三機が去っていった。


周囲を見ると味方機が五機、接近してきていた。


《アルファ05!! 部隊の最小単位はエレメントだと言った筈だ!! 単独行動は許さんぞ!!》


「アルファ05よりアルファ01 、そりゃ出来ねえ相談ですね。 あんな扱いを受けて、誰かと組もうとなんて考えると思いますか?」


彼の言葉に無線の先の女は溜息をついた。

今の今まで彼は頑なに誰かと連携する事を拒み続けていた。

パイロット候補生時代の事を考えれば、他人を信じる事が出来なくなるのも無理は無いが。


《それには同情するが、今は任務中だ。 嫌でも従ってもらうぞ》


《大隊長、こんなろくでなしのニンゲン野郎なんか放っといてラタイェスカに急ぎましょうぜ!》


無線に割り込んできたアルファ06が大隊長を急かす。

アルファ05の機体に侮蔑の視線を送りながら。


《いいか、この国で人間種である貴様の身分を保証してくれるのはこの『亜人解放戦線』だけだ》


大隊長は諭すように彼に言う。


《もし兵士として戦う意思が無いのであれば、即刻貴様をコックピットから引きずり出して置いて行っても構わんのだぞ?》


そう言われて、彼女は微動だにしていないのに彼はまるで額に銃口を突き付けられているような錯覚に陥った。


《まぁ、『ナルシュ王国軍』の連中が同じ人間種とはいえ、テロ組織に加担した貴様を捕虜として扱ってくれるかは知らんが》


「……了解」


従う他無かった。

王国軍に捕まった連中がどうなったか、彼は実際に見ているのだから。








































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