第4話 母 考察

 僕の名前は久留美秀人。

 母の名前は久留美真純。

 30歳の時に僕を産んだ、腹を痛めた方の親である。

 旧姓石田で、その家の一人っ子として育った。母方の家も特に家業を持つことはなかった。最初はOLをしていたというが、父と結婚してからは専業主婦になった。

 子供が三人もいるから、働いているような暇はなかっただろう。ご飯をつくり、掃除をし、洗濯をし、風呂を沸かす。専業主婦としての仕事を全うしていたように思う。

 主婦として家を守ることはできていたが、子供を育てられていたかというと疑問が残る。

 体の成長に必要なものは与えられていた。けれどそれは最低限のものでしかない。

 心の成長を促すようなことは、母から与えられた覚えはなかった。

 それでも、三人という少なくない子供たちを夫の少ない給料の中で育て上げたのはすごいことなのかもしれないい。

 母は三兄妹の中では、僕を贔屓していたように思う。僕からしてみたら良いことだが、だからといって、なにか得したかと問われれば、そうではなかった。

 兄や妹よりかは優しくしてくれた。ただそれだけだった。

 成人してから気づいたが、母、真純が僕に優しくしてくれたのは、兄妹の中で一番物分かりがよかったからだったのだろう。

 兄は親から言われたことは守っていたが、それは決して従っていたわけではなかった。兄は頭がいい。だから自分がどうしたら得なのかを心得ていた。親から言われたことが自分に得だったからやっていたし、それが自分の為だとわかるように行動していた。母はそれが気に食わなかったのだろう。

 妹は親の言うことというより、世の中の守るべきルールを守っていただけのように思う。妹もまた頭はいいが、兄とはまた異質だった。

 物事は自分自身で考え、頭に浮かんだクエスチョンマークが消えるまで考えつくす。納得がいかなければ駄々をこねる時もあった。

 それでも諦めず自分の納得のいく回答を得るまで考える。母は一言目で肯けない妹が気に食わなかったのだろう。

 それに比べて僕は、親の言うことはとりあえず聞いておく。母の目から見れば純粋な聞き分けのいい子供だったろう。そういう子供が好きなのだろう。

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