3-5

「ヒロさん」

 ヒロは後ろからの声に振り返った。

「カオルちゃん」

 久しぶりに会ったカオルだったけれど、ヒロは昨日も会っていたような錯覚を覚えた。変わってないな。

「人だかりができてるね」

「はじめはみんな通り過ぎるだけだっただけど」

「今日は花見から流れてくる人が多いみたいだね。だんだん集まってきた」

「場慣れはしてるはずだから。昼間は久しぶりで声が出てなかったけど、良くなってきた」

「お姉さんから聞いたの」

「おねえさん」

「そう。千草さん」

 カオルは黙ったままヒロの顔を見ている。

「そうか、ユキさんのほうがいいんだよね」

「それにここで歌うこと決めたのはホテルに入ってからだから、お姉さんが知ってるわけないか」

 カスミの前にいた人たちが散らばっていく。ギターをケースに入れながら何人かと話をしたあと、カスミがヒロのいるほうに歩いてきた。

「CDはないんですかってきかれちゃった。うまくいったね」

「カンが戻ってきたかな」カスミはそう言いながら、ヒロの隣にいるカオルを見ている。

「カオルちゃん。あの店の」

「お姉ちゃんのお友だちですよね。カスミです。よろしくお願いします」

「ヒロさんとも友だちよ」

「そうですね。あの時は会えなくて」

「やっぱりあたしを待ってたカップルってヒロさんたちだったんだ」

 カオルはヒロのとなりで笑っているカスミを見ている。

「明日は来れないって聞いたけど」

「コンビニをやっている人がカスミの知り合いでね。その人と交代するんだ」

「お姉さんみたいな人なんです」

「そうなんだ」

「ちょっと恐い感じの人だね」

 カオルが店に戻ったあと、カスミがヒロにそう言った。

「そんなことはないんだけど、ちょっと誤解されやすいかな」


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